第18話③シーズン開幕
チームが用意したバスで自分たちのホームスタジアムに到着した田﨑たちは目を疑った。
バスから降りてきた田﨑たちをかとうを先頭にファンが大きな歓声で出迎えていた。
戸惑う田﨑たちに
「頑張れ」という声が色々な場所から届いた。
選手たちは感極まり涙目になりながら、ファンの方と目を合わせ、タッチをしてから控え室へ向かった。
控え室へ向かう途中、スタジアム前のイベント会場に目をやり田﨑は再度驚いた。
イベント会場に人が溢れていた。
思わず足を止めて見ていると一際長い行列の先に松戸がいた。
松戸たちのVR体験コーナーだった。
かとうのVR体験記の投稿が瞬く間に拡散され、ファンたちがたくさん集まってくれた。
体験した人がまたSNSに投稿し、さらに希望者が続出した。
口々に
「ファンの夢」
「推しとチームメイトになって一緒に走る幸せ」
「尊い」
など話していて、ファンの方の夢を叶えるため、松戸や開発チームは忙しく動いていた。
お揃いのTシャツを着た見知った顔をたどって行くと輪の中心に村西の姿を見つけた。
もともと忙しいのに、吉川の仕事も一部引き継ぎさらにこの社内応援イベントを企画してくれた。
駆けつけてくれた社内応援団に村西は笑顔で接しながらお揃いの応援Tシャツを配っていた。
村西を慕う若手社員たちが
「初めてのラグビー観戦なので、楽しみです」
と言っているのを聞いて、
「楽しんでね。ルール分からなくても、解説が客席に流れるし、電光掲示板にルールが出るから安心してね」
と村西は答えた。
ラグビー初心者でも楽しめるようにと、今回の応援イベントの一環として村西は解説や電光掲示板の準備を進めた。
リピーターを増やすためにも少しでも興味を持ってもらえるよう考案したのだった。
社内応援団を楽しませるため村西や総務部も忙しく動いていた。
スタジアムに似つかわしくないワイシャツ姿の集団の中で一際大きな声を出している和かな顔の春山も田﨑の目に入った。
春山はこの試合にたくさんの顧客を呼んでくれることを約束してくれた。
約束通り春山の周りにはたくさんの方が集まっていた。
田﨑は春山に言われていたことを心にしっかりと留めていた。
「俺は顧客を集める。それはチームのためだけじゃない。必ずチャンスを活かして受注に結びつける。自分たちのためだ。
ただ来てくれた人たちをもう一度試合に呼べるかはお前たちの試合次第だ。
お前たちもこのチャンスを活かしてファンを増やせ」
春山らしいエールを受けた。
降格が決まったときにはいなかったが、
今の自分たちにはこんなにも力いっぱい応援してくれる人がいる。
田﨑はこの光景をしっかりと目に焼けて、チームメイトの後を追った。