第18話③シーズン開幕直前
「まだ帰らないのか?」
田﨑は声をかけられ、振り返るとチーム広報の高木が笑顔で手を降っていた。
「自分はもうすぐ帰ります。高木さんはまだまだですか?」
「今日は俺は泊まるよ。
明日はイベントもたくさんあるからね。
松戸さんのVR体験もファンの方に初披露だからさ」
新入社員の松戸が試合に出場している体験ができるVRを作成してくれ、それをファンにも披露してくれる約束をしていたのだがその初披露が明日にある。
「あれはすごいですね。
ファンの方も喜んでくれますね」
「楽しんでもらえるといいな。
リーグ降格が決まった時にファンの方に申し訳なくてさ」
「応援してもらったのに不甲斐ない結果でしたからね」
「それもあるんだけど、ファンの方の価値を下げたように感じちゃったんだよ」
「ファンの方の価値ですか、、、」
「2部リーグのチームファンだった人たちを3部リーグのチームのファンに俺たちが強制的に俺たちと一緒に降格させちゃったな。って考えちゃってさ」
「ブルーウイングスのファンの人たちは誰もそんなこと考えないですよ」
「そうなんだよ。
降格決まった試合でもファンの方は笑顔で
お疲れ様でした。また来シーズンも応援しますね。って言ってくれて、すごくありがたいんだけどさ。やっぱり優しくついてきてくれるファンの人に甘えちゃいけないんだよな。
ワクワクしてもらって、試合後はブルーウイングスのファンで良かった。って誇らしく帰って欲しいんだよな」
「負けた試合で応援が足りませんでした。ってかとうさん言ってくれましたけど、ファンの方に気を遣わせちゃいけないですよね」
「そうだな。特に今シーズンはファンの方もチームの一員になって盛り上げてくれたからな。
試合で恩返ししなきゃな。頼むぞ」
「はい」
田﨑は力強く頷いた。
「グランドの外ではファンの方をワクワク、させるのは俺たちに任せてくれ。さあ準備の続きをするか」
SNSにはチームを応援するファンの投稿で溢れていた。
高木と強く握手をし田﨑はコーチ室に向かった。