第17話④川本亮平
翌日練習がなかったので田﨑は川本の自宅近くのジムに来ていた。
ジムの入り口が見えるカフェに入り、ジムの入り口を見ていた。
吉川に練習参加を禁止されてから、ジムに通っているという話を聞いたからだ。
田﨑は川本の性格だと必ずジムに現れると確信していた。
そして吉川への反発から練習以上のハードなトレーニングをしていることも想像ができた。
30分ほど時間を潰していると、予想通り川本が現れた。
田﨑はカフェを飛び出した。
「川本さん!」
川本は振り返り、田﨑の姿を見て驚いた。
「田﨑 どうしたんだ。
こんなところで」
「トレーニングをやめて下さい」
「おまえまで吉川さんみたいなこと言うのやめてくれよ」
「トレーニングをやめてください」
おなじことを繰り返し言う
田﨑を一瞥してジムに入ろうとする川本を、
田﨑は止めた。
体の大きな2人が争う様子を心配して人が集まりつつあったので、川本は諦めてその場を離れた。
田﨑はついて行って、割烹東へ川本を誘った。
東へ到着し2人でテーブルに座った。
「吉川さんを呼ぶので話を聞いてください」
10分ほどで吉川は到着した。
川本が気になり近くまで来ていたようだ。
「待たせてすまなかった」
吉川は田﨑の隣、川本の正面に腰をかけた。
座った途端に吉川は頭を下げた。
「説明もせずに練習への参加を止めて申し訳なかった」
川本の表情は強張ったままだった。
「自分のパフォーマンスが吉川さんの望むレベルじゃないなら、そう言ってください。
努力しますから。
それを練習禁止にするのはあまりにひどくないですか」
「勘違いをさせていたな。
本当に申し訳ない。
逆だ。川本はまだパフォーマンスは向上する。
そのために今は休んで欲しいんだよ」
訳が分からない顔をする川本に吉川は説明した。
「医者じゃないから確かではないが、話を聞いてくれるか」
川本は頷いた。
「川本はおそらく、過度なトレーニングによる慢性疲労状態が長く続いていると考えている。
症状は人によってさまざまなようだが、
川本の場合は色々症状が出ているんだよ」
川本も吉川から目を逸らさずに話を聞いた。
「例えば眠る前の安静時なのに心拍数の上昇や、データを見ても分かるが体重減少や筋肉痛、そしてスローイングの成功率から見ても分かる集中力の低下が現れている」
答えない川本に向けて吉川は続けた。
「回復には安静しかないんだよ。
体と心が壊れてしまわないように。
そして川本自身が望むパフォーマンスのためには」
「吉川さんの話はよく分かりました。
でもやっぱり休むことは選手生命を短くすると考えています。それは自分には怖くてできません。」
きっぱり言われ吉川は言葉を続けることができなかった。
沈黙が続いたが、田﨑が口を開いた。
「川本さん。自分は副キャプテンになってから自分の力不足をすごく感じています。
ホワイトパンサーズ戦でも足を止めちゃいけないのは分かっているけど、どうしても一歩がでなくて。
その時川本さんの声で無理矢理体を動かすことができたんです。
でも本当だったらそれは自分がしなきゃいけないことなんですよ。
でも情けないけど自分にはできなくて。
自分には、、、チームには川本さんが必要なんです」
田﨑は話しながら涙が出てきた。
「今は我慢してください。
川本さんのためにも、自分のためにも。
チームのためにもお願いします」
田﨑は涙を拭くこともせずに頭を下げた。