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第17話③川本亮平

翌日クラブハウスで川本の姿を見かけたが、吉川はそのまま川本を帰らせた。


川本は練習への参加の許可を食い下がったが認められず帰らされた。


田﨑は川本が帰ったあと吉川に尋ねた。


「吉川さんどうしたんですか」


「何がだ」


「話も聞かずに行動を制限するなんて、

吉川さんらしくないじゃないですか」


「確かにそうかもな。俺も自信がある訳じゃないんだよ。これでいいのか悩んでいる。

だから強行しているんだよ」


意味が分からない田﨑に向けて話をした。


「スポーツ選手にとっては加齢と衰えは恐怖なんだよな。

必ずいつかやってくる引退が近づいてくることだからさ」


「それは分かります。

できていたことができなくなったときには、

頭に引退という文字が浮かびますから」


「でもだいたいはその恐怖心と折り合いをつけて、うまく付き合っていくんだよな」


「はい」


「ただ中には、うまく折り合いをつけられない奴もいるんだよ。

疲労が蓄積していても過度な練習を続け、すると結果が出づらくなるから、さらに練習量を増やしてしまう。また疲労が蓄積する。この負のサイクルが進むと、どこかで心身の限界が訪れるんだよ」


田﨑は黙って聞いていた。


「俺の同期にもいたんだよ。

キャプテンだった真面目な奴でさ。

いつ行ってもクラブハウスにいてトレーニングしていてさ、俺たちは無責任にお前は真面目だな。って笑い話にしていたよ」


吉川は寂しそうにそして悔しそうに続けた。

「あいつが、土屋が闘っているものに気が付かずに、笑っていたんだよ。

あいつは隠したかったのかも知れないが、俺たちが気付いて止めてやらなきゃいけなかった」


田﨑は聞いた。

「その人は?」


「オーバートレーニング症候群って病気があるんだって、その時初めて俺たちは知ったよ。

ただ知った時には、もう土屋は重症化していてさ。

精神的にもダメージが来ていたんだよ。

土屋はドクターストップでトレーニングの中止期間が2ヶ月3ヶ月と伸びていってさ、結局は競技に戻れなくなったよ」


田﨑は真剣に聞いていた。


「優秀なやつでさ。20年以上続けたラグビーではたくさん評価されていたんだけどさ。

最後は誰にも見送られることもなく、花束一つもらうことなく、誰にも知られずにグランドを去ったんだよ」


頷く田﨑を見て吉川は続けた。

「引退ってすごく怖いものだよな。

でも新しい人生のスタートでもあると思ってる。

ただ引退の日にみんなで見送ってもらい、今までの頑張りを認めてもらえるから、新たなスタートを切れるんだよ。

土屋は気持ちを昇華させる場所がなく、会社も辞めて連絡を取ることもできなくなったよ」


田﨑から目を逸らさずに続けた。

「川本はそうじゃないかも知れない。

ただオーバートレーニング症候群の可能性がある以上、俺はグランドに立たすことはできない。


そして俺は自分が関わった選手全員がいつか迎える引退の日に心の底からラグビーをやっていて良かった。と感じて欲しいんだ。

だから今は体調が治るまで川本には休んでもらいたいんだ」


「分かりました。

教えて下さってありがとうございます」


意を決して田﨑は顔を上げて吉川を見ながら言った。


「でも吉川さんの言い方は少し違うと思います。

あれでは反発しか生まないと思います。

生意気を言ってすみません」


頭を下げてから吉川の元を後にした。


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