第17話②川本亮平
川本は田﨑を気にせず、吉川と年齢についてのトークを続けていた。
「最近眠ろうとしたらドキドキ心拍数が上がるようになって、眠れない時があるんですよね」
何気なく話した川本の話で吉川の表情が少し変わった。
「そうか、、、他に何か気になることはあるのか」
「色々ありますよ。
ハードな練習でもなかった次の日に筋肉痛だったり。集中を続けられる時間も減っている気がします。
自分の衰えを認めているからよりハードなトレーニングをしなきゃダメなんですよね」
吉川は相槌を打って話を聞いていたが、
「他に体調で変わったことはないか?」
川本に聞いた。
「息が上がるのが早くなっているような気はしますが、そんなのはみんなですよね」
「自分もだんだん体力が無くなっているのを日々感じながら過ごしていますよ」
田崎も笑いながら話に加わった。
田﨑の話を聞きながら川本は苛立ちを感じていた。
衰えを感じているとは言え、28歳の田﨑と30も半ばの自分では同じ状況である訳はないと。
それを補うための自分の努力なんて誰も理解してくれない。
そんな日々の焦燥感が田﨑へ爆発してしまった。
「お前に何がわかるんだよ」
大きな声で店内が静まり返った。
「すみません」
田﨑は頭を下げた。
その日はその会話でお開きになった。
翌日の練習中、バックスコーチの吉川にとっては専門外のフォワードだが川本を注意深く見ていた。
川本のポジションのフッカーはスクラムでは最前線中央で舵取りをするため屈強さを求められているが吉川がコーチを始めたときよりわずかな期間で確実に線が細くなっている。
ラインアウトのスローワーの成功率のデータを見ても下がってきていた。集中力の低下が疑われた。
吉川は自分が引退を決めた少し前の日々を思い出し、ある考えが浮かんでいた。
早々に川本に話をしなければいけなかった。
翌日の練習後に吉川は川本に声をかけた。
「川本少しいいか」
「はい。大丈夫です」
会議室に入ると吉川は
「川本明日から最低1週間練習は休んでくれ。
これは命令だ」
急な話に川本は驚きを隠せなかったが、絞り出すようにつぶやいた。
「なんで、急に、、、」