第16話⑧千葉県富津合宿
後半はホワイトパンサーズボールで再開した。
後半になってもブルーウイングスの勢いはそのままだった。
ルーズボールに対して即座に飛び込み、ボールを確保したのは川島だ。その後、大切にパスを繋ぎ、田﨑のキックパスを左サイドでキャッチしたのはチーム最年長の川本だ。そして川本がそのまま押し込んだ。
この時1番喜びと驚きを爆発させたのは、吉川ではなく川本だった。
川本はチームの支柱となる存在なので、
川本の感情の爆発はチームにとって起爆剤となる。
一つ一つのプレイに対して考えられるプレイが複数ある全員ラグビーでブルーウイングスの翻弄は続いた。
しかしある時からジワジワとプレイが途切れ、ミスが目立つようになってきた。
頭はクリアで戦術は頭に鮮明に浮かぶのだが、
足が動かない。
一歩を踏み出せないから反応が遅れプレイが途切れ、そのまま相手にチャンスを与えてしまった。
21点あった点差もじわじわと縮められてきた。
ついにトライ2本とその後のコンバージョンキック、ペナルティキック2本を決められ1点差になった。
川本はラグビー選手として現役で長く第一線にいた経験からこの試合に負けることはリーグ戦に大きな影響を与えるという危機感を持っていた。
今のチームに水をさすことはできなかった。
必死の形相で仲間を鼓舞し続けた。
川本自身も叫び声をあげながら、動かない体を必死に操り、1点の差を死守した。
試合終了のホイッスルが鳴ったあとはお互いの健闘を讃えあうのだが、誰1人動くことができず、座り込んでしまった。
得たものと課題が明確になった試合だった。
常にみんながサポートプレーや反応するリアクションプレーが高いレベルで共通の認識となっていた。反応も良かった。
しかしフィジカルの強度が明らかに足りなかった。その結果頭では分かっていても体が動かない。課題はフィジカルの強化だ。
この日は、合宿最後の夜なので、東の大将とホテル側が合同で豪華な夕食を用意してチームを労ってくれた。
東の大将は自慢の深川豆腐を国民的アイドルが食べに来てくれて少しアドバイスをもらったようで、新深川豆腐を大量に作り選手に振る舞っていた。
選手たちも変わらない大将の顔と豪華な料理に気持ちもほぐれいつまでも大宴会場からはいつまでも話し声が聞こえていた。