第16話③千葉県富津合宿
髙橋のレクチャーの後は大宴会場でブッフェ形式の夕食が並べられていた。
ブルーウイングスには管理栄養士がいないので、東の大将がボランティアで同行してくれており、ホテルの食事の栄養バランスに目を光らせてくれていた。
そしてチーム対抗ヘルメットジャンケン大会が開催された。
今日は富津市産のかずさ和牛のステーキが優勝商品だ。
ホテルの方が特別に用意してくれた商品だ。
商品が発表された時に会場のあちらこちらから絶叫のような叫び声があがった。
ゲームは単純でじゃんけんをして負けたらヘルメットをかぶり、勝ったらおもちゃのハンマーで叩くという昔からあるものだ。
5人一組で最後まで勝ち残ったチームが優勝で、自分たちのお好みで焼いてもらったブランド牛を食べられる。
もともと負けず嫌いな人が多い上に豪華商品がかかっているので、熱い勝負が繰り広げられる。
作戦も非常に重要な頭脳戦である。
田﨑が勝負に出てくると、相手チームは田﨑の大学の先輩を勝負に出して、
「先輩を殴れるのか」という心理的なプレッシャーをかけ勝ちを狙う。
そのプレッシャーが有効な選手もいるが田﨑はあまり気にしないタイプなので、先輩といえど本気でハンマーを振り下ろし、心地よい音ともに敗者の山を積み上げていた。
いよいよ決勝戦は田﨑のチームと運営チームの争いとなった。
1勝2敗で後がない田﨑のチームだったが、田﨑の対戦相手にバックスコーチでもあり人事部の直属の上司でもある吉川が選ばれたことにより、田﨑のチームは勝ちを諦めた。
吉川も
「人事評価」という完全に脅しとなることばを言いながら、じゃんけんを始めた。
最初はグー!
じゃんけんほいっ!
あいこでしょっ!
あいこでしょっ!
田﨑は吉川がパーを出したことを確認した途端にハンマーを振り上げ、吉川がヘルメットをかぶるより先に力一杯振り下ろした。
パァーンという音ともに吉川の頭を思いっきり叩いた。
周囲から
「田﨑やっちゃったな」
という笑い声と歓声が一際大きくなった。
「そんな脅しに負けているようじゃチームの最後尾は守れないんですよ」
と田﨑もふざけながら歓声に応えた。
吉川も
「俺を超えたな。
お前に教えることはもう何もない」
と膝を付き床に崩れ落ちた。
そんな茶番劇を見て大宴会場はさらに盛り上がった。
これで優勝チームが決まる大将戦、運営チーム大将はユキコさんだった。
ユキコさんはチームの会計をたった1人で行っている大ベテランの事務方スタッフだ。
「えっ、、、ユキコさん?」
ユキコさんはニコニコ笑いながら
「よろしくね」と答えた。
最初はグー!
じゃんけんほいっ!
次もユキコさんがパーを出したことを確認し、
田﨑がヘルメットに手を伸ばした瞬間、
「この前の新幹線代だけどさ」
慌てる様子もなくユキコさんはいつも通り話しかけた。
思わず田﨑が萎縮し
「何か不備ありました?」
と聞いた瞬間、
ユキコさんが持ったハンマーで叩かれてしまった。
非常に呆気ないが運営チームの勝利が決まり、
そしてユキコさんには誰も逆らえないことが判明した瞬間でもあった。
ユキコさんは嬉しそうに周囲にいた人たちとハイタッチをして盛り上がっていた。
田﨑も
「ユキコさんにやられた!」
悔しくそうに大声をあげた。
大いに盛り上がり、チームの雰囲気はさらに良くなっていた。