第15話⑦髙橋亨
髙橋から電話を受けた吉川に誘われて田﨑と再び髙橋の病室にお見舞いに来ていた。
吉川はまたたい焼きを買ってきていた。
「一度食べるとまた食べたくなるよな。
髙橋も食べるだろ。
今日はお好み焼きたい焼きも買ってきたぞ」
「お好み焼きたい焼きって何ですか?」
怪訝な顔をして髙橋は尋ねた。
「ご飯替わりに最近食べてるけど、意外とおいしいぞ。食べるか」
髙橋は怪訝な顔で答えた。
「いや自分は普通のあんこで」
「挑戦しないやつだな。食べてみないか」
しつこく勧める吉川に負けて髙橋はしぶしぶ食べてみた。
びっくりした顔で目を開いて吉川を見た。
「これうまいっすね!しかも片手で食べられる最高じゃないですか」
満足そうな顔で吉川は髙橋の顔を見ていたが、
もう一個を勧めながら話し始めた。
「レフリーの件ありがとう。
これからよろしくな」吉川は頭を下げた。
髙橋も頭を下げた。
「またラグビーに関わるきっかけをくださってありがとうございます。自分にできるか不安ですが頑張ります」
「このお好み焼きたい焼き考えた人ってすごいよな。受け入れられない不安あったはずなのに挑戦したんだよな。売れるためにたくさん工夫も努力もしたんだろうな。
もしかすると今までのお客様も減ったかもな。
だけどきっと今までたい焼きをあまり食べなかったけど、食べてくれるようになった人も絶対いるよな」
急にたい焼き屋さんの話を始めた吉川を田﨑は不思議そうに見ていたが、髙橋には吉川からのエールがちゃんと届き、背筋を伸ばし頭を下げて
「ありがとうございます。
頑張ります」と伝えた。
吉川は美味しそうにもう一個たい焼きを食べていた。
「吉川さん、副キャプテン途中で投げ出してすみませんでした。それが気がかりです。」
いやいやと手を振りながら吉川は聞いた。
「髙橋は後任は誰がいいと思う」
髙橋は自分の引退が決まってからずっと考えていたことを口にした。
「自分は田﨑がいいと思います。
今チームがとても雰囲気が良く一体感があるのは、田﨑の働きが大きいと思います。
田﨑ならきっとさらに良いチームを作れると思います」
自分の名前が出るとは思っていなかった田﨑は驚いて持っていたたい焼きを落としそうになった。
「実は何人かに同じ質問したらみんな田﨑と言うんだよ。田﨑はどうだ」
少し悩んでいたが田﨑は顔をあげて、
「髙橋さんが引退で悩んで、前向きにレフリーに挑戦する姿を見て、自分は髙橋さんや全員で勝ちたいと思いました」
吉川と髙橋は頷いて聞いていた。
「自分やります。
そして全員で勝って、全員で喜び合えるチームを作ります」
髙橋は田﨑の背中を叩き
「頼んだぞ。
田﨑も俺も挑戦するたい焼き屋になろうな」