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第15話⑥髙橋亨

「亨おにいちゃん!」


徹のまわりには3人の徹と同じ年齢の男の子たちが一緒にいた。


徹の車椅子を3人の子供たちが押してきたようだ。


「みんなでやるか?」

徹たちにボールを掲げた。


「うん」


髙橋は子供たちの病気が分からないので、

みんなの体に負担がかからないように、座ってパスを続けた。

息が上がらないように気をつけながらゆっくり続けた。


それでも徹、悟、優希、康太

4人はみんな笑顔だった。


子供たちの表情を見ているとここが病院だということを忘れてしまいそうになる。


パスを続けているうちに、1人づつ診察の時間が来てそれぞれの病室に帰って行った。


口々に

「また明日ね。約束だよ」

と、頬を紅潮させて何度も言っている姿を見て髙橋は胸が熱くなっていた。

明日という約束が彼らにとってとても重要なことなんだと改めて感じた。


「明日も絶対やろうな。約束だ」

一人一人握手をして別れた。


最後に残った亨は少し疲れたようなので少しパスをやめて、車椅子をベンチの横に移動させた。


「徹、何か飲み物買ってくるけど飲んじゃいけないものあるか?」


「僕は怪我、大怪我しただけだから何でも飲んでも大丈夫だよ」


「じゃあ何がいい?」


「牛乳!体にいいから牛乳たくさん飲むんだ」


「偉いな。ちょっと待ってて」


体を気遣う徹に影響を受け髙橋は牛乳を2本買って来て、徹に牛乳を手渡した。


「お兄ちゃんありがとう」


2人並んで牛乳を飲みながら、ラグビーのルールを教えていた。


「ラグビーをテレビじゃなく、

見てみたいな。

いつかお兄ちゃんの試合見てみたいな」

無邪気な笑顔で徹が言った。


「お兄ちゃんもうラグビーやめたから、試合には出られないんだ」

なるべく明るく髙橋は伝えた。


「じゃあコーチとかになるの?」


「チームもやめるんだ」


「なんで?やめなきゃいけないの」


「そんなことはないよ。

レフリーにならないかって言ってもらってるよ」


「審判さん?格好いいね。

元気な時にサッカーとか色々していたけど、

ルール破る子がいると楽しくないもんね。

あぶないことをする人もいるし。

ちゃんとルールを守っているか、危ないことをしていないかを見る人でしょ。

すごく格好いいね。お兄ちゃん!」


徹はキラキラした眼で髙橋を見ていた。


「レフリーはやらないつもりなんだ」


「なんで?やらないの?」


髙橋は吉川の話を断る気だった。

選手としてラグビーができないまま、ラグビーを近くで見ることをきっと耐えられないと考えていた。


「ラグビーやりたくなっちゃうから」


「もったいないね。ラグビーより楽しいかも知れないのに。

やる前からやらないの変だね」


髙橋は黙ってしまった。

吉川にも同じことを言われた。

違う世界を見ることを怖がっている髙橋の背中を押してくれる言葉だった。


黙っている髙橋に

「みんな自分がやりたい楽しいことができるといいけどね。僕はもう歩くことはできないんだけど、、、何か楽しいことを退院したら探すんだ」


徹の言葉を聞いて、髙橋は涙が出そうになった。

失ったものに固執し、殻に篭もろうとしていた自分をこんなにもあっさりと外に引っ張り出す徹の強さに胸がいっぱいになった。


「ありがとう徹、、、

そうだな。まだまだ楽しいことたくさんあるもんな。

レフリーになったら見に来てくれるか」


「うん!見に行くね。約束」


徹を病室まで送り、

髙橋は吉川へ電話をかけた。

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