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第15話③髙橋亨

「えっ」


頭が真っ白になり理解が追いつかない。

髙橋は震える声で

「もう一度言ってください」


「ラグビーはもうやめてください」


医師から言われた言葉は聞き直しても先程と変わらなかった。


「外傷性くも膜下出血を発症しています

これを見て下さい」

検査画像を指差しながら医師が言った。


「この白い部分が出血箇所です。

幸いに出血は少なく、脳の損傷も見られないので、恐らく後遺症は出ないかと思います。

もちろん油断はまだできませんが」


前回の試合で頭をぶつけた衝撃で脳の表面の血管が傷つき出血を起こしている。と医師は説明していた。


「後遺症もないならラグビーは続けられるんじゃないですか、、、」


「再発を繰り返す例があります。

後悔しないためにも頭部に衝撃を受ける可能性の高いラグビーはもうやめてください」


強く医師に言われた。


髙橋はそのまま自宅に一度、帰り明日からの入院準備を整えた。


荷物の中にラグビーボールを一つ入れた。

ラグビーを始めた小学1年生のときにボールの感覚を忘れないためにと髙橋の父が買ってくれたラグビーボールだった。

大人になり実家を離れてもいつもそばに置いていたボールだった。


もうラグビーはできないけれどもボールを置いていく気にはならなかった。


ラグビーを始めた時はボールが怖くて練習に行く度に泣いて母の後ろに隠れていた。

練習が終わると母と手を繋いで帰り道に、2人で駅前のアイスクリーム店に寄って帰ることが楽しみでラグビーはやめなかった。


父がある時ラグビーボールをお土産に買ってきて、怖くないように椅子に座りながら2人でパスの練習をした。その日から父が仕事から帰ってきたらパスの練習が日課になった。

いつの間にか公園で父とのパス練習が楽しくなっていた。


試合に出て父や母が喜ぶ姿を見ることが嬉しくてラグビーの練習に髙橋はのめり込んでいった。


中学高校大学とラグビー三昧の日を過ごし、社会人になってもラグビーを続ける選択肢しか髙橋にはなかった。


「ラグビーのない生活ってどうなるんだろうな、、、」

髙橋は1人つぶやいた。


その日、髙橋は3カ月ぶりに実家に電話をした。


「亨?

元気にしてるん?」

母の声は変わらず優しく髙橋を包んだ。

「ご飯ちゃんと食べてるん?

食べなあかんよ」


「ちゃんと食べてるよ。大丈夫やって」


「好きなものばっかりじゃなく、野菜も食べるんよ」


「分かってるよ」


「それならいいけど。なんか食べたいものあったら言っておいでよ。すぐに作って送るから」


「ありがとう。あっ、お父さんにかわるね」


父の声が受話器から聞こえた。

「亨か?」


「父さん。今日は早く帰ってるんやね」


「俺がこの時間にいるのも珍しいけど、、、

お前からの電話はもっと珍しいな」


「今日、ラグビー始めた時に父さんから買ってもらったボール触ってたら父さん母さん元気かなって、急に思ってさ」


「父さんも母さんも元気でやってるから心配するな。お前は元気か。お前の方が心配だ」


「大丈夫。また落ち着いたら帰るよ」


父は優しく言った。

「そうだな。いつでも帰って来い。

待ってるから」


電話を切ってから、髙橋はこれからの不安で眠れなかった。

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