第13話⑦若色冬馬
練習後に割烹東へ集まった。
今日のメンバーは田﨑に、秋野、桜庭、川島に若色だ。
田﨑は大将に奥の座敷を使って良いか確認してからみんなで座敷に座った。
川島が
「みんなビールでいいですか」
と声をかけたところで、秋野が遮った。
「今日はまず若色の話を聞いて欲しい」
沈黙が続き、
秋野が若色の背中を叩いて話を促した。
意を決した若色は顔を上げ、
「すみませんでした」
と叫ぶように言い頭を下げた。
桜庭は若色に向けて静かに言った。
「お前が俺のことを、、、
試合に出られないことを話しているのを聞いたときは、本当に頭にきたよ。
悲しかったしな」
若色は泣きそうな顔で頭を下げた。
「すみません」
「ただ、田﨑から話を聞いていたらさ、
若色なりにチームで必死に居場所を作ろうとしていたんじゃないかって思えたよ」
若色が少し顔を上げて桜庭を見た。
目を合わせたまま桜庭は続けた。
「俺もそうだから分かるよ。
若色はグランドで俺はグランドの外で、もがいて必死に居場所を作っているんだって」
目を潤ませながら、
「すみません」
ともう一度小さくつぶやいた。
「だから俺はもう気にしていないよ。
やり方は間違えているとは思うけどさ、、、
俺も気持ちは分かるから。
それに今の若色なら大丈夫だと思っているから」
堪えきれず若色の眼から涙が溢れた。
桜庭は続けた。
「もう絶対に間違えるなよ。
他人をけなして自分の居場所を守るんじゃなく、仕事もラグビーも自分で切り開くしかないんだからな」
「はい」
叫ぶように若色が応えたとき、川島が大きな声で遮った。
「俺は許さないですよ。
下手くそとかヘラヘラしてるとか色々言われたこと絶対に許せないですよ」
若色は
「本当に申し訳なかった」
頭を深く下げた。
静まり返り沈黙が続いた。
秋野が口を挟もうとしたとき、
「当分ばらばらの練習にしてくれよ」
と突然川島が言った。
バックスチームに向けて若色が言った言葉だった。
それを知っている田﨑と桜庭は吹き出した。
川島が若色のモノマネをしていたからだ。
田﨑は笑いながら言った。
「この一瞬のために若色のマネをどれだけ練習したんだよ」
桜庭も涙目になりながら言った。
「そっくり」
「家でめちゃくちゃ練習したんですけど、若色さんの性格の悪さだけはどうしても出せなくて」
川島も悪態をつきながら笑っている。
「自分も気にしていないです。
ラグビーはまだまだ下手くそなので。
ただそれを上手くするのは先輩の仕事でもあるので怪我をしたくなかったら、若色さんが教えて下さい」
若色は涙を流しながら答えた。
「分かった。
ちゃんと面倒を見る」
「いや、、、ほどほどでいいです」
川島がふざけて答えた。
「さて、みんなビールでいいですか」
大将が生ビールを5つ運んできた。
「今日はサービスですり身揚げにエビをたっぷり入れたからたくさん食べてよ」
豪華なお通しを出してくれた。
5人の顔は晴れやかだった。