表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/117

第13話⑤若色冬馬

布団で大きな体を小さく丸めて眠る若色を見ながら、秋野は考えていた。


ラグビーが楽しくないなんて嘘だ。

毎日の生活で疲弊して忘れてしまっているだけだ。

ラグビーの楽しさを思い出してもらうためにまずは仕事を何とかしなきゃいけないな。


そう思いながらも、

ラグビーをしているから、

何を言っても何をさせても心身ともにダメージがないと考えている人が多くいることも現実だ。


俺たちだって人間なんだから、辛いことが続けば心は壊れていく。

心と同時に体も蝕まれていく。

そんな当たり前のことすら気がついてもらえない。

徐々に壊れていく違和感を感じながら、

若色は耐えていたんだろうな。


朝起きた若色を秋野の家族が笑顔で迎えた。


美幸は

「作りすぎちゃった」

笑いながら食卓いっぱいに並べていく。


「ママは加減をしらないんだよ」

子供達はからかうように笑った。


「ねえねえ、お兄ちゃんもラグビーしているでしょ。僕たち今から練習に行くから練習終わったら、教えてよ」

と若色を誘った。


「ファン感謝祭ではまったみたいで週末にラグビーの練習に通い始めたのよ」

美幸が言った。


「若色も見に行ってやってくれないか」

秋野は言った。


若色は子供たちに素直に従い、練習について行った。


子供達の練習はラグビーとは言い難いものだった。

やみくもに蹴ったボールを

やみくもに追いかけて奪い合い

またやみくもに走り続ける


不規則に跳ね上がるボールに奔走されながら

どこまでも追いかけ続ける子供たちを見ながら

若色もラグビーを始めた頃を思い出していた。


昨日より今日、できることが増えることが嬉しくて、毎日が楽しかった。

真っ暗になってもみんなでグランドを走り回っていた頃を思い出した。


秋野が横に座り若色に声をかけた。

「俺のいる第二資材調達部に異動しないか」


「えっ」


「ベテランが定年でいなくなったり、異動のあと補填がなくてさ、今大変なんだよ。

そしたら田﨑がジョブチャレンジ制度の分厚い資料持ってきてさ、、、

うちのジョブチャレンジ制度は部署からのスカウトもできるらしいんだよ。


若色が良ければ上司に話をしてスカウトしたい」


若色は戸惑いながら答えた。

「今の仕事から逃げるみたいなことできないですよ。」


秋野は優しい笑顔を浮かべながら若色を見た。

「逃げてもいいと思うよ。

自分の心と体を守れるなら逃げるべきだと俺は思う」


「でも、、、」


「逃げるって言葉が嫌なら、より得意な方へポジションチェンジはどうだ。

ラグビーと一緒だよ。

強みを活かすんだよ」


「強み、、、」


「資材調達って地味でさ、ひたすら作業計画と睨めっこして、この時期にこれが必要だからいつ発注する。でも、この少しあとにこれを使うからまとめて買った方が安い。じゃあ全部まとめて安く買えば良いかと言うと、保管コストがかかってくる。無限のパズルをしているみたいだ」


「楽しそうですね」


「地味だけど経営に与えるインパクトは大きいんだよ。利益率に直結するからな」


秋野の話を聞いて若色の表情が変わった。

「その仕事、挑戦してみたいですね」


「表だらけを見てもそう思ってもらえるといいけどな。

でもお前の練習計画、仕事の進捗管理、遠征のチーム準備の管理色々見てきたけど、規模は全く変わるけどお前ならうちの仕事できるよ」


若色は頷いて答えた。

「やってみたいです」


秋野は手を叩いた。

「じゃあ上司に言ってスカウトするよ」


「秋野さん、自分が後輩じゃなかったら、実績もない自分をスカウトしますか?」


質問の意図が分からず黙る秋野に

「自分で調べて、自分でジョブチャレンジに応募してみます。

自分を特別扱いしていると言われたら、秋野さんに迷惑がかかるから。

それは避けたいです。

もし異動できたらよろしくお願いします」


若色は頭を下げた。


「お前すごいな。しっかりとしているよ。

じゃあ待ってるぞ」

秋野は若色の肩を叩いた。


秋野が若色の好きなところの一つだ

行動の先に起こるリスクをちゃんと考えて行動できる。

最近のチームでの若色のトラブルを聞くと、リスクを考えられなくなっているかと心配していたが、大丈夫なようだ。


「はい」

若いは強く答えた。


「もう一つ俺からお願いがあるんだ。

産業医の診察を受けてくれないか」


「俺どこも悪くないですよ。

健診も問題ないですし」


「一度心の健康を診てもらえ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ