第11話③新生バックスチーム
開いたドアの向こうには桜庭が立っていた。
桜庭だけじゃない。
桜庭の後ろにはバックスメンバーが何人か立っていた。
驚いた顔の田﨑と吉川の前に
桜庭が一歩進み
「押しかけるようなマネをしてすみません。
スクラムハーフの桜庭敦志です。
先日、田﨑から吉川さんの現役時代のプレイを見させていただきました」
吉川は驚きながらも黙って聞いていた。
「吉川さんの個人として卓越したフィジカルは言うまでもありませんが、それが自己中心的ではなくチームとして統制が取れていることに自分だけじゃなく、メンバーみんな驚きました」
吉川は軽くて頷き先をうながした。
「今の自分たちのチームには足りないものがいくつもあって、それを痛感させられました。
昔のチームもプロではないので、試合にはスキル的に劣っていた選手も複数いました。
ただ弱い点は誰かが確実にカバーして、強い点を発揮できるよう考え抜かれた戦略と、信頼関係を感じました。
俺はこんなチームで闘いたいです。
こんなチームで闘わせて下さい。
吉川さん、コーチをしてくれませんか。
よろしくお願いします」
一気に話しをして桜庭は頭を下げた。
桜庭の後ろにいたメンバーも合わせて頭を下げた。
「これは君たちだけじゃなく、バックスメンバーの総意か」
「はい。田﨑が今日吉川さんとお話するのを知っていたので、バックスメンバー全員で集まりもう一度ミーティングをしました。田﨑が吉川さんを押しているので、不満があっても言えない人がいてはいけないので田﨑以外で集まりました。
そこで出た結論です」
桜庭に続いて北村が
「センターの北村です。
一枚岩じゃないと、吉川さんに就任いただいても失礼になると考え、ちゃんと話し合いました。
よろしくお願いします」
再びみんなで頭を下げた。
吉川は
「またあの忙しい日々に戻るのか」
と満更でもない顔で呟いた。
「君たちの気持ちは分かった。
まずはありがとう。
もう一つコーチ就任で気がかりだったことはさっき田﨑が解決してくれた。
ただここは会社だ。君たちや俺の気持ちだけでは
動くことはできない。
俺なりに調整をしてみるよ。
ところで立ってないで君たちも一緒にどうだ」
吉川は桜庭達に席を勧めた。
「大将、みんなにビールと、俺は今日は日本酒。食べ物もお任せで持ってきてよ」
吉川は心なしかいつもより機嫌が良く見えた。