第11話②新生バックスチーム
仕事が終わるタイミングで吉川に声をかけた。
吉川は笑顔で答えた。
「今日も大将のところ行く?大将の深川豆腐久しぶりに食べたかったんだよね」
吉川と並んで歩いていると桜庭とすれ違った。
吉川に聞こえないように田﨑は
「今から吉川さんにもう一度お願いしてみます。
だめだったらそのまま東でやけ酒します」
緊張を隠すように少し笑って桜庭に決意を伝えた。
桜庭は頷いてクラブハウスの方向へ向かった。
田﨑と吉川は割烹東のカウンターに2人並んで座った。
「自分、吉川部長にずっと意地悪されていたと思っていました」
「意地悪って小学生みたいだな」
と吉川は笑った。
「村西さんにも同じことを言われました」
田﨑も少し表情を崩した。
「俺もラグビー部時代両立に苦労してさ、今思い出しても本当に苦しかった。
定時まで仕事をして練習に行くことは会社が認めてくれていても、上司や同僚は何考えているか分からなくて。
忙しい月初にみんなの視線を気にしながら練習に向かうことが1番辛かったんだよ。きつい練習より、仕事後の練習で続く寝不足なんかより何倍も辛かったな。
だから田﨑の異動が決まった時にメンバーとは何回もミーティングして田﨑が堂々と練習に行ける体制にしたかったんだ」
遠い目をして吉川は言った。
「だからって田﨑を過保護にしすぎたのかもな。
嫌な思いをさせていたらすまなかったな。
会社から期待されていることは人それぞれで、俺は今、田﨑に期待されていることは、ラグビー部をまとめること、ラグビー部を引退しても中村建設でやっていく力を身に付けることだと考えていたんだよ」
田﨑は吉川から目を逸らさず答えた。
「その部長の気持ちに気付かず、自分は恵まれていない。と不満ばかり垂れ流していた自分が情けないです。
部長にも皆さんにも本当に申し訳ありませんでした」
田﨑は頭を下げた。
吉川は試合のビデオで田﨑が見た仲間に向けて送る温和な笑顔を田﨑に向けていた。
「図々しいお願いですが、今部長が担当して下さっている自分の業務を任せてもらえませんか。
不貞腐れて仕事をしていたので信じてもらえないかも知れませんが、ちゃんと責任持ってやります。
お願いします!」
田﨑は頭を下げた。
「たくさんあるけど、大丈夫か?」
吉川は笑いながら聞いた。
「そこは、、、少しずつでお願いします」
吉川と目を合わせて笑った。
その時、東のドアが勢いよく開いた。