第9話①人事部長吉川雅
田﨑は春山と話した後、
練習がない日にも関わらず、仕事を終えてから誰もいない夜のクラブハウスに行き昔の試合の録画を見ていた。
20年以上前の吉川は春山が話すようにとても素晴らしい選手だった。
アタックスキルに優れていたため、どんな選手も食い止めた。また一見、進路がなさそうな場所でも、小さく鋭いステップやダミーパスを繰り出し敵の照準をかき乱す。そうして自分だけの道を作り出しスルスルと敵の間を突破する。
ディフェンスが自身に迫ってきたら、相手を見据えたまま、味方へと確実な早いパスを放つ。
ハイパントのキャッチの空中戦でも当たり負けないフィジカルの強さがあった。
175cmという決して恵まれた体格ではないが、攻守ともに吉川は職人という印象だ。
田﨑が驚いたのは吉川の個人技だけではなかった。無限にある吉川のプレーに対して、他のメンバーも遅れることなく対応ができていて、チームとして統制が働いていた。
録画から田﨑は目を離せなかった。
「すごいな、、、。」
田﨑は思わず呟いていた。
録画を流しながら
静かな部屋で田﨑は吉川のことを考えていた。
配属されてから自分のことを疎ましく考えていると考えていた。
ただそれは自分の思い込みで、自分が仕事とラグビーを両立できる環境を作ってくれていたことや、引退後まで考えてくれていることは村西から聞いて今は理解はできている。
吉川は現役時代に両立で苦労したのかも知れない。だから後輩には環境を整えてくれていたことが想像できた。
田﨑はコミュニケーションを積極的には取ってこなかったことを今さら悔やんだ。
1番の理解者、応援者がこんなにも近くにいたことを今初めて知った。