第1話②田﨑達也
田﨑が不満を隠そうともせずに、労働災害0の日のポスターを貼っていたとき、
人事の方ですか?と急に声をかけられ、
ポスターを貼る手を止めて振り返ると、
ショートカットがよく似合う丸顔の瑞江が立っていた。
入社式の手伝いをした時に、新入社員代表で挨拶をしていた際の意思の強そうな眼が記憶に残っていた。
印象的だった眼を今は潤ませていた。
記憶を遡りながら、
「松戸さん?」どうしたの?と言葉を続けた。
松戸瑞江は確か、筆記試験、面接評価、英語試験全てトップで入社し、配属先会議では彼女を巡って各部長が争ったという噂が流れていた。
高い英語力、面接の際に見せた高いプレゼンテーション力が評価され経営企画に配属されていた。
なぜ横浜支社にいるんだろうか。
田﨑が記憶をたどっている間、松戸は黙ったまま、田﨑を見上げていた。
もう一度、人事と言えば人事だけど、どうしたの?と声をかけてみた。
人事だと明言できないことに自嘲的に笑ってしまった。
そんな田﨑の様子に気付いているかは分からないが、
相談したいことがあります。
松戸が口を開いたその時お昼休みを知らせる放送が会社に流れた。
人事のフロアにある打ち合わせスペースに松戸を座らせ、念のため残っている人がいないか探したが誰もいないことは一目瞭然。
相談なんて自分がのれるわけがない。
田﨑は憂鬱な気持ちで松戸の前の椅子に座った。