第25話③入れ替え戦終了
川島は料理について真剣に学ぶようになっていたので、割烹東の大将と話していた。
「大将!
大将がまとめてくれたレシピで身体がかなり作られてきましたよ。
ありがとうございます」
「我慢だけの食事は辛いからな。
ちゃんとおいしくなきゃ続かないから、
良かったよ」
「大将に教えてもらうまでは、食事を楽しむということがあまり分からなかったんですけど、、、
今は楽しいですよ。
オマケに疲労もたまりにくくて、試合後にまだ試合できそうですよ」
「今日は試合後のレシピからちゃんと作って、疲れを残さないようにな」
「はい。
大将レシピはSNSでも好評なので、またアップしますね。それも楽しくて!
本当にありがとうございます。
来シーズンもよろしくお願いします」
川島は笑顔で来シーズンの残留希望に力強く丸を付けた。
若色は秋野たち家族と話していたときに、
「若色!」と急に声をかけられ振り返るとそこには改修営業部の部長がいた。
部長だけではなく、改修営業部のメンバーがいた。
改修営業部は若色が第二資材調達部へ異動の前に所属していた部署だ。
そこで心が疲弊してしまった。
体が強張って行くのを若色は感じた。
改修営業部の部長は頭を下げた。
「うちにいた時は辛い思いをさせてしまって、本当に申し訳なかった」
驚いた顔の若色を見ながら部長は続けた。
「秋野さんから後から聞いたよ。若色の苦しみを。
苦手なものは誰にでもある。そしてどんな人だって辛い時は辛い。そんなことすら分からず傷つける言葉をぶつけてしまっていたこと、ちゃんと謝りたかった。
本当にすまなかった」
若色は複雑な気持ちになった。
部長を恨む気持ちで仕事やラグビーに
全力で取り組んでいる自分の弱さを自覚していたからだ。
恨む対象がいなくなることが不安だった。
しかし、若色は顔を上げ、
「どうか、メンバーを守り育てる部長でいてください。
自分は飛び出してしまいましたが、みんな歯を食いしばり頑張っているはずです。
よろしくお願いします」
「分かった」
「そして元部下の試合の応援にまた来てください。
適当なプレイをしていたら、観客席から喝を入れてくださいね」
若色は右手を差し出した。
改修営業部の部長も右手を差し出し、力強く握手をかわした。
若色は顔を引き締め、来シーズンの残留希望に力強く丸を付けた。