第2話④桜庭敦志
田﨑は自分の席で仕事をしながら桜庭の言ったことを考えていた。
上の空で机に向かう田﨑を見かねた村西が声をかけた。
「田﨑くん何かあった?また考えこんで」
村西に田﨑が桜庭のことを話した。
「試合会場でたくさんファンの方の顔を覚えていて、いつも自分から声をかけて、一緒に写真を撮っている先輩がいるんですけど」
ここまで話したときに、村西が口を挟んだ。
「桜庭くんのこと?」
「そうです。桜庭さん!
村西さん桜庭さんをご存知ですか?」
と、思いがけず桜庭の名前が出て田﨑は驚いた。
「同期だからね。桜庭くんがどうしたの」
と村西は笑顔で答えた。
「桜庭さんがチームのこと考えてくれていたことを否定した奴がいるみたいなんです。
本人の前で言っちゃったみたいで。
それを聞いたから桜庭さんも試合に出られない自分がファンサービスしても意味はない。って肩を落としちゃっていて」
田﨑は答えた。
村西は考えるような素振りを見せた。
「これ見せたくないなー」と、
村西は言いながらもスマートフォンを見せてくれた。
「なんですか?これ?」
田﨑は聞いた。
「グループチャット!」
「それは自分でも分かりますよ」
田﨑は苦笑いしながら答えた。
「私が試合見に行って仲良くなった人たちで作ったグループだよ。ここ見て見て!」
とスマートフォンを指差しながら
笑顔で言う村西を遮り、
「えっ、村西さん試合見に来たことあるんですか」
田﨑は聞いた。
「そこ?割とよく行ってるよ。
むしろ知らなかったことにびっくりだわ」
と村西は答えた。
「そんなことより、ここを見て見て」
とグループチャットで桜庭と検索した結果を見せていた。
田﨑が覗きこんで見てみると、
〜初めて試合見に行ったときに、桜庭選手に声をかけてもらってびっくり。けど嬉しかった。
〜もう桜庭沼、、、どっぷり、、、
〜ラグビーのルール分からないことがあったから、桜庭選手に聞いてみたら、素人の私に分かりやすく教えてくれたんだけど、、、もう神
〜桜庭さんと一緒に写真撮ってもらった時、肩に手を回してくれてニヤけて顔面崩壊しちゃったよ。
〜試合に足を運ぶ理由の一つは桜庭選手だよね
読みきれないほどの桜庭へのメッセージがそこには並んでいた。
田﨑は立ち上がり
「今から桜庭さんと話して来ます!
そのスマホ貸して下さい」
「えー嫌だよ」
と村西は答えた。
「あっ、田﨑でも検索してみて下さいよ。
自分のも見てみたいです。」
と言う田﨑に、
「それはやめた方がいいよ」
と吹き出しながら村西は答えた後に、
真面目な顔に戻り、
「桜庭くんにファンはもちろん好きな選手がラグビーしている姿を見たいのもあるけど、それだけじゃないよ。
ってファンの1人からって伝えてね」
田﨑は頷いた後に
「自分も検索してみたい」
と言いながら笑いながら部屋を出た。