第2話③桜庭敦志
次の練習後に田﨑は桜庭を食事に誘った。
割烹東でビールと今日のおすすめの
すり身揚げを熱々でつまみながら、
田﨑は桜庭と向き合って座った。
「桜庭さん『日本一ファンを大切にするチーム』ってスローガンを作りましたが何をすれば良いか分からないので教えてくれませんか」
田﨑の問いに桜庭自嘲気味に笑って、
「俺はどうやらファンを大切にできていないらしいから、俺に聞いても良い案なんて出ないよ」
と答えた。
「試合前、桜庭さんの周りにはファンがいつもたくさんいるじゃないですか。それってファンを大切にしているからじゃないんですか」
と田﨑は聞いた。
「そう思っていたけど、ファンの人が何を望んでいるかそれに答えられるか分からなくなったんだよね。グランドに立てない自分が一緒に写真撮りましょう。と声をかけてもみんなは嬉しいのか、とか考えちゃってさ。グランドに立たなきゃ、俺はただのサラリーマンだからね」
桜庭は悲しそうな顔で話を続けた。
「試合にも出られない、チームの役にも立てていないなら無理してラグビーを続けなくてもいいよね」
寂しそうに桜庭は笑った。
田﨑は何も言えなくなった。そこから日常のたわいも無い話をして解散した。