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第九話

「クエスト達成、おめでとうございます。これでいつでも錬金士になれるようになりましたよ」


 無事にサンドワームの牙を、要求された分手に入れて。メルビナのギルドに納品を終えると、受付の女性はそう言ってくれた。


「あ、ありがとうございます。あの、ジョブはどうやって変えたらいいんですか?」

「こちらに該当ジョブに変更したい旨をお伝え下さいませ。解放条件を満たしているジョブであれば、いつでも変更が可能です。なお、レベルはジョブ毎に管理されておりますのでお気を付け下さい」


 なるほど、つまりジョブを変えたい時にはその都度ここに来る必要があるという事だ。……なるべくずっと錬金士として頑張りたいけど、合わないようだったら、他のジョブを選ぶ事にもなるかもしれない。……覚えておこう。


「そ、それじゃあ……僕を錬金士にして下さい!」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 受付の女性がそう言うと、僕の頭上に青い紋章のようなものが現れる。そこから僕に向かって青い光の柱が降りてきたと思うと、身に付けていた装備が勝手に解除され、最初にこの姿になった時のものに戻っていった。


「お待たせ致しました。これでマコト様のジョブは錬金士になりました。装備は自動的に、今装備出来る最強のものに変更になりましたのでご了承下さい」


 光が治まり、頭上の紋章が消えたところで、受付の女性はそう言った。……体の感じは全く変化がないし、見た目もアイさんに装備をもらう前に戻っただけなので、何だか実感が湧かない。


「他に何かご用はございますか?」

「あ、特に今は、何も」

「では、またご用がありましたらお越し下さいませ」


 いまいち実感のないまま、外の二人の所に戻る。二人は僕に気付くと、話を止めてこちらに振り向いた。


「あ、おかえりー」

「よう、初のジョブチェンジお疲れさん」

「あ、はい。何か、全然実感ないですけど……」

「まあ、スキルが使いこなせるようになればそのうち実感してくるさ」


 そうだった。勇士以外のジョブはスキルというものが使えるようになると、道すがら説明を受けていた。


「どうだい? 試しに一回使ってみるのはサ」

「そうですね……」


 アイさんに促され、考える。確かにスキルがどんなものなのかは、僕も興味がある。


「具体的に、スキルってどうやれば使えるんですか?」

「まずはステータスを開いてごらん。それでスキルをスロット……まあ、装備スペースにセットすれば、後はいつでもそのスキルが使えるようになる。スロットは最初は一つだけだけど、レベルが上がれば数が増えて、複数のスキルを同時に使えるようになるからネ」


 言われてメニューを開き、確認してみる。するとそこには確かに、「スキル」という項目が増えていた。


「最初から、いくつか種類があるんだな……」


 スキルには「合成」「投擲」などの名前がついていて、更にそのいくつかには後ろにレベル1と付け加えられている。なるほど、ジョブだけでなく、スキルにもレベルが存在するようだ。


「じゃあ、とりあえず「合成」を使ってみよう」


 最初の頃よりはずっと慣れた手付きでステータスを操作して、言われた通りに調合スキルをセットする。……やっぱり体は何も変わった感じがしないけど、これで本当にいいのかな?


「……あっ、何か文章が出てきた」


 気付くとステータスの上に覆い被さる形で、新しい文章が表示されていた。見出しには、「Tips」と書かれている。

 目を通してみるとどうやら、このスキルの使い方の簡単な説明らしい。このスキルをセットしている状態で自分の持つ二つのアイテムをくっつけると、確率で別のアイテムに変化すると書いてあった。


「なるほど……とりあえずこの通りにやってみようか」


 習うより慣れよ、とも言うので、まずは実践してみる事にする。どうせやるなら、回復アイテムの性能を上げたいな。


「じゃあ回復薬と……そうだな、甘いリンゴを混ぜようか」


 アイテムを二つ、選んでそれぞれ両手で持つ。甘いリンゴは平原で見つけた回復アイテムで、回復薬より量は低いものの、HPを回復する効果があるものだ。


「くっつけるって強くかな、弱くでもいいのかな……」


 そんな事を考えながら、ゆっくりと二つを近付けていく。するとその間に、何かの文字が現れた。


「……アップルジュース、成功率100パーセント……?」


 もしかしてこれは、スキルを使った結果の予測だろうか。……こんな事まで解るなんて、アイさん達は便利な世界に生きてるんだなあ……。

 ともかく、やり方が合っているのはこれで解った。あとは実際にくっつけるだけだ。

 そうして回復薬と甘いリンゴが、手の中でコツンとぶつかった。


「!!」


 ぐにゃり、と、二つの姿が混ざるように歪んだ。そして微かに光を放ち、その姿を重ねていく。

 そして光が治まると、手の中には、瓶に詰まったアップルジュース一つだけが存在していた。


「おー、無事成功したねェ。レジェワス始めたてを思い出すヨ」

「アップルジュースは序盤世話になるんだよなあ。簡単に作れて、回復薬より効果も高い」


 一連の流れを見ていた二人が、昔を懐かしむ風に言う。僕にとっては初めての事でも、二人にとってはずっと前に経験した事なんだろう。

 それが何だか寂しくて。この世界の人間は僕の方のはずなのに、あまりにも僕はこの世界の事を何も知らない。

 もっと、もっと知りたい。自分が生まれた、この世界の事を。


「さて、もうそろそろ俺は落ちるか。今日は久々に楽しかったぜ」

「え?」


 そう決意を新たにしていると。不意に、かずのこさんがそう言った。


「今日は助かったヨ。ありがとうネ」

「構わないさ。また会えたら誘ってくれ」

「あっ、あの……落ちるって?」


 言葉の意味が解らず聞くと、かずのこさんは一瞬キョトンとした顔になった。けれどすぐに、合点がいったというように笑って言う。


「ああ、落ちるってのはログアウトするって事だよ。ログアウト、いつもしてるだろ?」

「ログ……?」

「そんじゃお二人さん、あんま遊び過ぎないで早く寝ろよ。おやすみ!」


 彼の言っている事の意味が掴めないまま、かずのこさんの姿がその場から掻き消えた。後には、僕とアイさんだけが残される。


「……あの、アイさん。ログアウトって……?」

「あー、マァ、簡単に言うと、この世界を出てワタシ達の世界に帰る事をそういうのサ」

「みんな、そんなに頻繁にこっちとあっちを行き来してるんですか?」

「まあねェ。こっちには息抜きに来てるだけで、向こうでの生活もあるしねェ」


 そういつも通りの軽い調子で言うアイさんに、不安になる。ならアイさんも、いつかは自分の世界に帰ってしまうのだろうか?

 アイさんもいなくなって、たった一人、僕だけでこの世界を彷徨い続ける事になるんだろうか……?


「アハハ、なーんて顔してるのサ、青年」


 不安が顔に出ていたのだろうか。不意にアイさんが、そう言って笑った。


「安心していいヨ、私は青年の旅路を見届けるか飽きるまで、ログアウトする気はないからサ」

「ほ……本当ですか?」

「すっかり過疎ったけど何だかんだ気に入ってるしねェ、ここ(レジェワス)


 そうヘラヘラと笑って言われた言葉に、ひとまず安堵する。とりあえず、まだまだアイさんとは一緒にいられるようだ。


「サァ、次はどこに行きたい? この旅の主役はキミだからネ、キミ自身の意思で決めるといい」


 これでこの話は終わりだとばかりに、アイさんが話題を変える。……そうだ。僕の旅は、ここからやっと本格的に始まるんだ。

 どうせ、いつ終わりを迎えるか解らない世界なのなら。難しいことは考えず、とにかく動いてみるのもいいのかもしれない。

 いつかその日が来るまでにやりたい事なんて、今の僕にはたくさんあるのだから。


「それじゃあ……僕、海をこの目で見たいです」

「オーケイ。行き先は決まったネ」


 へらりと笑い、アイさんが歩き出す。僕もすぐに、その背を追った。

 次は何と出会えるのだろうと、期待に胸を弾ませながら。

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