表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

第八話

 ……全身が生暖かい。それに、妙に薄暗い。

 何が起きたんだっけ。どうやら一瞬、意識が飛んでいたらしい。


「ここは……」


 とても狭い場所だ。少し動いただけで、簡単に壁にぶつかってしまう。

 それにこの壁……何だか妙に柔らかくて、ヌメヌメして……。


「!!」


 そこでやっと思い出した。そうだ……僕は確か、サンドワームに呑まれて……!


「じゃあここは、サンドワームの体内……!?」


 状況を認識した瞬間、背筋が凍った。このままじゃ、消化されて死んでしまう……!


「そうだ、武器……!」


 僕は慌てて、持っていた長剣を探す。幸いにも長剣は、今も僕の右手に固く握られたままだった。

 とりあえず、ホッとした。どうやら、完全に打つ手がなくなった訳じゃないらしい。


「……でも、グズグズしてはいられないな」


 そう、いくら武器がまだあるからと言ってのんびりしていたら、その間に消化されてしまうかもしれない。せっかく芽生えた意思を失わない為にも、僕は絶対に死ぬ訳にはいかないんだ。


「とは言っても……今出来る事って言ったら……」


 まあ、この中で思い切り暴れるくらいだ。それが果たして、どれだけの効き目があるかは解らないけど……。


「……たあっ!」


 試しに、長剣を全力で肉壁に突き立ててみる。けれど思ったより弾力があり、思うように刺さらない。


「っ……負けるか……っ!」


 それでも諦めずに、何度も何度も剣を突き立てる。消化が始まっているのか体はどんどん重くなっていったけど、それでも僕は手を止めなかった。

 少しずつ、少しずつだけど、どの角度から突けば深く刺さるかのコツが繰り返しの中で掴めてくる。肉壁も痛みを感じ始めているのか、うねうねと強く蠢き始めた。

 そして。


「……っ、こんのおおおおおおおおおお!!」


 何十回目かのトライで、僕は確かな手応えを手のひらに感じた。長剣は今までになく深く突き刺さり、肉壁も激しく震え出す。


「うわっ!?」


 急激に、体が上へ上へと引っ張られ始める。拍子に長剣を手放してしまい、僕は丸腰のまま、どんどんどこかに運ばれていった。

 移動スピードはどんどん加速して、方向も上に行ったり下に行ったりと目まぐるしい。いつまで続くか解らないそれに、僕が目を回し始めた頃。


「わっ……!」


 急激に、視界が明るくなった。同時に感じる、体が宙に投げ出された感覚。

 それが外に投げ出されたからだと気付いたのは、視界を青い空と眩い太陽が覆ってからだった。


「青年!」

「マコト!」


 どこからか、アイさんとかずのこさんの声が聞こえる。それに返事する余裕もないまま、僕の体は砂に埋もれるようにして着地した。


「ぎゃふっ! げほっ、げほ、砂が……」

「やるなあ! まさか初心者が、サンドワームの飲み込みからの脱出に成功するなんて!」


 顔中に纏わりつく砂の感触に咳き込んでいると、かずのこさんが笑みを浮かべて駆け寄ってくる。僕はそれに、とりあえず笑い返した。


「おっと、この好機は逃さないヨ!」


 その声に顔を上げると、恐らく僕を吐き出した個体であろうのた打つサンドワームに、大斧を両手で掲げたアイさんが飛びかかるところだった。勢い良く振り下ろされた大斧は軽々とサンドワームの巨体を両断し、黒い塵に変える。


「ほい、まずは一匹、っと」

「アイさん!」

「ハイハイ青年ー……じゃなかったマコトくん、休んでる暇はないゾー? 危機はまだ、去った訳じゃないんだからサ」


 そう言って大斧を肩に担ぎ直したアイさんの視線の先にいるのは、仲間がやられた事で警戒するような様子を見せる四匹のサンドワーム。そうだ。戦いはまだ、終わった訳じゃない。


「だがどうする? このままじゃジリ貧だ。飲み込まれて脱出して、を繰り返すんじゃ、あまりにもリスクがありすぎる」

「そうだねェ。せめてどこから出てくるかさえ解れば、どうとでもなるんだけどサ」


 そう視線をサンドワームに向けたまま話し合う二人の会話を聞きながら、ふらつく体を起こす。……そういえば、アイツらにこっちを丸呑みにする以外の攻撃手段はあるんだろうか。


「……あの、アイさ……じゃなかった、Leiraさん」

「何かナ?」

「アイツって、丸呑み以外にも何かしてきたりします?」

「いや。下か上から、こっちを飲み込もうとするだけだねェ」


 それを聞いて、一つのアイディアが頭に浮かぶ。素人考えの、安全とはとても言えない策だけど……ここは言ってみるしかない!


「あの、一つ思い付いたんですけど……」


 自分の考えを、二人に話してみる。二人は一瞬ぽかんとした顔をして、それから力強く笑った。


「……なるほど。逆転の発想だな」

「ワタシ達ぐらい長くやってると、必勝パターンがテンプレ化しちゃってるからねェ。完全なイレギュラーに対応するには、変に経験なんてない方が丁度いいのかもしれない。ワタシは乗るよ、キミの案」

「俺もだ。どうせ代わりの案も思い付かねえしな」

「……! ありがとうございます!」

「じゃあ、まずはいっせーのせでみんなで散ろうか。いっせーの……」


 アイさんの掛け声に合わせて、足に力を入れる。正直さっきのダメージで少し足が震えてるけど、ここが正念場だぞ、僕!


「……せっ!」


 その声を合図に、僕達は一斉に別々の方向に走り出す。サンドワーム達もそれに反応し、僕達を追うように動き始めた。

 砂地、持続する振動、そして僕の残りHP。その総てが、僕の足を止めさせようとしてくる。

 それでも、僕は、追ってくるサンドワームから力の限り逃げ続けた。


「よし、集合!」


 やがてアイさんが、そう声を張り上げる。それを聞いた僕は進路を変え、アイさんの元へと急いだ。

 同様にかずのこさんも、アイさんの元に集まる。そう、僕達はただ闇雲に逃げ回ってた訳じゃない。


「よし……マコトくんの狙い通り、()()()()!」


 総ては……サンドワームを、纏めて一箇所に集める為!


「よーし、後はワタシに任せたまえ。一網打尽にしてやろうじゃないか!」


 僕達目がけて四方の上空から飛びかかってくるサンドワームを見上げ、アイさんが大斧を構える。そしてかずのこさんの背中を足場にして、サンドワームと向かい合うように跳躍した。


「冥土の土産……持ってきなアッ!!」


 そのまま、体ごと大斧を縦に回転。まずはサンドワーム一匹の頭を、大きく縦に割る。


「まだまだァ!」


 そのまま落下し、体を捻って今度は横に大きく回転する。そして残り三匹の頭部を、残らず胴体から切り離した。


「……相変わらずスゲェな……ここがVR空間とは言え、あそこまで派手に暴れ回れんのはアイツぐらいだ」


 その様を隣で一緒に眺めていたかずのこさんが、ぽつりと呟く。かずのこさんのような同じ世界の人から見ても、アイさんはまた別格らしい。

 アイさんに斬り飛ばされたサンドワーム達が、黒い塵となり霧散していく。その中を通り抜け、アイさんが砂地へと軽やかに着地した。


「いやー、大漁大漁!」

「Leiraお前なあ! 人を踏み台にするなら、先に断りを入れろ!」

「時間が勿体無いだろう? 結果オーライなんだからいいじゃないか」


 文句を言うかずのこさんに、カラカラと笑い返すアイさん。こんなやり取りも、二人にとってはいつもの事なのだろう。

 その事が——ほんの少し、羨ましくなった。


「……あ」


 不意に空から何かが落ちてくるのに気付いて、僕は思わず声を上げた。それらは砂の上にボトボトと落ちて、半分くらい砂中にめり込む。


「おお、見ろマコト! 苦労の甲斐があったぞ、サンドワームの牙がこんなに!」


 それを見たかずのこさんが、喜びの声を上げる。……そうだ。すっかり忘れてたけど、そもそも僕達はこれを集めに来たのだった。


「やー、アクシデントはあったケド、結果的には手っ取り早くクエスト終了しそうじゃないか。ヨカッタヨカッタ」

「そうだな。マコト、お前も災難だっただろうが、これで無事に錬金士になれそうだ」


 かずのこさんに肩を叩かれても、まだあまり実感が湧かない。何せさっきまで、生き残る事に必死すぎて……。

 でも。一つだけ、強く実感出来る事は。


「僕……生きてるんだなあ……」

「ん? 当たり前だろ?」


 思わずしみじみとそう呟いた僕に、事情を知らないかずのこさんだけが、一人不思議そうな顔をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ