30 岩永仙
ノーシースト共和国連邦。現在の最前線にして精強で知られる防衛の要。
この世界の星がどんな形をしているのかは知らないが、北に行くほど寒く痩せた土地が多いのは地球と変わらない。今思えばナインステイツは過ごしやすかったな。
痩せた土地には魔獣が蔓延る。飢えた獣が魔力に助けを求めるからだとか色んな学説があるらしいが、ともかく北に行くほど魔獣が強くなるのだ。
そんな環境では強くなければ生き残れない。部族単位で秘術を隠し持ち屈強に暮らす小国の集まり──ドワーフに代表されるそれが原初の魔王の出現で徒党を組み、歪み合いながらも連邦となったのがノーシーストの始まり。ずっと昔の話だそうだ。
「またいきなり王様と謁見させられたりしないだろうな」
転移の直前、そう呟いた俺をヒツジさんが笑い飛ばしてくれた。
「ほっほっほ。そう心配なされるな。ノーシーストは共和国──ただ一人の王というものはおられません」
政治形態は議員内閣制。複数の部族の連盟であるノーシーストに王はいない。それぞれの部族の代表者が集う内閣だけがある。
「それに、今のノーシーストに諸兄らを害する余力は残っておりませぬ」
不穏な言葉と共に光が瞬き、視界が暗転する。
目の前に飛び込んできたのは──ガヤガヤと騒がしい兵士達だった。
「な、んだこれ……」
目に入るのは鎧を着た粗野な男たちと、テント、テント、テント、それから焚き火に武器の点検をする男。
「もう夕刻。今日の襲撃は終わっているようですな」
野営地──という表現が一番正しいか。
俺たちが転移したのは、まさしく戦争真っ只中の最前線であった。
○
「ノーシーストは我が祖国ですからな。転移魔法陣も至る所にあります。一番戦場に近いところに飛んだのですが、不都合でしたかな?」
ヒツジさんは俺たちを先導しながら言った。
「いや……むしろ大歓迎だ。今向かってるのはどこだ?」
答えたのは坂伊坂。今の彼の戦意はすこぶる高い。アリステラ教皇に求婚したのは伊達や酔狂じゃなかったらしい。
「この戦場の指揮官の元です。到着日時は伝えております故、すぐに面会も叶うでしょう」
王様との謁見はなかったが、指揮官との会合があるらしい。それあんまり変わってなくね?
辿り着いたのは一際大きなテントだった。まあ小綺麗にしていてもテントはテントなわけだが、その奥に偉い人がいるとなると緊張する。
垂れ幕越しにヒツジさんが声をかける。
「ヒツジ・テンテン。異世界の勇者を連れて帰還しました」
「……入れ」
聞こえてきたのは野太い男の声だった。ヒツジさんに続いて俺たちもすごすごとテントに入っていく。広さは十分あった。
そこに腰掛けていたのは声の印象とそう変わらない大男だった。禿頭の眼帯。年齢は四十近いだろうに、鍛え上げられた肉体を維持している見るからに戦士と言わんばかりの大男。机仕事が似合わないにも程がある。
大男は紙とペンを置いて俺たちに向き直った。
と思ったら途端に顔を顰めて言った。
「……よく来た──おい、ヒツジ。いつからここは保育所になった? どうして女がいる」
「……スケイルさん、まだそんな古い考え方してるの?」
ため息を吐いて口を挟んだのはケンケンだ。
ケンケンを見咎めて、スケイルと呼ばれた大男は一層目を見開いた。
「ケンケン! ケンケンではないか! てっきり死んだものと思っていたが、生きていたなら僥倖──ではないな。おい、貴様。一月もどこで油を売っていた」
「うへぇ。いきなり叱責から入らないでよ。迷宮に囚われてたんだよ! 僕がいない間大丈夫だった?」
「うむ。戦況は厳しいが、最近奴らが大人しめでな──違う。そうではない。何故に女がここに居るのかと聞いておる」
「大丈夫だよ。衛生兵とか魔法兵とか女の子もいるでしょ。岩永ちゃんは戦える。僕が保証するよ」
ケンケンが岩永を指して言った。すごすごと会釈する岩永。
だが、スケイルは納得しない。
「そやつらが後方で大人しくしているというのならば参戦も認めよう。だがそうではないのだろう? 異世界の勇者は一騎当千の戦士──武道祭でも、さぞや活躍したと聞いておるぞ。女を前線に立たせるとなれば、相応の力を示してもらわねばならん……」
「スケイル総指揮官。まずは挨拶を。異世界の勇者たちも困惑しております故」
脱線しかけた話をヒツジさんが戻してくれる。スケイルは咳払いを一つして、ようやっと名乗ってくれた。
「ごほん。そうだな。失念していた。俺はスケイル・グレー。この戦場の指揮官をやっている者だ。お前たちのことは有望な志願兵と聞いている」
続いて、俺たちの紹介はヒツジさんが請け負ってくれた。
「そして総指揮官、一つ訂正を。この者らが挙げた武勲は武道祭ではなく、魔王軍幹部の討伐です」
「……なに?」
「そこの剣士、坂伊坂様と岩永仙様、沖苗葉様、それからケンケンの四人で屍人剣士、ガシャドクロを」
「ほう!」
「それからこちらの剣士、浜松神奈様は水の邪精霊アマビエを討伐しております」
「ほう! それでそこの男は?」
「松山愛人様は魔法使いです──生きた壁、ヌリカベを討伐しました」
「なるほど、なるほど……」
禿頭の眼帯男は思案げに頷いて、豪快に笑った。
「ならば、よし! グワハハハ! よくぞ憎き奴らめを殺してくれた! 我が軍は戦士を歓迎する! ヒツジ、宴の準備をしろ!!」
そういうことになった。
○
流れ的にはナインステイツの歓迎会に近いだろうか。何であれ、歓迎してくれるというならありがたい──
「ぐわははは! 飲め、飲め! 今日はめでたい日だ! なんたって憎っき魔王軍の幹部が三匹も死んだのだからな!」
訂正。とても歓迎会なんて洒落たモノじゃない。
場所は野外、振る舞われるは骨付き肉。酒と喧騒があればそれで良いと言わんばかりの豪快な宴。そう、宴だった。
女がどうとか言っていたのに、スケイルは浜松にだる絡みしていた。
「おう! お前は特に良い! なんたって一人で倒したと言うんだからな! お前は戦士だ!」
「お肉、おいしいです。一人じゃ──むぐっ──ないですよ」
浜松は浜松でもぐもぐと肉を頬張っていた。マイペースが過ぎる。
「なに!? そうなのか!? 嘘を吐いたということか!?」
「むぐっ。その場合嘘を吐いたのは──むぐっ、私ではなくてヒツジさんですね」
「そうか! おいヒツジ! ヒツジはどこだ!」
また騒ぎ出したスケイルの奥には坂伊坂が男たちに囲まれている。腕試しとかなんとか言って剣を突きつけあっていた。
「おいおい、最前線つってもこんなもんかぁ? ガシャドクロはこんなもんじゃなかったぜ!」
「お前、やるなぁ!」
「生意気なガキめ!」
俺の目には殺し合っている様にしか見えなかったが、誰も彼もが笑っていた。頭がおかしい。
戦士の国とか言ってたチェイネンよりもよっぽど野蛮な国だ。野蛮でなければ生き残れないのが戦場なのだろうか。
さて、問題は俺の話し相手だ。
ケンケンも同郷の人間と楽しそうに再会を祝していた。頼みの綱の浜松もスケイルに取られたし、残っているのは──
「……何よ」
──岩永仙。こいつか〜、という落胆を俺は必死に悟られまいとした。
別に話せなくはないけど、岩永っていっつも友達に囲まれてるんだよな。そのせいかサシで話した記憶があまりない。新鮮な気分だった。
「いんや、沖はどこ行ったの?」
「散策だって。ニャオハの放浪癖はもう病気ね、病気。あんたと一緒」
「いちいち他人を攻撃するなよ……」
沖苗葉についても、俺はよく分かっていない。
楽観的。お調子者。でも一人でいるところも良く見る。生来の新しいモノ好きで、多分自然とか観光名所とかを一人でしみじみと楽しめるタイプなんだろうなと思っている。意外と知ってるな?
「……そういえば、岩永ってなんでノーシーストに来たの?」
何となく、今まで聞けなかった話題だった。
焚き火と酒の匂いがつい口を滑らせる。未成年だから飲んでいるのはジュースだけど。
「なんでって、何? 魔王を倒す以外にあるの?」
「いやさ、一年訓練するって話だったじゃん。別にそれ待ってても良かっただろ。実際、お前は一人でここに来ることになった。お前らくらいしか単独行動を許されなかったんだろ?」
沖はともかく、坂も岩永も浜松も、多分相当に強くなってる。
ヒツジさんは武勲を上げたと言っていた。魔王軍幹部を倒したとも。
おそらく、その武勲を交渉材料にナインステイツから自由を勝ち取ったのだ。それくらいの推測はできた。
でもそれで自由になったのはこの四人だけだ。ここには興味派坂の仲間も、悲観派岩永のオトモダチもいない。
「……そういうあんたは、何してんの。ナインステイツにつ、追放されてから──何してたのよ」
何だか岩永の態度が刺々しい。質問ばっかりで話してくれない。
まあ、こういうのはどっちが先に話すかだ。オトナな俺が先に腹の中を明かしてやるとするか。
「何って別に何もしてないよ。『水辺の森』、分かるか? あそこには黒狼って凶悪な魔物がいてな、初日の夜には腕を噛み切られて死んだと思ったぜ」
「……っ」
「まあ何とか撃退したけどよ。その後生きた壁に囚われたんだ。迷宮だ。いつのまにか光苔が光源の洞窟の中にいてさ、そこでは小鬼に襲われた」
懐かしいな。リンは元気にしているだろうか。チェイネンを襲った死者の軍勢の巻き添えになってはいないだろうか。
「小鬼の集落には一月くらいいたよ。雑用とか、迷宮の外の世界の話とかしてたかな。あんまり居心地は良くなかったけど」
洞窟の岩肌は寝心地が良くなかったし、食事も焼いた肉とかだったからな。まあ小鬼たちは気のいい奴らだったけど。
「そ、そう……捕虜になったのね、魔物の……」
「……? まあそんなところだ。その後ケンケン達と出会って、一緒に魔核を倒した。その時一回死んだんだけど──」
「──っ」
岩永がヒュッ、と息を呑んだ。やっぱり語り部に観衆がいると違うな。つい反応を楽しんでしまう。
「──何とびっくり、ポンズが時魔法使いだったんだ! 生き返った時はまじで安心したな〜。その後はチェイネンに行って、武道祭の観戦とかしてた。俺の話はまあ、こんなところだよ」
話し終え、適当に鳥の串焼きみたいなもんを二本取ってきて、一本を岩永に差し出す。
岩永はしばらくもっきゅもっきゅと串焼きを頬張ってから言った。
「……何で、あんた……そんな危険な思いして、まだ戦おうって思えるのよ……」
また質問か。別にいいけど。俺は自分が話すのは嫌いじゃない。
「……多分岩永は勘違いしてる。俺にはそもそも選択肢無かったんだよ。異世界の勇者の所有権はナインステイツにある。ナインステイツが一年は他国に派遣しないって決断したなら他の国は何も言えない。異世界の勇者に反撃されたらたまったもんじゃないからな。わかるよな?」
岩永はこくりと頷いた。
「でも、他国としては即戦力が欲しい。俺たちがもともとただの学生だって知ってる国なんか無いんだよ。戦争中のノーシーストなんか、特に焦れてたって話だ」
「……」
「そんな中、ナインステイツから追放された異世界の勇者がいたらどうなる? ナインステイツが所有権を放棄した、即戦力だ。見かけはな」
「……どのみち、ノーシーストに送られる?」
「そゆこと。だったら志願兵として来た方が待遇も良いだろ。捕まって無理やり戦わされるよりな」
ケンケンの力になりたいっていうのも本音だ。けど、そういう事情があるのもまた現実だった。
まあ悪い選択でもない。ノーシーストには魔物が大量にいるだろうし。
『統一言語』の仕様をより理解するには使ってみるしかないのだ。人を操るのは──怖くてまだできてない。意識的に祝福を使ったのはポンズを『妖狐』にした時くらいか。
魔物なら罪悪感も半減だ。今のところ知能が低いと操りやすいってくらいしか分かってないからな。
そんな事を考えていると、やがて岩永がポツリと溢した。
「……恨んで、ないの? 私たちを……」
それは酷く見当違いな問いだった。
「恨む? お前らを? それまた何でだよ」
「だ、だって……それも結局、原因は全部追放した私たち──ナインステイツじゃない。あんたが危険な目にあったのも、これからあわなきゃいけないのも」
確かに見ようによってはそうかもしれない。
『水辺の森』に放り出されたばかりの俺は右も左も分からなかった。でもすぐに気付いた。
俺を追放したのはナインステイツではなく、東野京だ。十中八九。ならば恨むとすれば東野京ただ一人だし、実際のところ東野を恨んでいる訳じゃない。なぜなら──
「いや、普通に騙された俺が悪いから。俺がもっと上手く立ち回ってれば追放は避けれた事態だぞ」
──俺は東野と、騙し合いという『ゲーム』で負けただけなのだ。勝敗にケチを付けるなんて三流みたいなことはしない。やり返すなら、相応のやり方でやり返す。
東野には東野の目論見があった。俺を追放するのが奴にとってどんな利益になったのかは知らないが、それだけは確かだ。
「今度はお前の番だぞ、岩永。お前──そんなに戦うのが怖いならなんでここに来た」
うっ、と岩永は手元のコップを覗き込んだ。もうジュースは残っていない。空の容器と串を持って岩永は沈黙する。
絞り出した様な声は震えていた。
「……魔王を、倒す。そうしたら、家に帰れるから……」
「違うな。こんなに怖がっているお前が、オトモダチも連れずに最前線に来るには動機が弱すぎる」
「……っ」
俺はそれを一刀両断した。俺がこれだけ身の上話をしたのに、上辺だけで会話を終わらそうなんて許さない。
返答にはさらに時間がかかった。
「……怖い、怖がってる? 怖いよ、怖いわよ、当然でしょ! でも──何かやってるって。進んでるって実感が無いと──すぐにそんな恐怖に押し潰されちゃうじゃない。あんたには分かんないでしょうね! 能天気で、何も考えてなくて、友達もいなくて──強いから」
おい、急に悪口言うなよ。友達いないは言い過ぎだろ。……言い過ぎだよな?
心の中でそう思っただけで、俺は岩永を茶化さなかった。ようやっと心の内、その片鱗を見せてくれたところだったから。岩永の独白にはまだ続きがある。
「最近、変だったの。あいつらは──城も青も全然強くなんなくて。本当に、やる気あるのかなって不安になって。帰りたいって気持ちは同じハズなのに……友達の努力を疑っちゃって」
宮盛城。青森青。二人とも悲観派の──いいや違う、岩永の友達だった女子の名前だ。いつも三人で一緒にいた記憶がある。
東野には浜松がいた。高松には沖がいた。坂には清水がいた。親友と呼べる存在──いわゆる心の拠り所が。
岩永にもいたハズだった。それを、唐突に生えてきた『祝福』だとか『魔力』だとかのパラメータに歪められ、ただ一人強大な力を持った岩永は孤立した。
「……それで、さ。私の『祝福』が夜な夜な誘惑してくるの。『魅了してしまいなさい』、『魔力を分け与えて眷属にしてしまいましょう』って。そんなの絶対嫌。嫌なのに──」
気付けば、岩永の瞳には涙が滲んでいた。
これは多分、部外者の俺にしか吐き出せなかった悩みだった。東野にも高松にも坂にも、もちろん悲観派の奴らにも言えず、岩永がずっと心の底に溜め込んでいたモノ。
「──私、淫魔なの。悪魔なの。魔物なの! ガシャドクロと戦ってた時、私、興奮してた。思う存分力を使えることに歓喜してた! このまま──努力もせずに安穏と暮らしてる城とか青の近くにいたら、いつか絶対『魅了』しちゃう……! 私が、私じゃなくなっちゃう……」
ハッ、と我に返ったように岩永は取り繕った。
「違う! 違うの。努力してないとか、思ってないの。仕方ない……仕方ないって、わかってるの。城も青も頑張ってる……私は、たまたま『魅了の魔眼』を授かった。それだけ、なのに……」
多分、岩永仙の原動力は『恐怖』だ。
岩永は可愛い。そんじょそこらのアイドルなんて目じゃないくらい整った顔をしている。可愛いだけじゃなくて愛嬌もある、小動物みたいな容姿だ。
それで嫌な思いしたこともあるだろう。自然、岩永の態度は外敵を寄せ付けない──排他的なモノになった。刺々しく、つい距離を置きたくなるような性格の悪さ。
それでも彼女の隣にいたのは、そんな彼女を守ってやりたいと思う奴らだった。
悲観派は、その全員が悲観的な、被害妄想に取り憑かれた様な思想をしているから悲観派なのではない。
トップである岩永が、誰より悲観的なのだ。周りはそれに合わせているだけ。
そして、前の世界ではそれで良かった。岩永が弱者だったから。誰かに守ってもらっていれば何も考えずに過ごすことができた。
その立場が逆転してしまった。
岩永の魔性は、『祝福』にすら愛されてしまったから。
今彼女が直面している『恐怖』は三つ。
元の世界に帰れないこと。
ここに自分を守ってくれる人がいないこと。
あまつさえ、身近な人間を害そうと『祝福』──淫魔の本能に誘惑されること。
「なるほどね。大体理解した」
まさかこんなに話してくれるとは思わなかった。
さして仲良くもない俺に、これだけ胸の内を晒した理由は一つだ。それはひとえに、今の岩永がそれだけ孤独だったということ。見かけよりもずっと、彼女は一人だった。
岩永は涙を拭って、キッと俺を睨みつけた。
「……嘘。やめて。慰めなんか、いらないわ。なんで私、こんな話……あんたみたいな強いやつに、私の気持ちがわかる訳が──」
「わかる。わかるよ。今のお前のことなら、多分世界で一番」
「……は?」
俺の真剣な顔に、岩永はポカンと口を開けて硬直した。
想像できるんだ。岩永仙に『憑依』するまでもない。彼女の気持ちが、決断が、その意味が俺には手に取るように分かる。俺の──性悪な特技の一つ。
だからこそ──その気高さに気付いていない当人が不憫でならない。
「岩永、魔王が怖いか。元の世界に帰れないのが辛いか。一人は、嫌か」
「そんなの……っそんなの、当たり前でしょう! 怖い、怖いわよ、何度も言わせないで! あんたは、平気なんでしょっ。だから追放されてもヘラヘラしてられるんだ!」
「ああ、俺は一人が平気なやつさ。そんでお前は孤独が無理なやつだ。ずっと一人でいると嫌な想像ばかりして自己嫌悪で潰されそうになる。誰にも相談できずに一人で全部抱え込んで──結局、自分一人じゃ解決できない人間だ」
岩永はギリィっと歯軋りした。
「分かってるわよ! そんなの、言われなくても──」
「そう、分かってる。なのにお前は一人でここにいる。それは何故だ?」
「……っ」
「自分一人じゃ何もできない。自分は孤独に耐えられない。それを分かっている人間が──たった一人でノーシーストに来た理由」
俺は言った。目と目を合わせて、これ以上ないくらい真剣な思いを胸に伝えたい。
「大事な友達を傷付けたくないからだ。自分がどれだけ苦しい思いをするとしても、それだけは耐えられなかった。だからお前はここにいるんじゃないのか!?」
「──ッ」
三つ、俺は岩永が直面している『恐怖』に気付いた。
でも岩永にとって何より耐えられないのは『自分が淫魔の血を抑えきれず、友達を傷付けてしまうこと』だった。
訓練してから戦場に出た方が勝算が高いなんて猿でも分かる。自分が孤独に耐えられないことなんてずっと昔から知っている。それを差し置いて岩永はここにいる。自分が楽しければそれで良い坂とも、別に目的があるらしい浜松や沖とも違う考えで。
家に帰るのが遅れても。
自分が一人ぼっちになったとしても。
それでも、友達を傷付けたくなくてここに立っているのだ。
「お前は──強いよ、岩永仙。東野とかとは違うけど、ちゃんとリーダーやってんじゃねぇか」
自覚していなかった本心に、岩永は目を見開いて押し黙った。枯れたはずの涙が、後から後から溢れ出てくる。
俺はそっと岩永の手を引いた。泣き顔を大勢に見られるのは可哀想だ。その辺のテントの裏まで連れて行って隣に座る。
岩永はされるがままで、俺が座り込んでも手を離そうとはしなかった。
このまま時間が過ぎるのを待っても良かったが、最後に伝えたいことを伝えるべきだと思った。結論のない説教ほど迷惑なものはない。例え岩永が俺の言いたいことを理解してくれていたとしても。
「……岩永。あんまり一人で溜め込むなよ。愚痴くらいならいくらでも聞いてやるから」
岩永の良くなかったところはソレだ。
青森でも宮盛でも良い。もっと早く身近な人間に相談していれば、解決策は提示されただろう。
まずは、『祝福』の制御からだろうな。本人の意思に介入してくる『祝福』とか怖過ぎる。そんな良からぬ思考に汚染される状態になど俺も耐え切れる自身はない。日に日に自分が自分じゃなくなっていく感覚。
俺が言葉を終えると、岩永は嗚咽を堪えるのをやめた。体育座りで自分の膝に顔を押し付けて、わんわんと声を上げて泣いた。
その間も、ずっと俺の手を握ったままに。
松山関係図
・クラスメイトは大体友達
・東野、浜松と実質幼馴染 NEW!
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