29 閣下のお言葉
謁見が終わり、坂を迎えにやってきたのは牢屋だった。ご丁寧に両手両足を縛られている。
誰も近付きたがらないので俺が屈み込んで問いかける。なんだか坂は満足そうな表情をしていた。
そんな顔をされれば、俺の眉間に皺がよるのも仕方ないだろう。
「おい、お前なんであんなことしたんだよ」
坂は鼻の下を伸ばしながらへへっと笑った。
「……まさか、あんな良い女がいるとは思わなかったんだ。求婚もするさ。男ならお前も分かるだろう、愛人!」
確かにアリステラ教皇猊下の美貌は一級品だった。顔も良かったが、何より胸がでかい。それにしてもだ。
そんな縋るような目をされても困る。
「いやわかんねぇよ」
「決めた、決めたぞ愛人。俺はあの子のために必ず魔王をぶっ殺す……そんでもっかい求婚するんだ」
白けた目を向ける女性陣達の目が怖い。笑っているのは男だけだ。苦笑いだけどな。
隣ではヒツジさんと聖騎士──カミングが話していた。カミングって名前覚えにくいよな。グレランぐらい分かりやすい名前であってほしい。
「カミング。我々がこれから向かうのはノーシースト──最前線に戦いに赴くのです。この者の無礼を皇国が罰せずとも、必要とあらば天が罰しましょう。もとより異世界の勇者の多少の無作法は見過ごしてくれるとのことで」
そもそもこの『謁見』自体が、キニア皇国たっての希望とのことで相なった教皇猊下と異世界の勇者の『顔合わせ』なのだ。それで一々俺たちに目鯨を立てる訳にもいかない。
特にキニア皇国から魔王軍幹部討伐の褒賞などが出る訳でもない。異世界の勇者とは扱いとしては『兵器』であって、その所属はナインステイツにある。褒賞が出るにしてもナインステイツを通して支払われる、という形になるだろう。今ごろチェイネンはレジーナ王女に搾り取られてるんじゃねぇかな、知らんけど。
それを分かっているのかいないのか、カミングはふんと鼻を鳴らした。事情がどうあれ教皇猊下を軽く扱われるのが気に入らないらしい。臣下として当然の反応だし、もしかしたら俺たちがあんまり勇者らしくないからガッカリしたのかもしれない。
「……ふん。それにしてもこの男は度が過ぎていたという話だ。が、必要とあらば天が罰する──か。上手い言い方を考えるものだな、ヒツジよ」
「老骨ですからなぁ。それに、実力は確かだったでしょう?」
図らずも先の謁見で坂と岩永はその有用さを示した形となった。坂は言わずもがな、岩永も多数の聖騎士を一瞬で戦闘不能にしている。
ともあれ、ヒツジさんの洒落た言い回しにカミングは組んでいた腕を解いた。
「男──坂伊坂よ。次はないぞ。もとより教皇猊下はお前達のような下賤な冒険者が一目見ることも叶わんお方だ」
そう言って坂の牢屋の鍵を開け、拘束を解く。坂は窮屈そうに身を捩りながら立ち上がった。
「それは困る。あんたも騎士なら分かるだろ? また会いたいから命まで賭けるんだぜ」
「我々はそのような不純な動機で仕えている訳ではない」
「あら、それは説得力ないケド」
口を挟んだのは岩永仙。『魅了の魔眼』──淫魔の血筋。彼女の『命令』は真っ当に機能した。
でも、岩永の『魔眼』に逆らえなかったからって即煩悩まみれ扱いされるのは流石に可哀想だ。だってお前の『命令』、別に女にも効くじゃん。効き目とかは知らねぇけどよ。
「では、坂様も解放されたことですし、セキーストに向かいましょうか」
聖騎士と淫魔。気まずい空気が流れたところで、ヒツジさんがそう言って踵を返してくれた。年長者の気遣いがありがたい。
「お腹すいたな……」
「なー」
浜松と沖は、相変わらずマイペースだった。
○
次に『転移』するのはミドルパートを飛ばしてセキースト帝国。その次──三度目の転移でノーシーストに辿り着くという。
話は通してある、と言っていたがヒツジさんの根回しには頭が上がらない。謁見とか普通にやってたけど、アリステラさんとかって元の世界では総理大臣とかに当たるんだよな……。
このセキースト帝国でも謁見があるそうで、『転移』の前にヒツジさんが忠告した。
「皆様、これから少々驚かれるような事があるかもしれませんが、どうかご乱心なされませんよう」
ヒツジさんの目線は坂と岩永に向いていた。流石に二度も求婚に走るとは思いたくない。坂は頷いて、岩永は心外だと言わんばかりに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
それを見て、ヒツジさんは魔法を発動する。
「よろしい。それではセキーストに参りましょう」
ピカッ、と一瞬光があって視界が暗転する。『転移』の魔法だ。
最初は少し酔ったが、二度目ともなると多少は慣れるものだ。
前回は聖堂の最奥──いわゆる王城の奥地に専用の転移魔法陣があったらしく、そこに出た。
果たして今回はどこに出るのだろうか。そう呑気に考えていると、声がかかった。
「……来たか」
威厳に満ちた声だった。
少年のようにも少女のようにも、老婆のようにも童のようにも聞こえる。にも関わらず、心の底から自らの尊大を疑っていない声だった。
思わず顔を上げると、一瞬で身動きが取れなくなる。
岩永の『魅了』とも違う。もっと純粋な、生存本能とかその辺りが警告を鳴らしている。
魔法使いとして未熟なこの身でも分かる。目の前にいるのは最強の魔法使いだ。魔力量が多いとか、技術が優れているとかそんな次元ではない。
どうして魔王軍はこいつに挑もうと思える。あ、いや、こいつは戦争に賛成なんだったか?
長い耳。幼く老いることを知らない身体。白い布を一枚纏っただけの霰もない姿に不釣り合いに立派な玉座に腰掛けるは最古の長命種。
見た目は幼い少女。ただそれだけの存在を前に、誰も言葉を発する事ができない。
「……定刻通りに、閣下」
果たして挨拶を返したのはヒツジさんだった。
バドズィナミア・オムニ皇帝閣下。
最古のエルフ。魔王であり勇者であり賢者であり聖女である万能の魔法使い。つまり現存するほぼ全ての魔法を網羅するという化物は、冷めた目を俺たちに向けて言った。
「大義である。ヒツジ・テンテン」
○
謁見は唐突に始まった。
「大義である。ヒツジ・テンテン」
「滅相もございません」
「貴様に言葉が必要か?」
「……いいえ。もはや閣下のお言葉に頼るような歳ではございませぬ」
「であろうな」
よく分からないやり取り経て、皇帝閣下の視線が隣に映る。そこにいるのは我らが大魔法使い、その妹の方。
「メイズ・シュトローム」
「……」
誰も言葉を発せない。話しかけられた者以外は。アリステラ教皇猊下など可愛い者だった。絶対的なカリスマ性という意味では、目の前の幼い少女に数段劣る。
視線を向けられたメイズの表情は固かった。耳が痛い? 聞きたくない? とにかくそんな顔だ。
つまらなそうな目で、オムニ皇帝は続けた。
「お前にくだらん些事にかまけている暇などない。お前の役目は生まれた時から決まっている」
「……知らないわよ、そんなの」
ふんっ、と顔を背けるメイズ。彼女は皇帝に良い印象がないらしい。おそらく初対面ではないのだろうと思われた。過去に何があったのだろう。
「閣下ぁ、あまり妹を虐めないでくださる?」
そんなメイズに助け舟を出したのは姉だった。皇帝とは知己だという話だったが、この圧を目の前にして普段と態度が変わらないのには尊敬さえ覚える。
「……メイル・シュトロームか」
皇帝閣下は目線を姉に向けた。二年も行方不明だったメイルに対してその口から出てくるのは、今までどこにいたとか、何をしていたとかではなかった。
「アマビエはどうだった」
ぴくり、と浜松の眉が上がる。アマビエ──とは、チェイネンに現れた魔王軍幹部の名前だったか。俺は見ていないが。
答えるメイルの頬は──何故か朱に染まっていた。
「……最っっ高でしたわぁ! 閣下はアレ、撃てるんです? す・い・ば・く♡」
いつになくメイルのテンションが高い。隣のメイズも引き気味だ。
これは、アレだ。多分魔法関連の話をしている。俺も最近メイルのことが分かってきた。
「愚問だ。よく励め」
「きゃ〜! でしょうねぇ」
身体をくねらせて歓喜をあらわにするメイルに対して、皇帝はすぐに興味を失った。
ふん、と目を逸らした皇帝閣下の視線の先にいたのはケンケンだ。オムニ皇帝は途端に顔を顰めた。
「ドワーフお手製の人間もどきか。お前にかける言葉はない」
「ですよねぇ。知ってました……」
ケンケンはたははと頬を掻いた。彼も初対面ではないと言っていたから、前にも同じようなことを言われたのだろう。
言葉通りにすぐに皇帝の視線が進む。
この世界の住人を一通り見て回った後だから、残るは異世界の勇者──俺の元クラスメイト達しかいない。
一人目は坂伊坂。不幸にも並び順的に、彼が最初に声をかけられた。
「剣士。貴様の望みはすぐに叶うだろう。良かれ悪しかれ、な。よく励め」
「……お、おお」
なんとか、といった形で坂は一言だけ返すことができた。それだけでも褒められるべき偉業に思えた。
二人目は岩永仙。その目が鋭く眇められる。
「……淫魔か。物を知らない童女ほど醜いモノはないな。見たところここにはお前を守ってくれる男はいないようだが──」
皇帝閣下は明確に岩永を蔑視していた。それから俺たち一行を見回して
「──ちっ。お前の望みを叶える方法はある。よく励め」
「……」
不本意だ、という真意を隠そうともせずにそう吐き捨てた。岩永は腰を屈めて震えるのみ。すぐに視線が隣に移る。
三人目は浜松神奈。
「読心者。貴様、さっきから私の心の内を読もうとしているな? どうだ、感想を聞いてやろう」
恐れ多いなんてもんじゃない。この女、何しようとしてやがる。
と思ったが、浜松にとっての読心術──表情を読むとか心音を聞くだとか──はもはや無意識で行なっている癖なのだ。責められる謂れはない。
「……別に。なんにもわかりませんでした」
やはり悪気は無かったらしい。少し罰の悪そうにしながら、浜松はすげなく答えた。良くも悪くも何も考えないのがこの女の美点だ。オムニ皇帝の圧にも物怖じすることなく返答していた。
「であろうな。その度胸があれば貴様を阻む障害は取るに足らんだろう。よく励め」
「……はい」
皇帝閣下の視線が移る。
四人目は沖苗葉。いつもはお気楽なお調子者も、この皇帝閣下の前では息を潜めていた。
「追跡者、か。くだらん権能だ。が、自らの領分を弁えている点は良い。よく励め」
岩永同様震える沖を言葉少なに激励して、視線が最後の一人に移る。
そう、俺である。
俺と目が合った皇帝は、怪訝そうに眉を顰めた。
「お前は──いや、貴様……何だ、お前。見えぬ。わからん」
「何でだよ! ちゃんとやれよ!」
「……」
思わず突っ込んでしまった。気まずい沈黙が流れる。
いや、だってそうだろ。これまで意味深な忠告を繰り返してきたんだから、最後までやり通せよ。
皇帝閣下の形の良い眉が一層顰められる。こうして見るとただの耳が長い幼女だな。いや、胸も平だし少年かもしれない。中性的なのだ。
「……失礼なやつだな。……だが、少しわかってきたぞ。お前──代行者、か? 私に成り代われるつもりか?」
皇帝閣下はしばらく俺を見つめたあと、俺の本質を言い当てた。心が読めるのだろうか。
代行者。誰かの代わりにしかなれない半端者。
果たして俺は要望に応えた。俺はバドズィナミア・オムニ皇帝閣下。全てを見透かしたような口調で喋るイケすかないガキ。
「……これでいいのか? 魔法の一つも見せてくれなければそちらは再現できんがな」
「……驚いた。が、つまらん技だな。お前がいくら励んでも頂に立つことはできない──適当に過ごせ」
何でだよ。せっかく言葉に従ってやったのに適当過ぎるだろ。俺も激励しろ。
皇帝閣下に激励を貰えなかったのは四人。俺、ヒツジさん、メイズ、ケンケンだ。基準が良くわからんな。
言いたいことだけ言い放って、皇帝閣下は俺たちを解放した。と言っても、皇帝閣下が退室してからしばらくの間、俺たちは全く身動きを取る事ができなかったが。
○
「何なのよあいつ! 人のこと醜いだとか物を知らないだとか、好き放題言ってくれちゃって!」
ヒツジさんとメイルの案内で客間に通された後、最初に激昂したのは岩永だった。
今はヒツジさんの魔力チャージ待ちだ。ヒツジさんは魔石を貰いに行っていて、他の者はここで待っている。
水を指すのは坂伊坂だ。
「つっても仙、お前くそビビってたじゃねぇか」
「それは、そうでしょ!」
岩永の足は今も小鹿みたいにプルプル震えていた。そういう坂も顔が青い。
バドズィナミア・オムニ皇帝閣下。アリステラとは全く違う意味で印象に残る王だった。
「まあまあ、二人とも。あれは覚えておいた方が良い忠告だよ。オムニ皇帝閣下の直感はいつも正しい」
「忠告ってケンケン、あれが助言だったとでも!?」
「その通りよぉ。閣下も悪気はないんだから。それにしても、閣下が全員にお言葉をかけてくださるなんて──流石は異世界の勇者ってことかしらねぇ」
「俺は怪しいけどな」
メイルの補足に全員何とも言えない顔になる。俺は特に顔を顰めた。多分違う意味で。
俺はそそくさとメイズの隣に寄った。
「……メイズ、大丈夫か?」
「……何よ」
「見たところお前の顔色が一番悪い」
「……」
言っても俺たちに皇帝閣下との面識はなかった。謁見だって唐突に始まったモノだったし、ビビりこそすれ心に傷を負った訳ではない──直接罵倒やら敵意やらを向けられた岩永はともかく。
一方メイズは違う。恐らく前々からの知己だし、姉と明らかに違う対応。思い詰めているのは明らかだった。
「……そういうあんたは平気そうね。最後のアレ、ナニ? 私、あんたが焼き殺されるんじゃないかと思ったわ」
「メイズ・シュトロームよ。お前にくだらん些事にかまけている暇などない──」
「うわっ! さぶいぼ、さぶいぼ立ったわ! それ閣下の真似っ子? 二度としないで」
俺のユーモアに返されたのは心の底からの軽蔑だった。冗談じゃん、冗談〜! 面白い手札が増えちまったな、後で岩永にもやってやろう。
俺が笑い終わるのを待って、メイズはぽつぽつと俺にだけ聞こえる声量で言った。
「……昔からおんなじ事しか言われないわ。お前はお姉ちゃんのスペアだとか、外部パーツだとか。知った事かって感じだけど」
「……何だ、意外と平気そうだな」
思い詰めていた様に見えたメイズだったが、それはもう当人にとっては解決した問題──瘡蓋を引っ掻かれて少し傷んだ、程度の話だったらしい。
でなければ、こんなに晴れやかな顔をする訳がない。
「ええ。ちょうど二年前くらいに、その辺りの心の整理はついてるの。私は閣下の望み通りにはならないわ」
「私も、それが良いと思うわぁ」
会話に割り込んできたのはメイル・シュトローム。姉である。
「そうなの?」
「ええ、ええ、松山さん。妹の幸せ以上に望むものなんてあるもんですか」
「……ちょっと、恥ずかしいこと言わないでよ」
魔法が絡まなければ一の常識人であるメイルだ。皇帝閣下──世界最強の魔法使いのお言葉に魔法が絡んでいない訳がない。魔法が絡んでも、優先順位は妹の方が上、ということだろうか。
美しきかな姉妹愛。何だかんだ二年ぶりの再会からまだ一週間弱しか経ってないんだよねこの二人。まだ話し足りないこともあるだろう、唐突に愛を確かめたくもなる。
「まあ、平気ってんなら良かったよ。メイズ達ともしばらくお別れだもんな。寂しくなるな」
ポンズ同様、シュトローム姉妹ともここで一旦お別れだ。
メイルさんは帝国の要職に付いている(本人はお飾りだと言っていたが)らしいし、メイズもフリーの冒険者とはいえ、セキーストの所属だ。
姉の帰りを切望している母親も居るという。帰郷を楽しんでほしい。
「ポンズにも言ったけど、無理してノーシーストに来なくても良いからな。俺に恩義を感じる必要なんてない──特にメイズなんて、自力でシセンを倒せただろう」
「あら、そんな事を言うの? 魔核を倒せても本体までは無理だったわよ。お姉ちゃんを見つけられたのは貴方のおかげだわ、松山。ありがとう」
「……どういたしまして」
感謝の言葉が聞きたかった訳じゃない。過大評価が気持ち悪いのだ。まあ貰って気分の悪いものではないが。
「なるべく早く追いつくわ。実際やることも無くなったし、ノーシーストで傭兵やるってのも悪くないのよね」
「……そっか。気長に待ってるよ」
最後に抱擁を交わして、シュトローム姉妹は去っていった。なかなか愉快な人たちだったな〜。特に姉の方。たまに狂気が顔を覗かせる感じがイイよね。
随分と少なくなった風に感じられる客間でケンケンが俺の元へやってきた。
「これで『迷宮組』は僕らだけになっちゃったね。何だか少し寂しいや」
「そうだな。ケンケンは居なくならないでくれよ」
「うえっ!? そんなこと言われても、ノーシーストでは別行動だと思うよ……僕、一応それなりの将軍なんだし」
「冗談だよ、分かってる。ていうか将軍やってたのかよ」
「まあね。まあ編成とかは着いてみないと僕にも分からないんだけど」
編成とか将軍とか、真面目に戦争やってんだな。当たり前なんだけど。もうすぐ着くというのに、まだ実感が湧いているとは言いづらい。
「……ほんとに、何でそんな危険な場所に行きたがるかね。ポンズもメイズも」
ぽつり、と溢れた声に俺は自分でびっくりした。
思ったよりも彼女らを大切に感じていたらしい。過ごした時間は短いはずなのに。明確に俺は彼女らを案じていた。そういう声音だった。
ケンケンが呆れてため息を吐いた。
「それ、本気で言ってたの? それを言うなら、松山はなんで僕に付いてきてくれるのさ」
「俺? 俺は……」
そういえば、どういう経緯だったか。
成り行きに任せていた、というのが正直なところだ。
ナインステイツを追い出されて、魔物に襲われて迷宮に囚われて。小鬼の集落で過ごしてケンケン達と会って。その後は行く宛なんてなくて、そうだ、俺は異世界の勇者、それも追放された勇者だ。ナインステイツの庇護を離れてる。他国に見つかったら最前線に送られるぞって脅されて、それもイイかもなと思ったのだ。魔物もたくさんいるだろうしって。
「ああ、そうか」
あの時、俺はせっかくできた友達の前で見栄を張ったのだ。拠り所のない俺を受け入れてくれた三人に、俺はやる時はやる男なんだって証明したくて。
「一回男が格好付けたんだ。最後まで通さなきゃだろ、ケンケン」
そうしてケンケンと俺はグータッチを交わした。岩永とか浜松が白けた目を向けているが、男なら分かってくれる。
図らずも俺も心の整理が付いたところで、部屋の扉がノックされる。入ってきたのは魔力チャージを終えたヒツジさんだ。
「お待たせしました。それに驚かせてしまってすみませんでした。ありのままの皆様を見たいというのが閣下の意向でして」
不意打ちのような謁見の裏側をヒツジさんが語る。皆、微妙そうな顔をしたがヒツジさんは気にも留めなかった。
「それでは向かいましょうか。最前線、ノーシースト共和国へ」




