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23 罠師って知ってるか?

 いやまじで時魔法ってやばくない?


 俺の『憑依』も大概やってると思うけどさ、でもあれ元の世界にいた頃からできたし別に。


 それで銃を作り出せたり狐になれたりするのは魔力ってすごいなぁって思うんだけど、ここは炎とか津波とか出せる世界だから。納得はできると思う。


 だが、時魔法は違う。


 目の前の光景は常軌を逸していた。一都市が壊滅するだけの被害を、まるで無かったことにしてしまった。魔力も体力も戻っている? 記憶は問題ないだろう……か? わからないが、とても一個人が扱えて良い力ではない。


 青空晴れ渡るそこに、もはや致死の弾頭は存在していない。


 建物も城壁も命も何もかもが、数瞬前のままであった。いや、ままになった。


 と、フッ、とポンズの身体がよろめく。生命力を使い果たした様な倒れ方だ。慌てて受け止める。


「お疲れ様……すごいな」


「……」


 あれだけの偉業を成し遂げたのだ。さぞや達成感に溢れた顔をしていると思ったが、ポンズの表情は暗かった。


「……ポンズ?」


 腕の中でぐったりしたままポンズは俺と目を合わせて、それからハッとしたように言った。


「……ま、松山様? 良かった、ご無事で……」


「無事も何もポンズのおかげだろ。ありがとう。これで命を助けられたのは二度目になるな」


「それは私の方こそ──ゴホッ、っ」


 腕の中で咳き込むポンズ。遠めに見える死者の軍勢は消えていない。まあ被害を巻き戻しただけだしな


「無理すんなよ。後はゆっくり休んでいよう。ポンズにはその権利がある」


 俺はポンズを背負って街に戻るために歩き出した。あわよくば俺もこのまま逃げられないかな。無理だよな〜! メイズと約束しちゃったし。


 でも一人では『ゲーム』できないと思うんだよな。俺が好きなゲームって基本対人だし。魔法は想像力の世界──つまり俺が俺の妄想を心の底から信じ込めるかどうかで変わる。イメージが甘いと途端に魔力効率落ちる感じもする。


 だから俺が死人を相手するには友達を調達しなければならなかったのだ。


 一人遊びって体でいけるか? いけるかどうかは俺次第なんだろうなぁ。大魔法使い松山でどうにかできるとも思えないし。敵の数が多すぎる。


「ま、松山様」


 そんなことを考えていると、背中のポンズが耳元で囁いた。


「ん?」


「……貴方は、女神様を信じていますか?」


 問いかけは脈絡のないものだったが、ポンズの様子が深刻そうで息が詰まった。俺は歩きながら、なるべく真摯に答えた。


「まあ魔王とかいる世界だしいてもおかしくない、と思うよ。ポンズは信じてないの?」


「い、いいえ、信じています! でも、話しかけてくるとは、思ってなくて……私の知る女神様は、魔王軍と戦う時くらいしか地上に現れない、のに……」


 ポンズは戦々恐々としながら言った。俺と会話している様で会話できていない。『何か』を信じられなくて──まるで譫語を呟いているようだ。


 俺が黙って聞いていると、彼女の独白が震え声で聞こえる。酷く動転しているようだった。顔も青ざめている。


「……いきなり、魔力と、啓示が、見えた……聞こえた? 理解させられて……私の魔力量では、松山様を蘇生するので手一杯で──そもそもっ、わ、私、時魔法使えるようになったばっかだしっ、蘇生は二度目だからともかく、こんな、こんな都市を丸ごとなんて……」


「……」


 俺は少し思案した。女神に話しかけられた。足りない魔力。蘇生はできても都市を再建はできない。女神の啓示。


 丁寧に状況を整理しながら歩く。


 一体何が起きた? 考えろ。変な違和感が頭の片隅に引っ掛かっている。


 頭を回しながら適当に会話を続ける。俺はこういう時に口から出まかせにパーフェクトコミュニケーションが取れる。TRPGで身についた密かな特技だ。


「……辛かった?」


「……ぁえ?」


「酷い光景だった。あんな惨劇を目の前に見せられて、ポンズが失敗したら皆んな死ぬ。そんな責任俺には背負えないよ。女神ってのは人の心がないのかな。ポンズは、辛くなかったか?」


 女神に会った聖女。明らかに人智を超えた時魔法。魔王軍と戦う時にしか現れない女神──そういえば、ガシャドクロは魔王軍の四天王とか言ってたか?


 考え事の最中、背中から嗚咽が聞こえた。


 やっと張り詰めていた緊張の糸が切れた。そんな安堵を感じる堪え切れない啜り泣きだった。


「……ぁ、つ、辛かった、です……っあんな魔力、耐えられない──破裂しそうでわ、私し、死んでない、コレ、夢じゃないん、ですよね……?」


 きっと悲しくて泣いているのではないだろう。


「……ああ。ポンズも俺も無事だよ。全部君のおかげだ。ありがとう」


「……ぅ、はい、はい……!」


 パフェコミュニケーション! リザルトがあったら三つ星だ。


 腐っても俺も東栄生。国一番の名門校出身。一を聞いて十を知る──とまではいかないが、読解力には自信がある。


 話を聞く限り実際にポンズは頑張ったと思う。時魔法と聞いた時はその万能さに驚いたが、そこに女神(上司)の圧力と民の命(責任)が付いてくるなら話は別だ。自由が一番だからね。


 だから、背中が濡れるくらいで彼女への感謝は薄まらない。誇張抜きで命の恩人なのだ。


 俺は少し遠回りしながら歩いた。最寄りの避難所──教会に預けるつもりだったのだが、鼻水塗れの友達を置き去りにするほど俺は酷ではない。


 そうして歩き続けてポンズが泣き疲れてうとうとし始めた頃に、俺は思い至った。


「……女神の祝福。ああ、東野か!」


「……?」


「ああごめん、大丈夫だよ、大丈夫。こっちの話だから」


 ずっと喉に引っかかっていた小骨が取れたような気分だ。


 そうだ。俺は東野京の祝福を知っている。


 あいつの祝福は『女神の祝福』。俺が感じた違和感の正体がコレ──


「多分正解だろうって、嫌な確信があるな……」


 ──てっきり魔法の才能に恵まれてるだとか、とてつもなく幸運なんだとかだろうと思っていたが、あれが『女神を従える力』だったらどうだ?


 いいや、『東野が女神に祝福されている』のだ。きっと東野側が女神に何か有益なモノを齎せる。その代わりに女神は力を貸す? 顔が好みだから無条件で従いますとかだったらやばいな。うわあ、あいつの祝福を『鑑定』してぇ〜!


 そもそも女神は実在するのか? 居てもおかしくないとは思うが──いや、ポンズの言葉は信じられる。話しかけられたと言っていた。


 その女神はとてつもない力を持っていて、加えて東野の味方だ。そいつが東野の指示で俺を助けようとポンズを利用した──突拍子もない発想だが、どうだろうか。


 状況から考えると東野が何かしたというのが一番濃い線に感じる。ポンズ一人では為せなかった偉業には協力者──女神がいる。そしてそれが、直前に俺が助けを求めた『「女神の祝福」の所持者』。筋は通っているが。


「……女神を使い魔扱いって、本当にそうだったら規格外がすぎる。祝福格差ここに極まれりだな」


 これが全部妄想であって欲しいな、と俺は思った。心からそう思った。俺の深読みってそんな当たらないしね。





 まだ俺の仕事は終わったわけではない。


 眠ったポンズを置いて裏門に舞い戻った俺は、間近に迫る死者の軍勢を相手に手で傘を作った。


「おーおー、いっぱいいるな。骨、屍、腐肉で魔物は見えない……『統一言語』でズルは出来そうにないかなぁ」


 スケルトン、グール、ゾンビ。

 コミケ会場よりもぎっしり詰まった死人の群れだ。


 大魔法使い松山でも、あれだけの大軍は抑え切れないだろう。根拠はメイズが俺に助けを求めたこと。メイズに出来ないことは所詮模造品の俺にも出来ない。


「でも多分、俺らはこの世界の特異点(イレギュラー)なんだ」


 コレは『統一言語』を使っていた時にも思ったし、リンが魔法を使えた時にひょっとした。そしてヌリカベを殺した時に確信した。


 異世界人の最も恐ろしい部分は常識が異なることだ。


 果たしてクラスメイトの何人が気付いているだろう。気付いても再現できないか? 俺の『憑依』はちょっとした特技だ。


 魔法は万能だ。だがそこには秩序がある。『無意識の魔力』だ。


 人を殺してはならない。

 人のものを盗んではならない。

 隣人を愛しなさい。


 そうした常識が守っている秩序を壊す可能性を秘めたモノ。それが俺たち異世界人。


 ハンターはもう使えない。あの時は本当に命を落とすつもりで生命力を振り絞った。ポンズの『蘇生』がある以上、もう二度と成功しないだろう。俺が俺を信じられない。


 妖狐を使っても意味がない。アレは襲われても死なないだけだ。あんな狐耳と尻尾を生やしていたらすぐにバレるだろうしな。戦闘の余波でポンズに死なれては寝覚めが悪いから優先して施した措置ってだけ。それがあの爆弾を防いだのは幸運だった。


「……罠師って知ってるか?」


 物言わぬ死兵に俺は尋ねる。広い門の前に立ち塞がるたった一人の人間はさぞ不気味に映るだろう。


 理が伴っていなければ魔法は使えない。信仰に関わるからだ。


 そう、信仰。良い言葉を見つけた。


 魔法信仰。魔法は研鑽しなければ使えないし、理論を学ばなければ使えないし、そもそも才能あるものしか魔法は使えない。そんな『無意識の魔力(じょうしき)』。


「──ッ!」


 痺れを切らした死兵の一人が俺に斬りかかる。俺は構えもせずに受け入れた。


「!?」


 そして、何故か斬りかかった方が身体を切断されて死んでいる。


「おいおい、意外と呆気なく死ぬんだな。死体の癖に」


 俺には理があるのだ。人外の想像力で再現する『元の世界の知識』が。そこに確かにあったと思わせる現実感(リアリティ)をいつでも脳裏に描くことができる。それは俺が愛したモノだから。



 人狼ゲームってわかるだろうか。


 よく騙し合いのゲームだと言われるが、違う。あれは説得のゲームだ。別に大した違いはないが。村が村を説得できれば村の勝ち、狼に説得されれば村の負け。どちらの陣営であれ、自分がどれだけ信用を勝ち取れるか。そういうゲームだ。


 人を説得するにはコツがある。まず自分を説得しなければならない。心の底から思い込む。自分の本心さえ偽って見せる。

 


 つまり──これは俺と世界との戦いだ。


 俺が世界を騙し切れれば勝ち。俺は最後まで完璧に役職を羽織り切ることができる。


 世界に気付かれれば負け。俺はただの一般人松山愛人になり、容赦なく首を刎ねられるだろう。


 だが舐めるなよ。俺はお前を振る舞いで、思考で、声色で発想で、最後には自分自身も騙し切って──必ず説得してみせる。


 多分これが『統一言語』の権能だということは感覚的に理解していた。


 他者に理解を強要する。その対象が『人』から『魔力』に変わっただけだ。


 魔力は良い。俺の妄想をきちんと噛み砕いて受け入れようとしてくれている。いや、俺がこじ開けようとしているという感覚の方が正しいか? 受け入れてくれてるように見えるのは、『祝福』という異常な権能の見せる錯覚で。


「俺は生まれた時から罠師だった」


 間髪入れずに死兵が束になって斬りかかってくる。魔法を放つやつもいる。俺を無視するという選択肢が無かったのが救いだった。所詮は物言わぬ雑兵か。


 魔力。世界。お前にはお前の『常識』があるのだろう。でも俺にだって譲れない『常識(プライド)』がある。


「酷い雪山でさ、たまに狐が化けて人里に降りてくる。そいつらは守り神ってなもんで、気付いても指摘するなって親父は言うんだよ。見破っちまったら死んじまうから」


 俺の首を刎ねようとした剣士の首が飛んだ。腹を裂こうとしたナイフ繰りが腑を見せびらかす。火の玉を射出した魔法使いは焼け死んで、弓を構えた兵士の心臓を矢傷が抉った。


 理解を拒むな、受け入れろ。別に俺を許容したところで不具合は起きないさ。『人狼ゲーム』の知識があるのなんて俺くらいだ。


「罠ってのは獲物を取る時にも使うが、人を守るのにも使えるんだ。俺はそういうのが得意でよ、コレで飯を食ってる。お偉いさんの馬車に罠紐を取り付けたりな」


 遊び相手がいないなら。

 世界と()()()踊れば良いのだ。


 百から先の死体は数えていない。死兵に意思はないのか、この場に司令塔がいないのか。奴らは学習もせずに愚直に殴りかかってくる。


 俺は欠伸を噛み殺しながら独白する。脳裏に過ぎる『自分の過去』を、何故か声に出して話したくなっている。


「俺の罠は、俺が守る者に近付いたやつを殺す。今は俺だな。敵味方の区別が付かねぇのが難点だがよ、良くできたモンだろ?」


 さて、ぶっつけ本番だったがメイズとの約束もコレで果たせたかな。


 俺がいる限りこいつらにこの門は通れない。能動的にこいつらを殺すことは出来ないが、都市を守っていれば援軍が来るだろう。ここは戦士の国チェイネンだ。さっきの爆撃もあったし異常事態であることには気付いている筈だ──


「──あれ、援軍来たらやばいな?」


 俺の『罠』は近づくモノ全てを傷つける。


 それは『狼』はもちろん、同じ人間を守ろうとした『狩人』も殺す諸刃の剣。


 そんなことに気を取られた時だった。


「……ぁぇ?」


 どっと、身体から何かが抜けたような感触があった。


 なんだ、気力? 他にも想像力だとか活力と言ったあらゆる力が抜け切って、抜け殻みたいになった手足は言うことを聞かない。


「……魔力切れか!」


 俺の『憑依』はもはやただの特技ではない。


 これは魔法だ。明らかに常識ではあり得ない効果を齎している。何だよ罠師って! 襲ってきた奴が勝手に死んでるのは罠にかかってんのかソレ?


「今更正気に戻っても遅いんだよ俺! やらかした失敗した考えろ考えろ考えろどうするどうするどうする……!」


 魔法ということは、魔力を使うということだ。


 俺の想像力は無限でも魔力は有限──人並みだ。無敵モードは一瞬で終わったようだな?


 ハンターの時は命を賭して──生命力を魔力に無理やり代替して一撃を放った。だが今回は特に代償を払った記憶はない。つまり、俺のなけなしの魔力100では十分の足止めが関の山で。


「──ッ」


 頭を必死で回しているが、打開策は見当たらなかった。何せ身体が動かない。


 魔力欠乏症。魔力ってのは第二の生命力──それが枯渇すると生命活動に支障をきたすと知ってはいた。


 目の前の光景が酷くスローモーションに見える。俺の脳裏が走馬灯を見せる。だが、そんな悪あがきにも満たない無限の思考は遂に勝機を見出せなかった。


「……あ、死──」


「無茶し過ぎだよ〜」


 酷く場違いな声が聞こえた。この世全てを舐め腐っているような、戦争なんか経験したことのない者特有の平和が滲み出ているような。


 でもそれは、とてつもない包容力で聞く者皆を安心させる魔性の声音だった。


「……高松?」


 俺の周囲に青いバリアが貼られている。ガキィンと金属質の音を立てて死兵の剣が弾かれた。魔法は触れる側から魔力に解かれて消える。


 奇しくもそれは俺の『罠』と似たような絶対防御。


 それと同時に俺の視界が唐突に変わり、さっきまでより空が近くなる。これは『転移』か? ヒツジさんは見当たらないが。


「そうだよ〜。何で一人で国守ろうとしてるの?」


 そうして転移した俺の隣に現れたのは高松香河だった。背後に衛兵と楽観派の仲間たちを連れて、彼女は戦場では場違いなほど明るく振る舞っている。


「……友達に、頼まれたから、だよ……!」


「あはは、何それ。松山が良い人みたいじゃん」


「俺は悪い人ではないだろ!」


「つーちゃん殺そうとしたのに?」


「それ冤罪ー!!」


 そうだ、俺が援軍を頼んだのは東野だけではない。


 清水はちゃんと伝言を果たしてくれていた。感謝しても仕切れない。一体俺はあと何人命の恩人を作れば良いのだろうか。


 高松の参戦で気が緩んだ俺は、唐突に意識が消え掛かっているのを自覚した。最後の力を振り絞って高松に伝える。


「……すまん、俺は限界……後は、任せた……」


「はい、お疲れ様。任されようではないか!」


 岩永仙がか弱さで集団を率いているならば、高松香河はその包容力でもって統率する。


 彼女の頼もしい声に窮地を脱した安心と死線を彷徨った恐怖とで俺の感情はぐちゃぐちゃだった。これが吊り橋効果か、やばいポンズ、メイズ、俺この子好きになっちゃう!


 くだらないことを考える余裕が出来てきたところで、本当に俺の視界はブラックアウトした。

一口人狼用語解説

罠師:実質狩人の上位互換。夜に一人を守ることができ、守られた人を狼が襲撃すると狼が死亡する。狩人が同じ人を守っていたら狩人が死亡する。

本来は自分を守ることは出来ないが、松山は自分の周りに形だけでも罠を撒くことで解決した。

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ん、もう一回核撃たれないのはなぜ?
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