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18 襲いかかる試練

 武道祭の控え室。もうすぐ出番だというところで、外から大きな爆発音が聞こえた。


 しばらくすると衛兵が立ち寄り、武道祭は続行するとの知らせが入った。


「感奈」


「はい」


 東野京だ。彼は隣に佇む少女──浜川感奈に告げた。


「伝言を頼めるかい? 何もするな、だ。僕たちはことの成り行きを見守ろう」


「はい。他には」


「騒ぎの中心にいるのはイサカだ。無意識の魔力の話は聞いたかい? あれはね、僕たちに敗北は許されない、って意味なんだ」


 無意識の魔力。一般常識や伝聞、噂話が現実に作用する。


 もちろん急に人が変わったりはしない。武道祭などの特殊な環境下ならばともかく、普通は五年とか、十年とかの時間をかけてゆっくりと、海流が流れるように変化していって、どこかで変革が訪れる。


「魔王軍が武道祭を狙うっていうのは分かってた。これはきっと戦争なんだ。魔物が、魔人が、魔に連なる者が人類から『常識』を奪おうとしている。そんな情報戦」


 魔物は人間より遥かに強大だ。

 しかし、人間は魔物を討伐することができる。


 そんな一般常識──前提を、魔王は覆そうとしている。魔物に知恵を与え、人類から無意識の魔力の恩恵を奪おうとしている。


 年々魔王軍は強大になっているという。少しずつ人類の心は折れていっている。ノースロードの陥落と、屈強で知られたノーシーストの苦戦。


 もしかしたら人類は負けるのではないか。

 いや、今までだって何度も魔王を討伐してきた。


 そんな見えないせめぎ合いが横行している。まさに政治だ。


「そんな中武を競う大会が開かれたんだ。人類も、それを狙う魔王軍も政治の本質をよく理解している。そして、だから今人類の希望である僕らは負けられない。一年の訓練期間を設けたナインステイツは妥当な判断をしたと思う。特に僕たちは石橋は叩いて渡らなければならない」


「坂達興味派と我々安定派の違いを、それとなく市井に流しておきます」


「それは良いね。僕たちと話したい人は沢山いるだろう」


 そう言って東野は闘技場に向かった。指定の時刻になったからだ。


「お手なみ拝見といこうかな。イサカ。名誉を得るにせよ失望を買うにせよ、それはすべて君のものだ」





 アナウンスが入る。十分程度の遅延と、大会は続行されるという連絡だ。

 ゆるふわカールの少女──高松香河も様子見を提案する。


「どうせ坂くんでしょ。あれに関わったらこっちが火傷しちゃうんだから」


「手貸したら手貸したで被害がおっきくなるんだよな」


「にゃおは、変なジンクスやめて」


「お前が先に言ったんだろ! あとニャオハって呼ぶな」


 沖苗葉。褐色肌の青年は背後を見回して言った。


「でも、行きたいっちゃ行きたい奴だけ連れて見に行ってもいいか〜? ぶっちゃけ俺も気になってるし」


「はいはい、良いよ。好きにしな〜」


 どこまでいってもここの派閥は楽観的だ。


 好きに生きるという意味では、坂達興味派に近いかもしれない。


 もともと窮屈な大会観戦に飽きてきたところだった。今回の勇者一行はお忍びらしく、他の観客からは見えないVIP席からの観戦だった。


 沖が数人を連れて部屋を出て行った。


「良いんですかね、レジーナ王女? まあ坂くんたちも行っちゃってますけど」


 傍に佇むはナインステイツ王女。彼女ははあとため息をつく。この場にはナインステイツの人間しかいない。


「……ええ。警備は万全でしょう。仮に不祥事が起きたとて、それはチェイネンの失態です。ナインステイツが出張るのも向こうの面目を立てられなくなりますから」


「難しい話ですねぇ。警備は万全、ですか。それはちょっとまずいかもしれませんねぇ」


「まずい、とは? 武道祭には歴戦の強者が揃っております。滅多なことは起こらないでしょう」


「それがまずいんですよぅ」


 高松香河は笑いながら言った。


「さっき苗葉も言ってましたけどねぇ、坂伊坂ってのは呪われてるんですよ」


「呪われてる、とは? 先ほどの爆発に坂様が関与していると?」


「それはないですね。 ……ああいや、言い方を変えます。試練、そう試練です。坂くんは試練に愛されてるんです。この試練ってのが厄介でしてね。こっちの戦力があればあるほど、規模を増すんです」


 レジーナ王女はピクリと眉を動かした。同行こそさせていないが異世界の勇者達には護衛を付けている。グレランも沖苗葉たちに付いて行った。


「人死にが出たことはありません。でもまあ、命以外は何が無くなっても不思議じゃありませんねぇ」


 高松はやはり、お気楽に笑っているのみだった。





 大爆発が起きてすぐ、坂は俺の手を引いて走り出した。


「っておい!」


「手伝えよ! 多分お前も『参加者』だ! お前がいなきゃどうにもならんかもしれん」


 相変わらず坂の言葉は分かりづらい。というか東栄の連中は大体話が通じない。


 にこにこ手を振っている清水もだ。隣でポンズが呆気に取られている。


「頑張ってな〜、適当に人払っとくわ〜」


「あ、あの」


「ポンズちゃんはこっちや。野蛮なのは男どもに任せて女子会しよやぁ」


 ポンズの手を引いて清水が叫ぶ。


「皆さーん、ちょっと花火が事故っただけですよぉ〜! でも危険なので音のした方から離れましょうねぇ」


 昔から清水の声はよく響く。胡散臭い節もあるが、妙な説得力があるのだ。あと歌も上手い。


 俺は足を縺れさせながら坂に叫んだ。


「おい坂! またお前なんかやったのか!?」


「別に俺は何もやってねぇよ!」


「じゃあなんで! 俺も避難したいんだけど……」


「まあ待て、聞けよ愛人」


 坂は少しだけ声を顰めた。


「確かに根拠は勘だ。勘だが、なんかやべぇ気がする。つぐん時は俺関わってねぇからこの世界じゃあ初めての『事故』だ。しかも剣やら魔法やらがある世界で!」


 だめだ、と俺は思った。坂の目は深刻そうな言葉に反して輝いている。


「やべぇ面白いことになる気がする!」


「お前の友達誘って行けよ!」


「あいつらも来るさ! こういうのが大好きな奴らだからな。でも近くにいて、俺が迷惑かけていいと思ったのはお前だけだ」


「余計なお世話だ!」


 ぱっと手が離されて俺はたたらを踏んだ。


 目の前には──死体の山だ。


 果物を売っていた店主が。おそらくその辺を歩いていただろう親子が。たこ焼き屋の──俺が焼き方を教えて路銀を貰ったスキンヘッドの親父さんが。


 油断していた。坂の試練で死人は出ないと思っていた。


 死体を見るのは二度目だ。一度目は迷宮で、眠るように死んでいた兵士を見た。


 だが今回は違う。ついさっきまで暖かかっただろう身体から、血がどくどくと流れ出ている。腹に、頭に切り傷がある。脳髄や腑がぶちまけられている死体もあった。


 俺は蹲って口元を押さえた。吐きそうだ。駄目だ、これは。冗談で済ましていいレベルじゃない。役を羽織る気にもなれない。


「愛人、あれを見ろ」


 震えながらも辛うじて立っている坂が、そろそろと指をさす。


 言われるがままに視線を上げると、男と巨漢が戦っていた。


 紫の髪をかき上げた浅黒い肌の大男だ。腕が、四本ある。正真正銘の化け物だ。


 戦っているのは剣士だった。苦労人みたいな下がり眉で、どこからどう見ても人畜無害そうな──


「──あ、れ、ケンケン……?」


 ──ケンケンだ。ケンケンが戦っている。だが四本腕になかなか攻めきれずに防戦一方のようだった。


「違う。後ろだ。剣士の背後をよく見ろ!」


 言われてケンケンの後ろを注視した。女の子が尻餅をついている。腰が抜けて動けなくなっている? しかもあれは──


「岩永? 岩永じゃないか! なんであんなところに居るんだ!」


 副委員長の岩永仙。悲観派筆頭の泣き虫な少女。


「観光でもしてたんだろ。松山、提案がある」


「……冷静だな、おい」


「なんとかな。お前も落ち着いたか?」


 吐き気はいつのまにか治っていた。


 岩永の姿を見たからだ。いかにも可哀想な彼女を見ると助けたくなる。岩永にはそういう被庇護者の才能がある。


「よし。俺が隙を作る。その間に仙を連れて逃げろ」


「……まじかよ、あいつのトモダチはどこ行った?」


「ヘタレのあいつらがんなこと出来るわけねーだろ! あの剣士も相当な凄腕だが、周りを守りながら戦ってるから攻め手に欠けるんだ。お前は、ここで、避難活動。オーケー?」


 悲観派は──言ってしまえば岩永のファンクラブみたいなもんだ。彼女の醸し出す庇護欲に釣られて彼女を祭り上げる者たち。転じて、確かにここ一番で度胸があるやつはいない。


「おーけー。ちゃんと守れよ、俺は祝福なんて持ってねんだからな」


「そういやそうだったな。ちっ、結局東野も高松も傍観かぁ? まあ、いいか」


 舌打ちをしつつも、坂の瞳は輝いていた。強い男だ。逆境に慣れている。


 舌なめずりでもしそうな雰囲気のまま、カウントダウンが始まる。


 3、2、1


「GO!」


 合図と共に俺は駆け出した。坂が大男に一太刀入れたのを確認して、さっと岩永を担ぎあげる。


「ッ新手か!」


 大男は難なく坂の剣を弾いた。四本腕にはそれぞれ剣が握られている。四刀流ってか? 趣味悪いぜ!


「マツヤマ!」


「ケンケン! 俺は一般人を退かして回る! 増援も連れてきたから足止め任せた!」


「うおおおおおお!」


 息も吐かせぬままに坂が攻め立てる。大男は一瞬逡巡した後、翔んだ。


 そう、翔んだのだ。その巨大からは想像できないくらいの俊敏さを見せて跳躍した。


 そして落ちてきたのは──俺の目の前だった。


 どしぃん! と轟音を鳴り響かせて、まるで地震でも起きたみたいだった。危うくバランスを崩しそうになり、目の前には──


「っ」


 ──目と鼻の先。二メートル程度の距離を空けて、俺と大男が対峙する。


「……なんで、だよ。なんで俺たちを狙う!?」


「ほう、ふむ。なんで。なんでときたか! 我らが侵攻に大義を望むか!」


「知らっねぇよ俺もこの子も一般人! ドンパチリやりてぇならやりたい奴だけでやれよ!」


 俺は必死に口を回した。時間稼ぎだ。もう俺には口先だけしか残っていなかった。


 先ほどの地震で足が痺れて動けなかったのが、ようやく治ってきた。ケンケンと坂も俺に合流する。


「良かろう。新たに我が前に立ち塞がりし勇敢な者どもよ。戦士は好きだ。我は『忍耐』ならせば、今一度名乗りをあげようではないか!」


 じり、と一歩後退る。


 血の底から響くような重低音で、四つ腕の化け物は名乗りをあげた。


「我が魔王様から御名を賜り申したは魔王軍幹部、『忍耐』の称号! 魔王様の敬虔なる信徒。その名も──ガシャドクロ。忍耐強きガシャドクロである!」


 ワーハハハ! ガハハハハ! とガシャドクロの笑い声だけが木霊する。


 魔王軍幹部。忍耐強きガシャドクロ。


「差し当たっては──そこな小娘に掛けられた呪いを解こうと思ってな。なに、殺せばすぐじゃろうて」


 ハッ、と言われて背中に背負った岩永を見る。


 意識はない、はずだ。いやあるのか? わからない。


 違う。その目は見開かれている。真っ赤な双眸が、誤ることなくガシャドクロを見据えている。


「だ、だめ……ころ、すな……こ、れは、めいれい……だ……」


 虚ろな表情のまま、岩永仙は呟いた。

 『魅了の魔眼』。岩永は、ただ腰を抜かしていたわけではなかった。


 ガキィン! と目の前で火花が散った。ケンケンだ。ケンケンとガシャドクロの剣が交差している。だが、ガシャドクロにはまだ剣が三本ある。


 キィン! と。二振り目は坂が防いだ。


「小癪な!」


 ケンケンが叫ぶ。


「マ、マツヤマ、逃げろ! なんだかわからないけどその子の掛けた魔法が効いてるうちに! こ、こいつが本格的に暴れ出したら僕でもまずいかもしんないぃ!」


 ああ、つまり背中のこいつは爆弾だ。こいつを背負っている限りガシャドクロは俺を狙い続ける?


 とんだ貧乏くじを引いた気分だった。俺は走り出した。


「ああもうわかったよ!」


 試練が、襲いかかってくる。

浜松神奈。モチーフは人狼アル○ィメットよりカミラ──を金髪にした感じ。


訂)ガシャドクロを寛容→忍耐に変更

慈悲深き寛容の席は既に埋まっていたのわ失念していました。

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