オープニングイベントアフター
本日三話投稿です。(3/3)
読み飛ばしにご注意ください。
『ほう。人ならざれど、人を救わんとするか』
想像していた衝撃がいつになってもこない。疑問に思い目を開けば、衝突寸前の位置で不自然に止まった象。
そして、その奥。先程まで存在していなかった、竜の姿がそこにはあった。
全身白一色の中、瞳だけが赤く紅く輝いている。象と比べ少し小さいくらいの大きさであるのに、感じる圧はその比じゃない。
『彼らの氷を溶かすのは、其方らなのやも知れんな』
「やほ」
「スピードか」
急に現れたスピードは下半身が透けた、霊体アバターとでも言うべき姿だった。よく見ると倒れていたプレイヤー達が皆復活している。ということは、やっぱり最後の象の攻撃は避けきれなかったらしい。……なんだか会うのが久しぶりな気がするが、実際はそんなこともないのか。
というか、ヌルッとイベントに移行したので、いまいち感情の整理が追いついていない。
今の状況は時間停止中ってことなのか?
『なれど、これは過去の追憶。この記憶は有り得たかもしれない記憶に留まる』
『とはいえ、其方らの活躍が見事であったのもまた事実』
『報酬として、此度の経験を幾らか現実に反映しよう』
竜が言い切るのと同時、久しく聞いていなかったアナウンスが聞こえて来た。
【ワールドイベント:前日譚をクリアしました!】
【クリアランク:S】
【クリア報酬は通常マップにて配布されます】
まさかオープニングをイベントにするとは。偶然ランクSを取っているのも驚きだが、これがまだ前日譚だった事に驚く。いや、確かにエンドマップっぽいなとは思ったけど。
だが情報の暴力は止まらない。
「ああ、それと……」
イベント仕様ではない、恐らく俺にしか聞こえていない声で、竜が話を続ける。
「最後の最後での其方の行動には胸を打たれた。褒美として、もう少しだけ会話する権利をくれてやろう」
竜の視線誘導に従えば、霊体となったエリーがいた。竜の発言内容的に、このイベントは既に起こった過去の追体験のようなので、エリーとは恐らくここで最後なのだろう。
竜に目礼し、エリーに近付く。
エリーはさっきまでの弱々しさから一転、不遜な態度を復活させていた。
「遅いぞ!……えーと」
「ボンドです。……そういや自己紹介してなかったな」
「ボンド!私達は助かったんだ。生きて帰れるぞ!」
「あー……」
損な役回りが多くないか俺?
まあゲームなので、「お前はもう死んだんだよ」でもイベントは進行するんだろうが、ここまでロールしてきてそれは酷いだろう。
「エリー。俺達はここで潰えました」
「!」
「しかし俺達の意思は受け継がれていく。そして幸運にも、言葉を未来に伝えられる」
「……わかっている」
「なら、聞かせて下さい」
俺だけ死んでいない判定を下されたのか、実体のある迷宮人形アバターなので、もう触れることは出来ない。出来ないが、手を伸ばす。
はたして、長い沈黙の後、エリーは答えた。
「妹に、『すまなかった』と伝えてくれ」
了解しました、と答えれば、安心したように笑って、
「ボンド、初期エリアを選んでくれだって」
スピードは空気を読め。
》ゲームを始める前に初期エリアを選択して下さい。
》選択可能エリア:ファルタジオ帝国,ミルガジスタ連邦,ボルド森林保護地区,ヒバ村,ランダム
》※選択したエリアによって、一部登場する敵性生物,アイテム,イベントが変わります。
》※選択後しばらくはエリアの再選択はできません。
》イベントを通して最も相性の良いと判断した他プレイヤー一名と会話可能になっていますが、必ずしも同じエリアを選択する必要はありません。
》※人数調整の都合上、抽選を行い希望エリア以外に変更する可能性があります。
◆
「良かった、考えてることが同じで」
「流石に疲れたからな」
あれから。
初期エリアを選択して、いざ本編!……の前に小休憩を挟む事にした俺は、一旦ログアウトしていた。ログアウトした所に丁度連絡が飛んできて、こうして霧江と話している。
「で、どう?今の所は」
「メチャ面白い」
「良かった」
安堵したような声。
自分が勧めた手前、かなり気にかけていたようだ。安心させる為、さらに言葉を重ねる。
「いやマジで面白いぞコレ、なんと言っても操作性がダンチだ」
「それは私も驚いた、ベータの時から明らかに良くなってる」
「それにグラもメッチャ綺麗だし」
「……美女はべらせてたもんね?」
一転、揶揄うような声。
何を気にしているのか、何となくわかるが……ややこしくなるのでノーコメント。明らかに黙秘した俺を追撃する霧江も、わかって乗っかってるんだろう。
オンゲは人間関係で沼ると闇が出てくるからな……。今後は気をつけなければいけないだろう。
「所で、霧江は初期エリア何処にした?俺達はファルタジオ帝国なんだけど」
「達?」
「ああ、結局スピードとは暫くパーティを組むことになってさ。良かったらキーファもどうかなって」
「……有難い誘いだけど、無理、というか分からない、が正しいかな」
「?」
ランダムを選択したらしい。
(この後おまけを投稿します)
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