エンシェントエレファント-3
本日三話投稿です。(2/3)
読み飛ばしにご注意ください。
身体が軽い。
あの光には、ヒール効果の他にバフ効果もあったらしい。さっきよりも軽快に身体を動かせる。生き残ったメンバーと合流し、まずは情報共有を行う。
「俺達はまだ諦める気は無い。ソッチは?」
「いやまあ、あんな気合い見せられちゃね」
「それにクリア報酬が気になる」
思い思いの理由。だが全員やる気をみなぎらせている。
「基本はさっきの流れと同じだ。鼻を登って、目を叩く」
「了解!」
「あ、この石渡しとくよ。一度でも成功した人がやるべきでしょ」
「……ありがと」
気合十分。駆け出した俺たちを迎かえるように、象もまた動き出す。
流石に火炎放射を連続で使ってくるような鬼畜さは無いようで、少し安心した。だが、それでなくてもその巨体が脅威なのは変わらない。また先程より人数が少ない分、緊張が身体を固くする。
「まずはスタン攻撃の誘発だ!」
象は確かにデカイが、実の所鼻攻撃にさえ気をつけていれば、他の攻撃はそこまで怖くない。というのも、象牙射出が形態変化で不可能になった今、ほかの攻撃と言えば、その巨体を活かした体当たりか、踏み付け攻撃くらいだからだ。
どちらも大ぶりで、だからこそ避ける隙は大きい。
「右足踏みつけくるぞ!」
「距離を取れ!!」
「言われなくとも!」
危うげなく戦闘は進む。だが欲しい時に限って、振り下ろし攻撃が中々こない。ゴールの見えない耐久は確実に神経をすり減らしていく。
体感にして十分は経った時、ようやくそれが訪れた。
「来たぞ、散れ!!」
「応!」
「頼んだ。スピード」
「言われなくても!」
スピードが一回目と同じように走り出す。象が高く上げた鼻を打ち降ろさんとするタイミングを見計らい、跳び上がる。ここまでは一回目と同じだ。
後は打ち降ろされた鼻に登って、攻撃するだ、け……?
ニヤリ、と。
象が、まるで愉悦に浸るように笑った気がした。持ち上げた鼻を叩き下ろさず、振り下ろす勢いで下から丸めて――
「フェイント……!?」
「スピード!!」
その可能性が頭をよぎった瞬間には動き出していた。跳び上がりつつ手に持っていた棒きれを投げて撹乱、稼いだ時間で宙に浮いたスピードの身体を押し出し、象の目の前に躍り出る。
「来いよ、俺が相手だ」
――デコピンの要領で弾き出された鼻にぶつかり、後方へ弾き飛ばされた。
結果を先に言えば、俺はまたも生き残った。だが、それは俺の実力で、という訳では無く、偶然か幸運か、あるいはその両方によるものだろう。
「クッソ、全身痛ぇ」
ゲーム故に痛覚制限が掛かっており、現状の見た目に即した痛み程ではないが、それでも薄らとした痛みはある。ボロボロの身体に鞭打ち立ち上がろうとした所で、腕を掴まれた。
「馬鹿者。私の魔法が間に合わなかったら死んでいたぞ」
「……助けてくれてたんですね」
「ふん。勝手に死なれても困るからな」
どうやら助かったのには理由があったらしい。助け起こされた俺の前で、偉そうに胸を張って威張る女性NPC、……確かエリザベスだったか……の姿がそこにはあった。手に持っている錫杖の先端、はめ込まれた石から、優しい緑色の光。
「とはいえ私の魔力はじき尽きる。これ以上のサポートは出来ないぞ」
「いや、充分助かってますよ」
「……ならいいのだがな」
「ただ、マズイな……」
話しながら戦闘の方を見る。俺が飛ばされた後も奮闘を続けているようだったが、流石に壊滅が近い。遠目からなのでハッキリは見えないが、精彩を欠く動きは見ていた危なっかしい。
隣で見ているエリザベスも、考えは同じなのだろう。不安と覚悟がないまぜになった表情でこちらを見てくる。
「えー、エリザベスさん……様?」
「そう畏まった呼び方をするな。特別にエリーと呼ぶことを許してやる」
「アリガトウございます、で、えーと」
「エリー」
怖い、選択肢の無い選択肢かよ。何が良かったのか、彼女からの好感度がかなり高いらしいことにちょっとビビる。
「……エリー」
「なんだ」
「俺はまたアイツを殴りに行きたいので、手を離して下さい」
「……嫌だ」
衝突音。
音源では、今まさに蹴散らされ弾き飛ばされていくプレイヤーの身体。回避時間無く四方へ突進攻撃を繰り返す象は明らかに狂化していた。
制限時間だ。
迷宮人形が、まるでボウリングのピンのように飛ばされている。個体の判別はつかないが、スピードも同じように飛ばされているだろう。
前線が決壊した以上、このままでは半狂乱に暴れるその巨体が、何時こちらへ来るとも分からない。
「このまま、って訳にもいかないかと」
「わかってる」
だが手を離さない。
よく見れば、握られた手の先、身体が震えている。無理もない。俺達プレイヤーは死んでもリスポンできるが、彼女にとっちゃ正真正銘の死だ。
無理矢理手を振りほどく事も出来るが、それははばかられた。
そうこうしてるうちに、巨象は目の前に来ている。
咄嗟に攻撃予想範囲の外へエリーを押し出す。
「一人は嫌だ。せめて一緒が」
衝撃を予想し、目を閉じて――
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