エンシェントエレファント-2
本日三話投稿です。(1/3)
「やったか!?」
「バッカオマ、フラグ建てんな……!」
「わ」
棒を支点に張り付いていたスピードが弾き落とされる。棒は左目に刺さったままだ。よっぽど深く刺さったのか、簡単に抜ける事はなさそうに見える。
「リベンジ成功!」
「気を抜くな!」
戻って来たスピードがピースサインをしてくるが、象はまだ倒れていない。油断無く構え、様子を伺う。同じ考えなのだろう、バールの緊迫感ある声に、弛緩しかけていた空気が再度引き締められる。
咆哮。しかし今回は、初め二回とは別の、苦痛の叫び声だった。行動阻害効果は乗っていない。
ポタリと、棒が刺さった瞳から、血の涙が一滴零れる。
ゴトリと、両の象牙が地に落ちる。
明らか第二形態に移行した象の、怒りに染めた隻眼が映すのは有象無象と、不快な虫一匹。
溜めのモーションに入った象を見た警告が先か、
「来るぞ、……ぁ?」
――象牙の生え際、二本の噴射口から爆炎が吹き出されたのが先か。
火炎放射、ノックバック+火傷効果付属の広範囲攻撃……!?突然の攻撃に硬直し、直撃。
吹き飛ばされる。
辛うじて、……未だ見ること叶わぬHPバーがあれば、ドット一つ分くらいだろう……それくらい、本当に辛うじてだが、生きていた。握りこんでいた木も持っている。
と、意識がはっきりしてきた所で、目の前で何かが倒れるような音。近付いてみれば、人間種の女が、今にも倒れそうといった風に膝をついていた。焼け爛れ顔の識別は出来ないが、何処と無く見覚えがある気が、それも直近で見たような……?
「霧江?」
無意識に、言葉が漏れた。ポツリと落とした小さな呟きに、返答は今にも消えそうなか細い声。
「ファルタジオでは、【キーファ】だよ……怜」
「俺はボンドだ」
マジか。いや、確かにアイツがこのゲームを勧めてきたのだから、この場にいるのは不思議じゃない。ただ、あれだけ人数がいて、たまたま俺の近くに来るなんて偶然、あるか?
俺が不思議がっているのがわかったのか、キーファの答え合わせは、言われてみれば納得できるような、出来ないような、曖昧な答えだった。
「あれだけ派手に目立ってればわかる」
「マジか。……いや、目立ってたのはどちらかと言えばスピードなような」
「後で遊ぼう。その時聞くから、彼女の事……」
「誰この女」
言いたい事を言い切り満足したように倒れるキーファ、いつの間にか近付いてきていた、満身創痍に変わりは無いが比較的元気なスピード、挟まれる俺。遠目に見える象は沈黙している。
そこでようやく、何故キーファが目の前にいたかを理解した。
「庇われたのか、俺」
「……」
「って事は、スピードは誰に……?」
「コレ」
彼女が指さした方向には、バールのようなもの、じゃないバールだったものが倒れていた。
キーファもバールも、よくあの場面で咄嗟の判断が出来るな……と思う。が、スピードは不満顔だった。
「私なら走って回避できた」
「いや無理だろ」
改めて広間を見渡す。こんなに広い空間が、今や迷宮人形と敵性生物でグチャグチャだった。立っているのは、象と俺たちの他にはまばらに数名のみ。
というか、戦闘の衝撃で忘れていたが、今はイベント中の筈だ。コレだけボロボロで、大半のプレイヤーが死んでる現状でもイベントが進行しないところを見ると、全滅がトリガーなのか。
だが、そうだとしても易々とやられるのは癪だ。身体はまだ動く。であるなら、まだ戦えるという事だ。
「ボンド」
「わかってる。攻略法は掴んだんだ、後は繰り返すだけ……!?」
『何故、立ち向かえるんだ』
ここでイベントかよ!
振り返れば、倒れた迷宮人形の下から這い出てくる影が一人。イベント会話の女声の方、ただもっとも目を引く点は、彼女が人間であるということだろう。集団で見えなかった先頭に、まさかまだ少女と言っていい年頃の、人間のNPCが居たとは。
彼女は恐怖と絶望に染った目でこちらを見ていた。いや、さらにその奥、象の方を見ているのか。
『アレは今のお前達では絶対に敵わない怪物だぞ!現に大半がもうヤラレた。なのに何故!』
「殴りたいから」
「素直だなオイ……じゃなくて。あー……」
他プレイヤーの方に視線を向けても、どうぞどうぞ的な眼差しを返されるだけ。これ任せられたんだよな?体よく押し付けられてないか。
考えろ俺。恐らくここのロールプレイは非常に大事だ。少ない情報を思い出し、言葉を捻り出せ!
……仮定一、ココには我々の悲願とやらの為に来た。
仮定二、悲願とは、アルカディアへ至ること。
仮説……、その挑戦は、これが初めてでは無い。
決定事項、今回は、失敗する。
正直なんも分からないが、何とか役を演じ切れるか……?
「なんでかは分からない。けどきっと、お前たちと同じなんだよ」
『同じ?』
「今はダメかも知れない。だが、次は勝てるかもしれない。次に繋ぐために戦うのさ」
『それは無駄死にだ!皆死んでしまった……カロエも、ピートも、シシも、そしてお前達も!私の浅はかな考えのせいで、皆を殺してしまった。次は無い!』
「違う。俺が同じと言ったのは、お前のご先祖サマたちと、って意味だ」
『どういう、事だ』
「やがてアルカディアに至る為に、俺たちはその礎になるんだよ」
決まった。
悦に浸る俺を見て、スピードは一言「ドヤ顔がウザい」と不満のようだが、イベント的にはどうやら正解を引いたらしい。
『それが決意……なら。私も覚悟を決めよう』
『我が名はロード・ファム・ファルタジオ・エリザベス!アルカディアへと至らんと挑戦したもの也!!』
気丈にも立ち上がり、錫杖を掲げる。暖かな光が集まり凝縮され、解放。
光は立っていた数名のプレイヤーに降り注ぎ、次には体力が全開していた。
「さあ、第二ラウンドだ」
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