オープニングイベント-1
本日三話投稿です。(1/3)
》規定時刻になりました。サービスを開始します
》【ファルタジオ】へようこそ
》貴方の攻略に幸あらんことを
「お?」
アナウンスと同時、一瞬の暗転の後、気付けば森の中にいた。そよ風に吹かれて木々が内緒話をし、マイナスイオン溢れる澄んだ空気を肺いっぱいに吸うことが出来る、樹海に降り立っていた。遂にゲームが始まった……その興奮をスカす様に、混乱が先立つ。
「まさか……迷宮スタート?」
事前情報のムービー等の一切ないままに、迷宮に放り出される。成程、コレがDRPGか。
兎にも角にも現状把握が第一だろう。幸いにもソロゲーで貯めた経験値のお陰でゲームには慣れてる。思考操作で設定画面を開けば、ログアウトするかどうかを問うてくるだけの簡素な画面が出てくる。
基本的な操作は変わらないんだな、と少し安心。だが、他ゲーなら設定画面はもうちょっとゴチャゴチャしているのが普通、という認識がある為、このシンプルさは新鮮だ。
「え?」
というか今気付いたんだが、RPGではおなじみといっていいHP/MPバーの(このゲームでは何と呼ぶのか分からないが)表示が無い。
「ステータス」
ステータス画面も呼び出せない。インベントリの様なものも無さそうだ。当然、持ち物も無い。
軽く周囲を見回してみるが、明らか人工物だとわかる物は落ちていない。落ち葉や小枝、小石くらい。
となると現状、この場で出来ることは何も無い。一応、最低限の武装として、丈夫で持ちやすそうな枝を拾っておく。
「……とりあえず歩いてみるか」
なんとなく獣道に見えなくもない道を道なりに進む。
ともすれば説明の少なさに怒る人もいるだろうが、俺は肯定的だった。何の情報もなく、右も左も分からないままに己の勘だけを信じて行動するなんて、普通のゲームじゃ滅多にやれない。
それに、リアルさが凄い。語彙力を失ってしまうほどに、既存のゲームとの差を体感させられている。友人が「一線を画す出来」と褒めたのも納得出来る。
「しかし静かだ……生物の気配がまるでない」
「ホントに」
「寧ろここまで静かだと作為的なものを感じないか?」
「確かに。嵐の前の静けさって言うし」
「ああ……!?」
叫び声が出た。
「酷いな、傷ついちゃう」
「絶対確信犯だろ」
「さあ?」
数分後。落ち着いてみれば、なんてことは無い。近くにスポーンしたプレイヤーが遊び心でこっそり後をつけていたらしい。が、いつまで待っても気付く素振りを見せない俺に業を煮やし……
「マジで心臓止まるかと思った」
「ゴメン?……フフ」
反省の色無し。いつか絶対やり返す。ただ、お陰で他プレイヤーとの交流ハードルが下がったのも事実。悔しいが、ここは一旦矛を収めるべきだろう。
「ボンドだ。よろしく」
「【スピード】。こちらこそヨロシク」
にこやかに握手。アバターには特徴的な猫耳。彼女は獣人種だろう。と、気付いた。
「つかお前、女だったんだな。今気付いたわ」
「今更?こんな麗しのボディを見て気付かなかった?」
「麗し?まあ……うん」
「オイ何故言葉を濁した」
「いや、胸」
静寂が当たりを支配する。俺は内心でガッツポーズを決めていた。思いがけずやり返しの機会が早かったな。
スピードは俯き、小声で何やらブツブツと呟いている。ただ、森人種の性質か、聴覚補正が入ってるようでしっかり聴き取れているんだよなぁ。
まあそれは言わぬが花って奴なんだろう。ここでツッコんだら本気で嫌われかねない。それは望ましくなかった。
「コレで1-1、引き分けだな」
「スピード補正の為に削っただけだし……別に現実をそのまま反映した訳じゃないし……ああもう!」
しばらくするとスピードは吹っ切れたようで、歩き出し始める。と思ったら、振り向いて一言。
「ボサっとしてないで、先行く」
どうやら同行は許されているようである。
◆
「ん?」
「雰囲気が変わったな」
それから。暫くは気まずい無言で、静寂に耐え切れなくなってからは雑談しながら、道無き道を進む。そうして歩き続けてどれくらいか。ようやく景色に変化が訪れた。
遠目の違和感は、近付く事で確信に変わる。
「当たりだな」
「引きがいい。んー、遺跡?」
スピードの表現の通り、それは遺跡だった。正確には、遺跡のような人工建造物。石煉瓦で作られたそれはかなりの大きさで、全体のシルエットの見当がつかない程。
外壁には蔦が這っており、秘境という表現がよく似合う。
近くには入口らしき場所が見受けられる。警戒しながら近付いて覗いてみれば、奥へと道が続いてるようだ。
「どうする?入ってみるか?」
「ここまで来て引き返すは無い」
「まあ、明らか何かあるって主張してるしなぁ」
「もしかして、ビビってる?」
「はあ?ンなわけないだろ。超余裕だわ」
「ふーん?じゃ行こう。ま、ヤバそうだったら逃げればいい」
いよいよらしくなってきたな。期待を胸に、遺跡へ足を踏み入れる。一段と冷えた風が恐怖を増幅させる。
因みに、スピードの手にも枝が握られている。互いに、無いよりはマシだろうの精神で装備しているのだが、その陳腐さに今更不安を覚える。
が、そんな俺の心情とは裏腹に、スピードの足取りは軽い。
「……」
「どした?」
「いや」
その様子を見ていると、怖さより悔しさが勝ってくる。これでも結構ゲーム慣れしてる自負あったんだがなぁ。
俺だけ怖がっているのも馬鹿らしい。気を取り直して歩みを進める。
「結構狭い」
「いや、広い方なんじゃないか?勿論さっきまでの森と比べたら狭いが」
「圧迫感かな」
言葉に、視線を上に向ければ、天井。薄ら日差しが漏れていた時と比べると、その圧迫感は比じゃないだろう。
「待て。奥からなんか聴こえる……話し声?」
読んで頂きありがとうございます。
下の☆評価の協力お願いします!活動の励みになります。
ブックマーク、感想、レビューも喜びます。