表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

レッドベア-4

 逡巡は一瞬。すぐにスピードが走り出した事が足音でわかった。

 俺もさっさと逃げよう、と少し距離を取ったところで、思い付いた。元々、ある程度距離を稼いだらちょっかいをかけて熊の注意を引こうと考えていたのだが。


 「……どうせなら、目を狙ってみるか」


 視力を奪えれば万々歳、俺もスピードも楽々逃げられる。最高だ。

 そうと決まれば早速、矢をつがえる。熊は猪を食べ終わってもまだ動かず止まっている。“怒り”状態にしては硬直時間が長いが、俺にとっては好都合。

 焦りを抑え、慎重に狙いを定める。


 「【パワーショット】」


 打ち出された矢は、狙い通りに真っ直ぐ飛ぶ。熊の側も、飛来してきた()()が自身にとって驚異足り得るものであると理解する。

 だがもう遅い。熊や、猪の突進程のスピードは無くとも、既に届く距離まで近付いている。これから起こる未来を予見したのか、熊の硬直した体が、さらに強ばったのがわかった。

 間違いなく当たると確信した、その瞬間。


 熊が()()()()したことによって、矢は鼻先をかすめるに留まる。


 「ウソだろ……!」

 「Dooo!!」


 余程熊の運が良いのか、それとも俺がツイてないのか。矢の当たるまさに()()、硬直状態が解けたのだ。

 理由がなんであれ、最高のチャンスを棒に振ったのは確かだ。であれば、この後どうなるかの想像は難くない。

 熊が動き出すのと、俺が逃げ出すのはほぼ同時。地獄の鬼ごっこの再開だった。

 走り出したところで、スピードからフレンドコールが飛んでくる。通話に出る分には端末を取り出さなくていいらしい。

 繋いだ先から聞こえてきた彼女の声は、……当然といえば当然なのだが、現状に似つかわしくない落ち着きを持っていた。


 「コッチは無事」

 「それは、良かった、ッ!!」

 「そっちは……無事、じゃ無さそうだ」

 「今の所は無事だよ、ッ今のところは、ねっ!」


 通話しつつ逃げているが、確実に距離を詰められてきている。俺にはスピード程の身体能力は無いので、追いつかれたら死だ。

 だが、このままではジリ貧だ。状況を打破するには、何かをしなければなるまい。焦る俺の心境を知ってか知らずか、スピードから福音をもたらす提案が。


 「思い出したんだけど、《帰還玉》を使えばいいんじゃない?」

 「あ」


 完全に存在を忘れていた。

 確かにそれを使えば安全に逃げられるだろう。せっかくの無料(タダ)、温存しておきたい気持ちもあるが、……ユーマ達の忠告もあるしな。ここが使い時だろう。

 使用するには砕けばいいんだったか、と取り出そうとして、嫌な想像をしてしまう。


 「これ、砕いてっ、すぐワープなのかな!」


 ゲームのワープって、待機時間があることが多いような。それは技術不足だからではなくて、即ワープが出来てしまうと色々悪用出来てしまうからだ。

 試してみる、とスピード。結果論だが、二手に別れていてよかったな。


 「すぐにワープはしない。少し待つと、ワープホール?みたいなものが出てきた。入ってみ」

 「スピード?」


 ダメだ、フレコが切れてしまった。多分ワープしたんだろう。通信は遠すぎるとダメなのか、それとも迷宮と街の違いか。

 だが、欲しい情報は得れた。やはりワープには時間がかかる。追われている状況では難しそうだ。どうにかして、熊との距離を離さなければなるまい。


 ……であるなら、使うか。興味本位で取得したものの、その効果があまりにリスキー過ぎるように思われ使用を躊躇していた、あのスキルを。

 まさかこんなところで初使用になるとは。もっと落ち着いた状況下が良かったが、贅沢は言ってられない。


 「……【制限解除(オーバーモード)】!」


 しかし発動しない。疑問符を浮べる前に、通知を知らせる電子音。端末を取り出し確認する。


 》当該スキルの発動は端末上で操作を行う必要があります。


 「もっと早く言ってくれ……!!」


 全速力で走りながらの操作は難しい。今の通知だって、だいぶ時間をかけて読んでいる。“端末上で操作”とやらがどれくらい時間がかかるものなのか分からないが、立ち止まって操作するしかない!


 「Do?Dyigaga」


 突然立ち止まった俺を不審に思ったのか、熊の動きも止まったのがわかる。

 だが、そちらに意識を割いている時間は無い。端末を操作し、通知の誘導に従ってそれっぽいタブ、……いつの間に増えたのか、恐らく職種:人形師を選択したことで増えたのだろう、〈人形管理(ドールシステム)〉のタブを開く。


 警戒していても一向に動かない俺を諦めたと捉えたのか、熊がゆっくり近付き始める。

 〈人形管理〉タブの情報量が多い!色々気になる情報が載っているが、今はスキルの発動優先だ。“制限解除”という名前が恐らくヒント、問題は()()()()()という点だが、俺の想像通りなら……!


 もはやゼロ距離まで近付いて尚動かないことに、熊は愉悦の表情を浮かべる。散々掻き乱され、瞳を奪われたにっくき虫けらを、この手で屠れる喜び。確実に仕留める為に両腕を振り上げ、


 見つけた、やはり出力関係。詳しい考察は後で考えるが、EN(エネルギー)とかいう万能パラメータを万能たらしめている理由は、出力に制限をかけ、制御しているからだということは理解した。俺の考察が正しい証拠に、【制限解除】ボタンが赤く光っている。それを押して、って、殺気!


 振り下ろされる瞬間、回避しようと踏み出した瞬間。


 過剰出力によって強化された脚力によって、俺の身体は前に吹き飛んだ。

読んで頂きありがとうございます。

下の☆評価の協力お願いします!活動の励みになります。

ブックマーク、感想、レビューも喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ