レッドベア-3
乱入者はユーマに散々忠告されたモンスター、猪だ。
恐らく一人離れていた俺の姿を捉えて近付いてきたのだろう。が、その奥に熊がいたことで一度立ち止まる。
その体躯は鼠と同程度、つまり熊とは四倍差ぐらいありそうだが、猪は全く気圧されていない。
体毛は薄茶、現実より少し薄いのだが、これまで見てきた相手が橙であったり赤であったりと、非現実的だったので、一瞬、現実の獣が迷い込んだのかと思ったが、違う。
口端から鋭い牙を覗かせ、獰猛さを彷彿とさせる瞳で此方を睨み、鼻息荒く威嚇している様は、正しくモンスターだった。
ユーマの言う通りなら、コイツは雑魚じゃない。適当にあしらえると考えない方が良さそうだ。
熊はスピードを信じて、猪と向かい合う。
確か、攻撃方法は――
「見えっ、る!」
――突進攻撃。
猪が飛び出す直前、微かに、……ほんの微かに、足と土とが擦れるような音が聞こえた。
突進は確かに速いが、熊ほどじゃない。惜しいかな、既に上位個体と戦ってしまっているので、脅威には感じない。
突進距離も熊ほど長くない。下がり過ぎないように意識して回避すれば、スピードに当たることは無いだろう。
問題は、突進から再突進までの感覚の短さだった。
「ほぼ、クールタイム、無しっ、かよ!」
回避、回避、また回避。猪突猛進という言葉があるように、一度狙いを定めたらずっと突っ込んでくる。おかげで攻撃タイミングが無さすぎる!
弓という武器の構造上、構えるのに時間がかかる為、すぐ攻撃、が難しい。また、残弾という概念があるので、気軽に打てない。
だが、熊も猪も持久戦の構えだ。このままじゃジリ貧、と天才的な閃きが降りてきた。
ほぼ同時、スピードが焦った声を出す。
「もう限界!」
「もうちょい耐えてくれ、コイツを、――」
位置調整。恐らく一回じゃ足りないが、足りない分は足で稼ぐ。
猪の頭からは熊のことが抜けているようだ。驚くべき記憶力である。いや、単に一時的に忘れているだけかもしれないが。
とにかく、この距離まで来ても猪に行動が変わらないのを見て、俺は作戦の成功を確信した。
「――ぶつける!、ここ!!」
ドスン、と鈍い音がした。回避行動によって結果が見れていないが、何が起こったかはわかる。
猪が、熊に突進、ぶつかったのだ。
「ハッ、モンスターにはモンスターをぶつけんだよぉ!」
「……やるなら先に行って」
息も絶え絶え、といったスピード。直前で俺のねらいに気付いたのだろう、完璧な合わせをしてくれた。だが。
「それ、お前が言えることじゃないぞ」
「?」
「それで許されると思ってんのか、オイ」
すっとぼけとは、まだまだ元気そうだ。
獣達はと言えば、互いに何が起こったのかを理解出来ないようで、暫くぶつかった状態で硬直していたのだが、数瞬早く猪の方が状況を認識。慌てるように熊から距離をとる。
直後、熊の剛腕が振るわれた。イノシシの判断が少しでも遅れていれば、今の攻撃で殺られていただろう。
猪もそれを理解したのか、半狂乱で逃げ出そうとする。
「は?」
「あーあ、誰かさんのせいで」
此方側へ。
ヤレヤレ顔のスピードは後でシメる。だが今は逃げるのが先だ。
「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!」
「これ、余計に怒らせただけじゃない!?」
「言うな、俺も後悔してる!」
とにかく走る。
距離の問題か、熊が突進してくることは無いが、代わりに常に追いかけられている為、距離が開かない。
猪の方も、焦っている為か突進しないのが救いだ。
熊に追われる猪、に追われる俺達。
まるで地獄の鬼ごっこだ。
必死に走っていると、俺より少し前を走るスピードが叫ぶ。
「分かれ道!右左どっち!?」
急に言われても困る!選択しようとした時、この短時間で聞き慣れた、足を地面にこする音が耳に入る。
猪の突進の予兆、目の前には続いていた道の終わりを示すかのような、木々による天然の壁。
極限の状況で、思考と行動が噛み合わない。
「左!」
突進を回避しようとした俺は、右に。しかし、俺の指示を聞いたスピードは左に。
別れてしまった。
直後、無理な突進を強行した猪は、減速出来ず木に直撃。その衝撃は、猪にとって予期せぬものだったのか、動かなくなってしまう。
「Dyigaaa!!」
そこに、数泊遅れて熊が突進。動けずにいた猪が一瞬で切り裂かれ、喰われた。
熊に道を塞がれた俺達は、合流出来ない。
「取り敢えず逃げよう。連絡はフレコで」
この道がどこに通じているかは分からないが、進むしかない。
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