ファーストダンジョンアタック-2
完全に忘れていた
スピードと話していると、幾つかの足音が聞こえてきた。ユーマ達と同じく、一度引きあげてきた人達だろう。広場が騒がしくなりつつある。
これ以上ここにいてもしょうがないので、先に進むことにする。ただ、鉢合わせて変なトラブルを引くと面倒くさい。足音の聞こえない道を適当に選んだ。
「そろそろ行くか、この道にしよう」
「りょ」
さて、攻略再開である。
基本的には一本道なのだが、道が直線では無いため先が見通し辛い。警戒しながら暫く歩いていると、ガサガサと草を掻き分け何かが接近してくる音。
「Chichi!」
「来るぞ!」
鳴き声が聞こえたのと、俺の警告はほぼ同時。直後、全身を広げ飛び掛ってきた橙色の鼠を、スピードは流石の身のこなしで回避、流れるように切っ先を向ける。
空振り、丁度挟み込まれる位置に着地した鼠は、忌々しげにスピードを見上げている。ロックオンされたな。
その尖った爪は天然の剣だ。大きさは立ち上がった状態で腰ぐらいだが、身長差に怯む事無く爪を開いて威嚇している。
と、奥から追加の二匹が現れ、あっという間にスピードが囲まれてしまった。
横に移動して射線を通しつつ、急いで弓に矢をつがえ、引き絞る。
「スピードは今のヤツを!俺は――」
「Chyui」
「【ピアッシング】」
「――後ろをやる!」
指示を出す間にも状況は動く。挟んだ鼠達が同時に攻撃を仕掛けようとするが、それより早くスピードのスキルが発動。
突き攻撃によって胴体を貫かれた鼠は、それだけでHPを全損したのか、ポリゴンとなって消えていく。
「【パワーショット】!」
その隙に後ろから攻撃をしようてしていた鼠の頭を撃ち抜く。偶然だが、ヘッドショット。スキルを喰らった鼠は倒れ、動かなくなる。
一瞬にして形勢逆転したのを見て、残り一匹は逃げようとする。判断が早い。四足で駆けていく後ろ姿を狙って、つがえ直した二射目を撃つ。
「あ」
声を発したのは、振り向いたスピードか、撃ち終えた俺か。
クールタイムの都合上、スキルを乗せずに放たれた二射目は、鼠をかすりはしたもののあらぬ方向に飛んで行き、鼠は逃げていった。
「ま、まあ、初戦闘、初勝利!イエーイ、みたいな?」
「……」
無言でこっちを見てくるのはキツいっす、スピードさん。
気を取り直して。
最後こそ締まりきらなかったものの、戦闘自体は勝利している。一息ついた後、戦利品を確認しようとしたのだが。
「これ、なんでそっちが倒したヤツだけ残ってんの?」
スピードの疑問の通り、彼女が倒した方の鼠は既に消え、ドロップ品として爪が落ちているだけなのだが、俺が撃ち抜いた方は死体が綺麗に残っている。
だが、俺には思い当たる理由があった。恐らく俺がとったスキルが関係している。
「多分、【解体知識】ってスキルの効果だ。何となくどう解体したらいいか、何が素材になるかがわかる」
「ふーん」
話しつつ、解体作業をしようとしたが、刃物を持っていなかった。仕方ないのでスピードからショートソードを借りる。
で、慣れない解体作業の結果はというと。
「ちょっとミスったが、こんなもんだろ。爪と、毛皮が素材になるみたいだ」
「矢は?」
「再利用は無理っぽいな」
余程綺麗に原型を留めていないと使い物にはならないだろう。そこは元々期待していなかったので問題は無い。
それより、解体結果だ。時間は取られるが、素材を余すことなく手に入れられるのは大きなアドバンテージになる。街へ戻ったら解体用のナイフを用意したい。
なお、解体時に、解体せずランダムドロップに切り替えるかも選択できるとの事。使い分けができるのは便利で良い。
ただ、一つ懸念点があって、それは解体シーンが結構グロいという問題。勿論ゲーム的配慮で大分抑えられてはいるが、それでも無理な人は無理だろう。
という訳で、スピードに一応確認。俺自身はゲームだという割り切りがあるから平気だ。
「【技能:解体】の恩恵はわかった訳だが……グロ表現は大丈夫か?無理そうなら辞めるけど」
「なにが?」
どうやら、余計な気遣いだったようである。
では、戦後処理があらかた終わったので、探索を再開しよう。歩きながら、初戦闘のフィードバックを行う。
「ユーマの情報通り、鼠は余裕だったな」
「次はスキル無しで戦ってみたい」
「確かに、スキル有りだとワンパンだったが、ノーマルだとどのくらいかは気になるな。……あ」
「?」
「いや、EN総量を確認してなかったなって」
HPの役割もあるEN総量だが、確認の為には端末を開かねばならない。面倒だが、ゲームに慣れていない内はこまめに確認しておくべきだろうと考えていたのだが、すっかり忘れていた。
まあ今回は攻撃を喰らっていないので、スキル使用の-20だけで、それも自然回復でもうほぼ最大値まで回復している。
スピードの方は、状況こそ同じだが、スキルレベルが上がっていることでコストも上がっており-30、自然回復でもまだ10も回復していないと言う。
……森人種はEN回復速度が他タイプより早いらしい事は知っていたが、結構差があるんだな。
とは言え、まだまだ共に余裕だ。
「先へ進もう」
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