ギルドに行こう!
「おう、登録してきたか」
「お陰様で」
「ハハッ、そうむくれるな。必要な手順ってやつだ」
おっと、二度手間のダルさが顔に出てたらしい。表情を取り繕う。【ガスト】と名乗った男は、その様子を見て笑っている。
スピードは無言。思えば、バールの時もそうだったので、大男が苦手なのかもしれない。
「で、俺達は迷宮に行きたいんだが?」
「そう焦るな。今朝の地震……は迷宮人形は覚えてないんだったな」
ふむ、迷宮人形管理館で言ってた異変とは、地震の事だったらしい。
「とにかく、その地震によって《大迷宮》はその姿を大きく変えちまった。大・再構築ってヤツだ。お陰でこれまでの攻略がパー」
「事前情報は無しと」
「焦るなと言っただろう。……調査が必要なんだ」
言って、ガストは白紙の地図を広げる。
「お前達の最初のミッションは、コイツの完成だ」
》ストーリーイベント【大迷宮を調査せよ】を受注しました。
》※当イベントの進行状況はファルタジオ帝国の全プレイヤーで共有されます。
》現在の進行状況:7%
本日何度目かのアナウンス。
このストーリーイベントを攻略する事が、ヒューマンエリアのプレイヤーの当面の目標か。
と、何やらガストが端末を取り出す。それは俺達が持っているのとよく似ていた。
「オマエら、端末を出せ。迷宮を調査するにあたって必須になる機能を転送する」
言われるままに端末を出し、受信。〈マップ〉のタブが追加される。
タブを開けば、ここまで歩いてきた道が表示されていた。
「一昔前までは全部手で書いてたんだがな、今は便利になって、テメェで歩いた場所は自動的に表示される。だが、それはあくまで道だけだ。そこに何があるかは自分で記録する必要がある」
「それで〈編集〉があるのか」
「どんな地形になってて、どこに何があるのか。そこまでどう行けばいいか……。その記録を纏めるのが、調査の目的だ」
その後、ガストが迷宮への行き方を教えてくれた。と言っても、そもそもこの街が迷宮攻略の前線になるように作られたとかで、街のすぐそばに入口があるらしい。
で、依頼報酬の前金として1,000C貰ったので、装備を整える為に施設内の武器屋へ。
1,000Cが高いのか低いのかは、いわゆる“初心者セット”が800Cで売られているのを見て察した。
「私、細剣使いたい」
ただ、スピードは不満顔だ。初期装備として想定されている“初心者セット”は《ショートソード》、《ワンド》、《ショートボウ》の三種類。俺は元より弓想定だったので問題ないが、彼女の希望には合わなかった。
「ま、その辺はおいおい充実させろ、って事なんだろ。RPGで序盤の不便さは宿命と言ってもいい」
「……わかってるけど」
「どうしてもと言うなら、プレイヤーメイドの方見てみるか?」
聞くと、スピードはおもむろに陳列されている剣の一本を持ち、軽く振るう。その鋭い太刀筋は、見ている俺からはなんの不満も無いように思えるほど、完成されていた。彼女も数度振って何か納得したのか、そのまま会計へ。
不満顔から一転、満足そうに戻ってきた。
「取り敢えずコレでいい」
「そ、そうか。……イベントの時から気になってたんだけど、経験者?動きが普通のそれとは段違いだったんだが」
「そう?リアルじゃ無理だけど、でも、ゲームだし」
「いや、俺はアレをやれと言われても出来ないぞ。少なくともアシスト無しでは」
「そんな難しいことじゃないのになぁ」
なんでもない事のように言うが、勘弁して欲しい。というか、冷静に考えて見れば、あの巨象の鼻を登るという曲芸じみた行動が既に常軌を逸していた。
が、それを言っても意味は無いだろう。ならば、置いていかれないよう頑張らなくては。
そう意気込んで弓を会計しに行ったのだが。
「付属矢数五十本?」
「そう。以降は、一番スタンダードなやつで100c三十本」
「ワオ」
【悲報】弓使い、不遇の匂いがする件について。
いやいや、まだ分からない。もしかしたら一発で一体倒せる威力はあるのかも。全弾当てて五十体、換金すれば精算は取れる……ハズ。
まあ真面目な話をするのなら、やっぱりソロプレイは茨の道、という事だ。少ない矢数は連携で補え、とそういうメッセージなのだろう。
と、ここでスピードが口を開く。
「でも、剣も下手な使い方してたらすぐ使い物にならなくなるよ」
「刃こぼれとか?」
「最悪、折れる」
「それは……」
数打ちならまだいいが、これから先一点物が出てきた時怖くて使えなくなりそうだ。
このゲームの戦闘は結構頭を使うかもしれない。
取り敢えず装備のならしも兼ねて訓練場へ。良心的な事に、練習用の木矢があったので有難く使わせてもらう。
弓を打つ練習と、スキルの使用感を確かめて、遂に準備は整った。
「行こうか」
「りょ」
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