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身代わりに立候補して、異世界でも介護の仕事に励みます  作者: 藤井


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23/47

二三

 知っている単語を頭の中に思い浮かべたけれど、やはり結婚=婚姻という意味しかででこなくて、困惑する私。


レナードさんは、そんな私に構わず、話を続けた。


「魔力が戻って、元の姿に戻った俺は変じゃないか?」


 なぜか話が飛んだ気がするけれど、レナードさんの容姿についてなら語ることができる。

 私はレナードさんの頭から足の先まで視線を動かしながら、感想を述べる。


「髪、サラサラ、眉毛、瞳、鼻、唇、よい形」


 輝く金色の髪がきらきら艶めいている。

 そして、まるで彫刻のように整った顔立ちはそうそう拝めるものでない。


「お肌、ピチピチ。顔、小さい。喉、男らしい、手、足、長い、背、高い、よい」

「そこまで褒められると悪い気はしないな」

「うむ、とても、かっこよいぞ」

「そうか? 俺の外見は好ましいか?」

「大変、よろしいぞ」


 なんだかとても嬉しそうなレナードさんは、ニヤリを笑って私を見ている。


「若返った俺に、結婚の申し込みをしてくれるんだろう?」

「ん?」

「スズが言ったのだろう?」

「んん?」

「俺は一語一句覚えているぞ。レナードさん、若いしたら、私、結婚、申し込む、したぞ。と言っていたのを」


 そう言われた私は、そんなことを言ったことを思い出した。


「レナードさん、知る、ないか?」

「何をだ?」

「結婚、好き同士、するものぞ」

「もちろんだ。俺はスズが好きだ」

「ん? 好き?」

「ああ、急に言われて困るだろうし、返事は今すぐじゃなくていい。大人になったら結婚相手としてどうだろうか? 真剣に考えてみてほしい」


 私は既に大人だと訂正する余裕なんてなかった。

 だって今のは、告白というやつだ。

 見たり聞いたりしたことはある色恋沙汰を、自分が経験することになろうとは夢にも思わない。


 介護施設で働いていた私は、おばあちゃんやおじいちゃん達の話をよく聞いていた。長年連れ添った旦那さんとの初恋の思い出から、初デートや結納をした日の出来事なんてものもあった。それに離婚間際までいったという壮絶な喧嘩の話など、長い人生の中での恋の話をみんなよく語りたがったのだ。私は聞くだけだったけれど、恋や愛の話をする人はみんなどこか生き生きとしていて、いつか私も恋をしてみたいと思っていた。そう、思ってはいたのだけれど、学生時代は男女の色恋沙汰に興味のかけらもなくて、介護士になってからは毎日忙しくしていたからか、恋愛をしている余裕なんてなくて、異世界にトリップして、今にいたる。


 だからその夜、人生初の告白というものをされた私は悶々として眠れなかったのだ。ベッドの上で寝返りをうつこと三七回、眠ることを諦めた。 


「結婚? いや、言葉、わかる、ない、私、勘違い、かもぞ」


 単語さえわかれば、意思の疎通ができるし、問題なんてないと思っていた。けれど、今回のような時には自信をもって言葉を理解できていなければ困るのだ。


「まあ、いいか、する、よろしい、ないぞ」


 深く悩むのが苦手というか、楽天的な性格な私は、何かあった時にまあいいかと思ってしまう。それはいい時もあれば、悪い時もある。この楽天的な性格のおかげで、異世界にトリップという不思議体験をしても、なんとかなっていると思うのだけれど。


「言葉、勉強、大事」


 そこでフッと思い出したのは、最初にここに来た時に公爵様が用意してくれた文字の勉強をするための本である。

 使うことはないだろうとクローゼットの奥に入れた本や紙の束を取り出す。公爵様が持たせてくれたのは、文字を勉強するための紙の束と小さな子供向けの絵本だった。


 本をランプの灯りで照らせば、表紙の男女が幸せそうに笑ってこちらを見ている。

 一文字ずつ指でなぞって読むのがやっとだけれど、どうせ眠れないからと、ページを捲ってみる。


「あ、る、と、ころ」

 

 文字を読むのには時間がかかりそうだけれど、絵本は絵だけでも大体の話がわかるようになっている。

 パラパラとページを捲れば、お姫様と王子様の仲睦まじい様子が描かれている。

 どうやら攫われたお姫様を王子様が助けるお話のようだけれど、私はある一点が気になって、そこに目が釘付けになった。


 だってお姫様を捕まえる悪者が、黒い服を着て、紅い瞳をしているのだ。

 それはまるで魔術師のように見えて、私はゆっくりだけれど、話を読み進める。


「ま、じつし、おひめ、さま、さらう」


 やっぱり魔術師がお姫様をさらった話だ。

 悪者は魔術師で、最後はやっつけられている。


「なんか、嫌、だぞ」


 だって悪者の魔術師の絵が、魔塔に住む魔術師に見えたから。ここのみんなはよく黒い服を着ていて、まるで、この物語に出てくる悪者の魔術師のような格好なのだ。


 最後のページのお姫様と王子様の絵は幸せそうなのに、そのページ前に倒された魔術師の姿を見ていたら何とも言えない気持ちになる。最後はハッピーエンドで幸せな話のはずなのに、なんとなくモヤモヤしてしまう。


「ふ、たり、し、あ、わせ、けこん……結婚」


 さっきレナードさんが言った単語と同じはずである。


「結婚」


 この単語のおかげで、さらに悶々として眠れなくなってしまった。

 しかし、もう少しで日が昇るという頃に、急な眠気が襲ってくる。


 ひと眠りしたら、一番にローズ様の様子を見に行こう。あとはレナードさんにご飯を届けた時に、結婚は婚姻のことで合っているのかきちんと聞いてみよう。その後は、モニカと食堂でご飯、いつものようにエビチリを食べて、天気が良ければ洗濯をして……そんなことを考えながら眠りに落ちる寸前、静かな部屋にノックの音が響く。


「寝る、邪魔、誰だ?」


 こんな時間に誰だろうかと不思議に思ったのは一瞬、すぐにローズ様だと気づく。

 明け方、目が覚めてお腹が空いたのか、喉が渇いたのか、きっと何か用事があるのだろうと、私はドアを開けた。


 驚いたのは一瞬。


「このような時間に申し訳ございません」


 夜明け前のこんな時間に私を訪ねてきたのは、青い騎士団の服を着ていることから、騎士だとわかった。少し年配のおじさん騎士は、ムキムキマッチョのビリーさんといい勝負ではないかと思うほどの体格だ。


「城までご同行願います」

「城、なぜ、行く、する?」

「陛下がお呼びです」

「へ、いか?」


 私の問いに、おじさん騎士は頷く。


「陛下、王様?」

「はい、スズ様をお呼びしているのは、我が国の王様でございます」


 様をつけて呼ばれたことも、王様が私を呼んでいることも、驚きを隠せない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新嬉しいです!もう続きが気になって気になって(笑) 楽しく読ませていただいています。
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