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身代わりに立候補して、異世界でも介護の仕事に励みます  作者: 藤井


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19/47

一九

 その後、私はビリーさんと待ち合わせをしていた。

 場所はレナードさんの部屋だ。

 三階の部屋で唯一、寝室と応接間があるのがこの部屋だけなので、応接間を使わせてもらうのだ。

 待ち合わせ時刻よりも早く着いた私はレナードさんの顔を見に寝室へ入った。


「レナードさん、元気か?」


 呼びかける声に返事はないけれど、私はこうしてたまに様子を見に来て、体の位置を変えたりしている。


「唇、カサカサない、髪、サラサラ、顔色、よし」


 今日もぐっすりと寝ていて、問題なさそうで一安心だ。

 寝顔を見ていれば、応接間から物音がする。


「スズ、待たせたな」

「早く、来る、した。レナードさん、様子見る、してた。気にする、ないぞ」


 私とビリーさんは応接間で額を突き合わせる。


「で、わざわざカイリー殿下は何しに来たんだ?」

「知る、ないぞ」

「ローズ嬢が労働しているか確認しに来ただけではなさそうだったが」

「うん、モヤモヤ、ズーン、してたぞ」

「確かに、煮え切らない感じだったな」


 それから腕を組んで、何かを考えるように顎に手を当てていたビリーさんは、ハッとして、何かを思い出したと言わんばかりの表情で私を見る。


「おい、こら、スズ」

「なんだ?」

「あれだけ目立つなと言ったのに、走り回ってただろう」

「走る、回る?」

「そうだ、スカートをたくし上げて」

「うむ、とても、急ぐ、した」

「うむじゃない、うむじゃ。急いでても、若い女の子がそんなことをするもんじゃない」

「走る、ダメか?」

「走るのはいい。だが、足を出すのはだめだ。足は」


 そういえば、この世界の女の人にミニスカートを履いている人はいない。ワンピースもロングだし、言われてみれば生足を晒している人はいなかった。


「気を付ける、するぞ」

「ああ、そうしろ。カイリー殿下に見られたぞ」

「会うした、二回、顔見る、そのせい?」

「生足さらけ出して猛スピードで走り去った奴が目の前ですました顔してんだ。二度見もしたくなるだろう」


 そう言われるとコメントに困る私は話題変更をする。


「カイリー殿下、またくるする、ローズ様、家帰る、だめ」

「そうだな、ローズ嬢にまた会いに来るだろうから、帰宅は延期になるだろうな。問題は、カイリー殿下が次にいつ来るかだが」

「また来るする、いつ、わかる、ないぞ」

「まあ殿下も忙しいだろうからすぐには来ないと思うが、あまり目立つことはするなよ」

「私、目立つないぞ」

「……スズは個性的だからな、もう遅いかもしれんが目をつけられそうな気がする」

「私、変な人、違うぞ。喋る、ない。目立つない。」

「十分個性的だが、まあ喋らなければ、ギリギリどうにかなるかもな」

「うむ。カイリー殿下、くるする、私、喋る、ない」


 ビリーさんとの話し合いの後、ローズ様の部屋を訪ね食事に誘ったけれど、いつもより元気のないローズ様は口数も少なく、食事もあまりとらなかった。私とモニカはどうにか元気づけようと明るく振舞ったけれど、ローズ様は思い悩んでいる様子だった。


「わたくし、今日はお先に失礼するわ」

「うむ、わかったぞ」

「スズもモニカも今日はありがとう」


 そう言って席を立ったローズ様の背中を見送った私たちは、食後のデザートを追加した。


「スズちゃん、私も相席いいかしら?」

「あねさん、どうぞだぞ」


 グラマラスな赤髪の美女のあねさんは、大盛りのケーキをトレーにのせて、私たちの前に座った。

 魔術師は大食いの人が多いけれど、その中でもあねさんはすごいと思う。


「あねさん、モニカ、今日、ありがとうだぞ」

「いいのよ。私、スズちゃんにマッサージしてもらって寝ていただけだから」

「私も、何もしていませんよ。それより、カイリー殿下は何しに来たんですか?」

「私、知る、ないぞ」

「あの様子だと、ローズに未練があると思いました。スズさんはどう思いますか?」

「うむ、好き、思う、かもぞ」

「ですよね、ですよね、ローズのこと心配している様子もありましたし」


 いつもよりはしゃいでるモニカは、一六歳というだけあって、好きとか嫌いとか、恋の話になると楽しそうに見える。今にして思えば、高校生の頃はこういう話が楽しく感じるんだったなと思い出す。


「好き、嫌い、本人たちしか、わかる、ないぞ。最後、二人、問題。恋、愛、そういうものぞ」

「スズさん……なんだか大人みたいなこと言うんですね」

「ん? 私、大人ぞ」

「え? 私と同じぐらいですよね?」

「二二、だぞ」

「は?」

「え?」


 モニカは信じられないと言わんばかりの顔だし、ケーキに夢中だったあねさんもこちらを凝視して驚いているのがわかる。そして、なぜかモニカはおもむろに席を立つと、厨房へと向かった。


「いいですか、スズさん、ここにスプーンがあります。これが一です」

「わかるぞ」

「ではこれは二です」

「うむ」

「二が十あったら、二〇です」

「私、数、わかるぞ」

「……本当にわかってるんですか?」

「うん」


 そう言っても、モニカは私が数を覚えていないと勘違いして、丁寧に教えてくれる。

 何度も教えてくれたけれど、私は数を知っているのだ。


「嘘だ。スズさんが、そんなに年上だったなんて」

「私、お姉さんぞ」


 ドンと胸を張ってそう言った私をモニカは信じられないと言わんばかりの顔で見ていた。


「スズちゃんと私そんなに歳が離れていないなんて、生命の神秘ね」

「あねさん、お姉さん?」

「やだ、私まだ二六よ」


 あねさんと私の年齢が四つしか変わらないとは誰も思わないだろうと自分でも思う。だってあねさんはスタイル抜群だし、可愛いというよりは綺麗だから、もっと上に見えるのだ。この世界では私は幼く見えるのは知っていたけど、本当なんだなと改めて実感した出来事となった。


 その日から、モニカは今までよりも甘えん坊になった気がする。そしてローズ様はいつものように一緒に掃除をしたりご飯を食べたりしているのだけれど、時折遠くを見つめ何かを思い悩んだ様子を見せるようになった。フッとした瞬間にため息をついたり、カイリー殿下が来る前と来た後では明らかに様子が違った。


 そんなある日、ローズ様と私は、外で洗濯したシーツを干していた。


「よい、天気、シーツ、乾くぞ」

「フフフ、本当ね、すぐに乾きそうだわ」


 よく晴れた空を見上げていたその時、カイリー殿下がやってきた。

 今回は一人ではなく、護衛の騎士を二人連れている。


「ローズ」


 駆け寄ってきたカイリー殿下の方を振り向いたローズ様の表情は無だ。

 ニコリともしない美女は怖い。


「ローズ、話をさせてくれないか?」

「わたくしは話すことなどございません」

「ローズ僕が間違っていた。ローズは毒など盛っていないと」

「ええ、わたくしはやっておりませんと最初から申しておりました。信じてくれなかったのはカイリー殿下です」

「ごめん。僕はローズを」

「スズ行きましょう」


 カイリー殿下の話を聞きたくないと言わんばかりに、ローズ様は私の手を取って歩き出す。

 それでも諦めずについてくるカイリー殿下と、その後を護衛の騎士達が続く。


「ローズ、お願いだ。僕の話を」

「失礼します」


 バンっと裏口のドアを閉めたローズ様は、私の手を握ったまま、しばらくドアの前から動かなかった。


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