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一二

 気絶しているビリーさんを見つけたところから順を追って話始める。


「ビリーさん、寝てる、してたぞ。レナードさん、誰だ、言うして。私、会う、した。レナードさん、ベッド、落ちる、座る、してたぞ」


 そこまで話した時、その場に響き渡ったのは、ビリーさんの大きなお腹の音だった。


「ご飯、食べるか?」

「そりゃあ、もちろん食いたいが、状況把握が先だ」

「私、持ってくる、するぞ、食べるして、聞くしろ」

「あんたがご飯を運んでくれるのか?」

「私、まかせろ」


 ということで、ムキムキビリーさんに大盛りご飯を運んできたら、ご飯が物凄い勢いでビリーさんの口の中に消えていく。

 ポカンと口を開けてその様子を見ている私にビリーさんは言った。


「話の続きを」

「あ、うん」


 私はそれから、ご飯配り係をビリーさんの代わりにやっていること、ナッシュが怪我をしていてレナードさんが魔法で治したことなど、私の片言の言葉ではわかりにくいだろう説明を、ビリーさんは文句も言わずに聞いてくれた。


「レナードさん、ビリーさん伝えろ、言ったぞ」

「何と言っていた?」

「俺、大丈夫、心配無用、魔力、譲渡、するな、言うして、手、ビリーさん、ホワン、なるした」


 レナードさんがやっていたように、右手をビリーさんに向けて真似をする。


「レナード殿下がそう言っていたのか?」

「うん。私、目覚めるまで、後、頼む、言う、されたぞ」

「目覚めるまでか……」


 それっきり、ビリーさんは顎に手を当てて考え込んでいるようだった。


「だいたいのことは把握できた。とりあえず今回のこと礼を言いたい」

「礼?」

「食事を配ってくれて助かった。それにナッシュやモニカ、みんなの世話までしてくれてありがとうな」

「気にする、ないぞ」

「そして、レナード殿下の生きる気力を取り戻してくれたことに礼を言いたい」

「私、何も、するないぞ」


 私は、生きる気力を取り戻すとかそんなすごいことをやった覚えはないのである。

 それなのにビリーさんは私に深々と頭を下げるのだ。


「私、ご飯、運ぶ、ご飯、あーん、部屋、掃除、体、拭く、する、したぞ。すごい、何も、するないぞ」


 私がやったのは食事運びに食事介助、部屋の掃除と、体拭きぐらいなのである。


「部屋を見ればわかる。ベッドも清潔に保たれていて、部屋が明るく感じる。それにやせ細っていたレナード殿下が少しふっくらされた」


 確かにレナードさんは、よく食べていたと思うけれど、生きる気力がどうとかきっと関係ないと思う。


「少し前までのレナード殿下は、生きることに興味がないようだった。依頼があれば魔法を使って、魔力が回復する前にまた依頼を受けて、それを繰り返すうちにどんどん弱っていったんだ。食事も最低限しか摂らず、やせ細っていく姿を俺は見ていることしかできなかった」


 ギュッと拳を握りしめる姿は、後悔していると言わんばかりだった。


「レナード殿下が、未来のことを前向きに口にされることはずっとなかったんだ」

「ん? 前向き?」


 何か前向きな発言してたかなと首を捻る私。


「目覚めるまで頼むってことは、目覚める気があるってことだ。俺が知ってるレナード殿下ならそんなこと言わなかった。眠る前にいつも口にするのは今までありがとうとか、別れの言葉ばかりだったんだ」


 そういえばレナードさんが自分の体は限界だったと言っていたことを思い出す。


「ビリーさん、レナードさん、魔力、渡すした?」

「ああ、それは、このままじゃもう駄目だと思って、最後の手段を咄嗟にな」


 二人はお互いを大事に思っているんだろう。

 魔力を譲渡するということがどれほど大変なことかは私にはわからないけれど、寝込むほど大変なのだから、大事な人にしか譲渡なんてできないのではないかと思う。

 

「レナードさん、早く、元気、なる、する、いいぞ」

「ああ、そうだな」


 ご飯を食べて落ち着いたらしいビリーさんは、大きなあくびをしている。


「ビリーさん、寝る、するか?」

「休んでいた間の仕事が山積みだ」

「健康、一番、だぞ」

「……モニカやナッシュ、他のみんなの世話、もう少しの間頼んでいいか?」

「私、まかせろ」


 ドンと胸を叩いてそう言った私に、ビリーさんは悪いと一言呟いた。


「お世話、心配、ないぞ」


 布団をかけて、ポンポンと布団を叩いてそう言えばビリーさんはキョトンとした顔でこちらを見ていた。


「ん?」

「……不思議だな」

「どうした?」

「いや、妙な安心感がな」


 目を瞑って半分寝ているらしいビリーさんはブツブツと何かを言っている。


「安心、とても、よいぞ」

「変な奴だな」

「変、違うぞ、私、よい人だ」

「だから、自分で言うな」

「ビリーさん、たくさん寝て、元気、なるしろ」


 いつの間にか返事がなくなり、ビリーさんは眠ったようだ。


 ぐっすり眠っているレナードさんとビリーさんの部屋を後にした私は、張り切って仕事に向かう。

 だって、ビリーさんは私にとっては直属の上司だ。掃除だけを頼まれていたのに、勝手にいろんなことをやっていたから、心のどこかで勝手にいろいろやっていいのかなとちょっと不安だったのだ。

 それが上司自ら、みんなのお世話を頼むと言ってくれたのだから、思いっきり仕事ができるではないか。


「フフン、フフン、フン、フフフン」


 思わず鼻歌を歌ってしまうのも仕方ないのだ。


「……おい、勝手に人の部屋に入ってきて、下手くそな歌を歌うな」

「ん? 少し、待つ、しろ。綺麗なる、する、もう少しだ」


 ナッシュの部屋のベッドのシーツの交換がしたくて堪らなかった私は、いつもベッドで寝ていたナッシュがお手洗いに行った隙に急いでシーツを交換中なのだ。


「よーし、シーツ、ピシッ、なるした。とても、綺麗、寝る、して、いいぞ」

「言われなくても寝る」


 相変わらずツンツンとした態度のナッシュだけど最初に比べたら、態度が柔らかくなった気がしている。


「ナッシュ、元気なるしたか?」

「なんでそんなこと聞くんだよ」

「歩く、元気、食堂、自分、行くか?」


 お手洗いにも一人で行けるし、調子が良さそうな感じだから、そろそろ一人で食堂まで行けるのではないかと思ったのだ。


「な、なんだよ。俺はまだ、体がだるいんだぞ」

「わかる、した」

「え?」

「ご飯、持ってくる、するぞ」


 バイキング方式のご飯、絶対自分で好きな物を選んだ方がいいと思うのだけれど、ナッシュはどうやら部屋までご飯を運んで欲しいようだ。


 その後、急いでご飯を持ってきた私に、いつもならなんだかんだと話しかけてくるのに、ナッシュが静かだ。


「ご飯、だぞ」


 何やら黙ってこちらをじっと見ているナッシュ。


「どうした?」

「……別に」


 反抗期真っ只中の少年の扱いは難しいのである。


 その後、モニカの部屋に行けば、モニカは温かく迎えてくれる。


「ローズさん、今日は何かいいことありましたか?」

「わかるするか?」

「はい、いつも明るいですけど、今日はさらに楽しそうなので」

「うむ、お世話、して、よいぞ、言われ、やる気、なのだぞ」


 モニカは不思議そうにしていたけれど、上司の許可をもらった私は、堂々とみんなのお世話ができることが嬉しかった。


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