第4話 「平和の樹と幸福の石」
虹色の光で空間が埋め尽くされ、わたしは、今まで感じたことのないような高揚と安堵を感じていた。これが、魔法の力??目が光に慣れて、周囲を見渡すと、火・地・風・水の精霊達も、心地よさそうにキラキラ輝きながら、舞っていた。
「すごい・・・!!これが、リンゴのマナ、魔法の力なの??」
「素晴らしい魔力量と質だな。凄まじい、と言った方が適切かな。」
「まるで、物語に出てくる聖女様です!!」
エデン、国王様、プルメリアが、口々に感想を述べ、呆然としている。
うん、なんだか、スゴイことが起こっている自覚はある・・・。
「リンゴ、今、全部解放しなくていいわ。コントロールを学ばなくてはいけないわね。・・・とりあえず、イメージで・・・、そうね、自分の身体の中に箱を置いて、その中に虹色の光を収納する感じかしら?リンゴ、イメージ(想像)できる?」
ラフィーユ様に言われた通り、自分の内側に箱を置き、その中に、今噴き出している光を全て収めるイメージをしてみる。すると、空間を満たしていた虹色の光は、わたしの胸の中に吸い込まれていった。
「・・・ふう、出来た!!」
「さすがね。ちょっと習えば、自由に魔法が扱えそうだわ。スカイ、あなたの息子、エルダーは魔法コントロールが上手だったわね?リンゴへの指導、頼めるかしら?」
「ああ、すぐに手配しよう。これで・・・この国が、世界が、救われるな・・・!!」
「ああ、その話もしなくてはね。では、リンゴ、続きを話すわね。」
そう言いながらも、ラフィーユ様はテーブルに置かれたサクラ色のケーキを手に取って、食べ始めた。
「うーん!!やっぱり、エバーグリーン王国のスイーツは最高に美味しいわ!!」
「お褒め頂き、光栄です。・・・お兄様も、きっとお喜びになるわ。」
なぜか、プルメリアの言葉の最後はナイショ話のように小さな声だった。プルメリアのお兄さんがスイーツの開発に極秘に関わっているんだろうか。
「あなたが今、体感した通り、この世界は魔法の存在する世界。そして、魔法は発動する者の感情と強く繋がっていて、感情が暴走するとコントロールが効かなくなるの。だから、この世界に生きる人間は皆、幼い頃から魔法の扱い方を学ぶわ。魔法の力を使えば、豊かな暮らしの創造も出来るし、全てを無に帰す破壊も出来る。普段は、選ばれし地上の女神達が、この世界の中心に立つ樹=『エリアース(平和の樹)』に埋め込まれた、4つの核石=『クローバルストーン(幸福の石)』に自身のマナを注いで、世界の平和と安定を保っているの。魔法が暴走して世界が壊れることのないようにね。だけどーーー、」
「ある日、突然、エリアース(平和の樹)から、クローバルストーン(幸福の石)が、消えてしまったのだ。それにより、地上の4人の女神達は、己の全魔力を使って、自身をクローバルストーンへと変化させ、エリアースの一部となって、世界の平和を保とうとした。―――だが、それでも及ばず、世界各地で、魔法の暴走や、動物の魔物化が頻発するようになった。」
国王様は、淡々と静かに語っているけれど、その言葉の奥にフツフツとした怒りや憤りを滲ませている。
「えっと、それって、平和を保っていた石が消えて無くなって、地上の女神様達が、石に変身して、代わりに世界を護っているということ??」
「そうよ。地上の4人の女神様は、4つの国の王妃様で、夏の国:ウォルタメロン王国のリリー・ウォルタメロン様、秋の国:シャインバース王国のグレイス・シャインバース様、冬の国=フレイムバード王国のスノウ・フレイムバード様、そして、春の国:エバーグリーン王国のウェンディ・エバーグリーン様が、この世界の平和の為に命を捧げ、エリアース(平和の樹)の中で眠られているの。」
「そんな・・・」
それはつまり、国王陛下の奥さんで、プルメリアのお母さんである、この国の王妃様が亡くなっているというのは、この世界の平和を護る為に全魔力と命を捧げたから・・・。
「我々は、世界の平和と引き換えに、国一番の愛おしい存在を失ったのだ。それでも足らず、世界は少しずつ、恐怖や不安に取り込まれている。―――あらゆる策を講じたが、もう、我々の力では及ばないと判断し、世界最高の創造神、ラフィーユ様に助力を仰いだところ、異世界に存在するリンゴという女性の力を借りれば、世界を救えるかもしれない、と聴かされたのだ。そのリンゴという女性は、この世界で生きているエデン嬢と魂を同じくする者であると聴き、彼女に頼んで貴方に呼び掛けてもらったのだよ。
そして遂に!!リンゴ殿が世界を渡り、我々の前に現れてくれた!!頼む、どうか、我々に力を貸してくれないだろうか!!わたしは、最愛の妻を失った。もう、大切な者達を誰一人、失いたくない。愛する妻の、愛したこの世界を護りたいのだ!!だから、どうか・・・!!」
そう言って国王様が、深々と頭を下げたので、部屋に居た人たちがザワついた。
「お父様・・・!!」
プルメリアは、国王である父に同意するように慰めるように、抱き着いた。
この世界で起きていることの説明を詳しく聞いても、頭の中は疑問と謎だらけだ。
なぜ、世界の平和を護る石が消えたの??なぜ、わたしがこの世界を救えるの??
「クローバルストーンが消えたのは、何者かが消したからよ。そして、その者は、あなたと縁の深い人物なの。だから、あなたなら、失われた石を取り戻し、エリアースを元の状態へと復活させ、世界を救えるかもしれない。」
「わたしが世界を救う・・・?そんな・・・」
スケールの大きな話で、混乱が収まらない。
「大丈夫、あなた一人で何とかして欲しい、ということではないの。この世界に生きる者たちが協力してくれる。精霊達は、あなたのマナの虜みたいだし、あなたの魔法の力はとても強力よ。あなた自身と、あなたの仲間を信じれば、きっとうまくいくわ!」
ラフィーユ様は、母親のような慈愛に満ちた目で、わたしを見つめ、微笑んだ。
「もちろん、わたし達もサポートするわよ?それを聴いたら、出来そうな気がしない??だって、世界の創造神よ?わたし達は!!」
「ラフィーユ様達が世界を創った神様なら、世界の平和を護ることも、ご自身で可能なのではないのですか??」
ずっと考えていた疑問の一つをぶつけてみた。
「それがね、この世界は既に完成していて、直接的には干渉出来ないのよ。人間が世界に誕生した時点で、世界の創造権は、わたし達の手から離れて、地上に生きる人間に委ねられているの。わたし達は、世界をより豊かにしようと努める人間のサポートは出来るけど、それ以上は、手を出せない。例え、世界が滅んで無くなることになってもね。この世界は、地上で懸命に生きる人間達が命と心を繋ぎながら、大切に育てて来たの。だから、この世界を破壊することも、創造することも、この地に生きるあなた達の意志に、願いに委ねられてる。」
わたしの意志と願いーーー、
―――飛鳥くんの顔が浮かんだ。
もしかしたら、この世界で彼も生きていて、だけど、わたしの居た世界の彼と同じように、生と死の境を彷徨う危険な状態かもしれない。
この世界で、もし、彼に逢うことが出来て、救うことが出来たら、わたしの世界に居る彼も救われて、目を覚ましてくれるかもしれない。
「リンゴ、今、あなたが考えていることは、真実よ。物語はリンクしているから。この世界で生きる人たちを救えば、あなたの世界に生きている人たちのことも、救えるわ。あなた自身も、アスカも。」
ラフィーユ様は、わたしの思考を汲み取り、応えた。
「わたしに何が出来るのか、まだ、分からないけれど、―――わたしは、大好きな人達と笑って、しあわせに生きたい。」
―――大好きな飛鳥くんと、しあわせに生きたい。
「だから、わたしに、この世界を救う方法を教えてください。」
―――飛鳥くんの笑った顔が見たい。声が聴きたい。そう願う自分の心を救いたい。
ちらり、と自分に瓜二つのエデンの方を見た。彼女と目が合うと、ニッコリ微笑んでくれる。
ここには、別の姿の人生を生きているわたしが居て、わたしの居る世界の大切な人たちも、また、別の姿で生きている。放っておくなんて、出来るわけない。そして、この世界で生きている人の生と死が、わたしの生きる世界の人の生と死と、リンクしているというなら、なおさら。
「さすが!!わたしの愛しい子!!あなたなら、そう言ってくれると信じていたわ!!」
再び、ラフィーユ様に飛びつかれ、抱き締められた。
「具体的に、わたしは何をすればいいんでしょうか?魔法のコントロール?についても学ばなければいけないみたいだし・・・」
「あなたの、この世界でのミッションは、失われたクローバルストーン(幸福の石)を回収し、エリアース(平和の樹)を元の状態に戻すこと。世界を破壊しようとしている悲劇の元凶の人物を見つけ出し、破壊を辞めさせること。―――その者によって、描かれようとしているバッドエンドの未来を、本来のハッピーエンドへとリライト(書き換え)すること。
リンゴ、今のあなたが小説家として使っている物語を創る力、言葉と想像の力は、世界を救える力なのよ。この世界に生きる仲間、精霊達、神達と一緒に、最高に楽しくて幸せな物語を書いて頂戴☆」
ラフィーユ様は、もう既に、わたしがやり遂げた後であるかのように、誇らしげに、嬉しそうに、笑った。
「あ、そうそう、自己紹介が、未だだったわね?―――わたしは世界の創造神、太陽の女神:ラフィーユ、そして、同じく世界の創造神、月の女神:ルピナス、大地の女神:ガイアよ。どうぞ、よろしくね♪」
ラフィーユ様の言葉を受けて、濃紺の髪色の女神様、青緑の髪色の女神様が順に、上品にお辞儀をした。
「難しい言い方をしてしまったけれど、要は、この世界で困っている人、救われたいと願う人、―――あなたが救いたいと思う人を、片っ端から、助けてあげて☆」
急に、軽っ!・・・ラフィーユ様は、どうやらシリアスなムードが苦手らしい。
「人間達のどんな姿も、わたし達、神にとっては愛おしいのだけれど、流石に世界が破壊し尽くされて、無くなってしまうのはイヤだわ。」
世界が破壊し尽くされて無くなる・・・ラフィーユ様、さらっと、とんでもないことを言う。
「人の心と魂はね、光り輝いている時と、闇に浸かっている時があるの。どちらが善くて、どちらがダメということは、本来、無いのだけれど、どちらか一方に極端に傾いていると、感情が乱れて、魔法も上手くコントロール出来なくなる。―――リンゴ、あなたが物語を書くことが出来るのは、人の心に巣食う闇と、人の心が求める光が、視えているからよ。」
人の心の、闇と光・・・
「この世界は、魔法が色濃く現れる世界だから、あなたの潜在能力も解放されて、きっと、これまでは何となく感じていたものが、ハッキリとした色や形、音として、捉えられると思うわ。試しに、目と目の間、眉間に意識を置いて、この部屋を観測してみて。何か、視えるんじゃない?」
ラフィーユ様に言われた通りに、眉間に意識を置いて、部屋を見渡してみると・・・、部屋に居る人達の体から、キラキラした光が放たれていたり、モヤモヤした黒い霧のようなものが、視えた。
「・・・これが・・・??」
「視えているみたいね。その黒い霧が、人間の自我を無くし、魔法を暴走させるのよ。少し出ているくらいなら、問題ないでしょうけど、あまりにも大きくて濃い状態だと、危険ね。」
「なるほど・・・、でも、その黒い霧を、どうすれば消すことが出来るのでしょう??」
「・・・うーーーん、分からないわ!!」
「へっ??!!」
ラフィーユ様の即答に、思わず、ヘンな声が出た。
「魔法の暴走は、感情の暴走なのよ。だから、向き合うのは心。その人の心が何を求めているのかは、それぞれ違うでしょうから、解決策も、それぞれ違うはずよ。どうすれば、その人の心が救われるのかは、リンゴ、あなたになら、きっと、解るわ。」
「えーーー・・・」
信頼されているようで、丸投げされているようにも感じる。
「ちょっと・・・!!丸投げじゃないわよ??リンゴを信じているのよ??」
「あなたが、そんなふうにふわふわしているから、リンゴにそう思われるのですよ。」
ルピナス様のツッコミに、同意だ。
この場での話は一旦終了となり、わたしは今日、寝泊まりする部屋へと案内された。王宮の一室なので、とんでもなく豪華だ。
一人で使うには大きすぎる天蓋付きのベッドを見て、ぼーっとしていると、ふと背後に、気配を感じた。
「・・・ラフィーユ様??」
振り返ると、彼女が、そこに居た。
「そうそう、リンゴ、一つ言い忘れていたのだけれど、物語の書き換えには、タイムリミットがあるの。この世界に居ないはずのあなたが、ここに居ても大丈夫な時間は、あなたの世界で次の日没まで、―――つまり、この世界での一年に相当するわね。一年以内に、元の世界に戻らなくてはいけないわ。物語の書き換えが、上手くいっても、いかなくてもね。
それ以上、ここに居たら、あなたの存在が消えてしまうからーーー」
また、この女神様は、とんでもなく恐ろしい事実を、さらりと軽やかに告げた。
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