第2話 「ようこそ、さぁ、世界を救おう」
エデンとわたしを乗せた馬車は、スムーズに王宮の門をくぐり抜け、庭園の中を走っている。花の色は、淡いピンク、ブルー、イエロー、パープル・・・、葉の色は、どれもエメラルドグリーンなので、全体的にカラフルだけど、パステルカラーで統一感があり、うっとりするほど美しい。暫くすると馬車が停車し、外から扉が開けられた。
「ようこそ、おいで下さいました、エデン様。」
品の良い挨拶で迎えてくれたのは、美しい花の装飾がついた鎧を纏う騎士様だった。とてもイケメンだったので思わずじっと見つめると目が合い、彼は、驚きで目を見開いた。
そりゃあ、驚くだろう。髪と瞳の色が違うとはいえ、エデンと同じ顔の人物がもう一人、乗っているのだから。彼の心中は察するが、ここで怯んでも申し訳なく思っても、しかたがないので、にっこり微笑んでおいた。
「彼女は“リンゴ・エデン”様よ。わたしがお招きしたの。」
エデンは、なんでもないこと、というような雰囲気で騎士様に説明をした。
「今、スカイ様には謁見出来るかしら?---“例の客人がお見えになりました”と伝えて頂ければ、すぐにお会いできると思うのだけれど・・・」
「かしこまりました。すぐに陛下にお伝え致しますので、客間でお待ち頂けますか。」
「ええ、わかったわ。よろしくお願いします。」
目の前の青い髪のわたしは、何ともお上品だ。さすが貴族。そんなしゃべり方、こちらのわたしはしたことがない。そんなことを考えていると、
「リンゴ、さぁ、行きましょう。みんな、待ってるわ!」
満面の笑みで、そう言われ、「みんな、って誰?!」と思いながらも頷き、馬車を降りようとすると、先程とはまた別のイケメン騎士様がすっと現われ、支えてくれた。
うっ・・・こんなお姫様待遇、しかも、相手はイケメン、ときめくしかないじゃないか。恥ずかしいやら嬉しいやらで戸惑っていると、エデンに「大丈夫?」と心配されてしまった。
案内された客間は、とてもゴージャスで、思わず口をぽかんと開けたまま見入った。ソファへ促されたが、部屋の装飾を観察するのに忙しく、キョロキョロしていると、ふいに視界の中で何かが動いたので、そちらに目を向けた途端、
「ああっ!!逢いたかったわ!!わたしの愛しい子!!」
太陽のような黄金色に輝く長い髪をなびかせた、美しい声と姿の女性にぎゅっと抱きつかれ、勢いに押されて倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「ちょと、ラフィーユ、リンゴが困るでしょう?・・・もっと落ち着いた、淑女の挨拶をしなさいな。貴方は一応、最高神なのだから。」
今度は、深い海の底のような、宇宙に溶け込みそうな、濃紺の艶やかな髪を揺らした美しい女性が現れ、わたしに抱きついている女性を嗜めた。
「ラフィーユは、いつもこうじゃない。諦めなさいよ、ルピナス。」
そう言いながら現れたのは、初夏の森のような若々しい青緑色の髪を編み込んだ、美しい女性・・・。そうか、なるほど、と思い、
「あの、ねぇ、エデン、もしかして、このお三方が女神様??」
「ええ、そうよ。ラフィーユ様は、あなたに逢えるのを本当に楽しみにしていらしたから、気持ちが抑えられなかったみたいね。」
エデンは、わたしに抱きついて離れない女神様の一人を、やさしい眼差しで見つめながら、くすくす笑った。剥がしてくれる気はないらしい。
3人の美しい女神様たちが現れて間もなく、客間の扉がノックされたかと思うと、勢いよく扉が開き、すらっと長身の男性が飛び込んで来て、
「遂に!この時が来たか!エデン!待ちわびたな!」
快活な声の主は、おそらく・・・
「スカイ様、落ち着いてください。彼女には、これから順を追って説明しますから・・・。」
やっぱり。この方が国王様だ。威厳のある、どっしりした姿を勝手に想像していたが、何というか・・・知的な雰囲気はするけれど、飄々としていて、お笑い芸人のような感じ?
次から次へと個性的な面々が登場するので、驚く暇も隙も無い。
「ラフィーユ、そろそろ、リンゴを解放して差し上げたら?あなたが説明するのでしょう?」
濃紺の髪の女神---ルピナスは溜息をつき、ソファに腰掛けると優雅に足を組んだ。
「ガイア様も、どうぞお掛けください。とっておきの紅茶を用意しておりますので。」
エデンが、青緑色の髪の女神に声を掛けると、侍女と思しき女性達が、人数分の紅茶を運んで来た。苺のような、桜のような、春を思わせる香りがする。興味が、自分に抱きついている女神様から紅茶に移ると、それに気づいたのか、ようやく解放してもらえた。
「まあ!これが今年の新作の紅茶かしら??色も香りもステキね!!」
「大地の神、ガイア様に捧げるものですから、たくさん研究しましたし、たっぷり愛情を注いでお世話致しました!」
いつの間にか、ミルクティベージュの髪とサクラ色の澄んだ瞳をキラキラ輝かせた、まさにお姫様!という感じの可愛らしい女の子が紅茶の乗ったワゴンの傍に立っていた。
「リア様、お早いご到着ですね!」
エデンが声を掛けると、お姫様はキラキラの笑顔をこちらに向け、
「エデン様!わたくしも楽しみにしておりましたから!」
声を弾ませて、エデンに飛びついた。この部屋に居る方々は総じて、感情表現が派手であるらしい。
「・・・!!・・・貴女様がリンゴ様ですね?!エデン様と!同じお顔とお姿!わたくし、エバーグリーン王国、第一王女、プルメリア・エバーグリーンと申します。」
可愛らしいお姫様は、好奇心でさらに瞳をキラキラさせ、お辞儀をした。
「---ッ、はい、絵田林檎と申します。よろしくお願いします。」
ものの数分の間に、客間にたくさんの人物が現れ、一人一人を認識するのに精一杯だ。
3人の女神様たちに、国王様、王女様、騎士様達、侍女さん達---、まるで、絵本やマンガの世界みたいに、美男美女ばかり。最近、小説の執筆が思うように進んでいなかったのだが、生まれて初めての体験と出逢いに、創作意欲が刺激され、今、机に向かえば書けそうな気がする---、そんなことを考えていると、ちゃっかり一番に紅茶を楽しんでいた女神、ラフィーユ様が、カップを持ったまま皆の中央に歩み出ると、すっと手を上げて注目を促し、
「それでは、役者が在る程度揃ったようなので、お話しましょうか。先ずは、ようこそ、リンゴ。あなたに逢えて、本当に嬉しいわ!これから、あなたとあなた達の生きる世界を救うための話をしましょう。」
太陽のように温かく眩い笑顔で微笑み、「世界を救うための話」を語り始めた。
まるで、ちょっとその辺でお茶をしましょう、くらいの、朗らかな雰囲気で。
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