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となりの事業部のヴェスプッチ  作者: 塵芥杜暦新
3/4

となりの事業部のヴェスプッチ③

朝が来る。


サザエさんシンドロームの方ならご存じであろう。


そう、月曜日だ。


会社には行きたくないさ。誰も。

皆好きで戦場に向かいたくはない。

人を殺したくない人たちが集まって殺し合いを演じるようなものだ。お断りだそんなもん。




だが、今日は違う。俺には大義の旗がある。


石田三成やパリ=コミューンも同じ思いであっただろう。



戦う理由がはっきりとある。

だから人生初めて時差出勤で会社へ行った。




もしかしたら独占的にあの子に逢える時間が生まれるかもしれないから・・・




とふと願って仕事のPCをただ付けている時間が5分程過ぎると、



「おはようございます。」という若い声。



まさかのヴェスプッチは朝早い勢だったのだ。



「おはようございます。」を返せるのは俺だけー。


今しかないと思い、渾身のご挨拶を発動する。





「お↓は↑よ↓う↑ご↑・・・」以下略。





噛んだ。圧倒的に噛んだ。舌嚙み切ったレベルで噛んだ。


体をうずめると、ヴェスプッチが話しかける。



「大丈夫ですか?」



アレ、なんかめっちゃ普通のトーンでびっくりする。

もしかして、仕事中のあの感じって仮面?ふと過った。



「すぐ止血しますね。」



ヴェスプッチ持参のハンカチで口を拭いてもらう。

女性に拭いてもらうことなんて無論初めてだったので、



「うぁぁ!大丈夫、自分でやるから!」



と接触されることを拒否してしまった。

ファランの野郎なら、そこは甘えるのだろうな。

と後で思う。

とにもかくにも血は止まり、平穏を取り戻した。



「良かった。」



くったくのない笑顔ってこのことを言うんだろうなって。

ほんわかする前に俺の本能が脊髄でジャッジした並のスピードで口を動かした。



「あ、ありがとう。ハンカチ代と言ってはなんだけど、昼飯でも奢らせてくれないかな。お礼に。」



自然と言えた。

金曜日のおはよう聞いてて良かった。

ハニーワークスは神。

ではなくて、言えたんだ、誘えたんだ。俺は。

なにより大人の階段を上ったこの感覚がすごい嬉しかった。



「いいんですか?今日丁度お弁当忘れたので嬉しいです!」



なんというサプライとデマンドの一致。

いいんだ。まずはこれで。

どうであれ、共に時間を共有することが大切なんだ。

じゃないと、ヴェスプッチと話すことすら出来なかったであろうから。



どうでもいい午前の業務を終え、僕たちは2人きりでランチへ向かう。


てかぼっち飯慣れてたから、すごくこの行為が新鮮だ。

2人でどこへ食べにいこうかって話しながら食事場所を探す。



つまり、これ、「デート」じゃないか!!



と思う気持ちを押し殺し、平静心を装う。

なんやかんや定食屋に。

まぁ安定だからね。(知らないくせに。)



もう航海士の帽子を被っていることは気にならなくなってきた。



むしろ可愛い。



という訳でさっきの御礼をもう一度。



「さっきは本当にありがとう。あんなに血が出ると思わなかった。」



「ほんとですよ。大量出血で死んじゃうのかと思いました。」



「それは大げさだよ。で、仕事中は『新大陸だ!』とか面白いこと言うのに、普段は結構落ち着いているんだね。」




彼女の陰が広がった気がしたが、




「まぁ仕事中はやっぱりチームの雰囲気って大事じゃないですか。だから頑張って明るく振舞っているってところはあると思いますよ。」



すごく返しに抑揚がなくて、単調な返しになった気がした。

その日のランチはそれ以上の会話も盛り上がりは見せなかったー。





ー後振り返れば、こんな核心つつくようなこと、やらなければよかったんだ。





翌朝、また早くいけばまた2人で話せるかななんて思って時差出勤すると彼女はいなかった。



通常の出社をしていた。

無論それでは俺も話しかけれらない。




そんな日が何日も続く。結果ヴェスプッチと話したのはその一日きり。




これが最後になるとは思わなかったー。

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