となりの事業部のヴェスプッチ①
アメリゴ・ヴェスプッチ。
「アメリカ」の言葉の顕現に貢献した人物といっていい。
時は大航海時代。
荒れ狂う海の中を帆船で必死に新世界へー。
そんな彼が、
今僕の職場で、
隣の事業部で働いていたらどうだろう。
なぜ、こんなことを言うって?
だって、後ろにいるからー。
***
「これが新大陸だ!」
今日も彼女は吠える。
きっとまた何か新しい成約や考えを思いついたのだろう。
周りも楽しそうに微笑む。
そんな感じ。彼女の生き方はまさに
大航海。ささいなこともおもしろく。
少し高杉晋作も感じられるこのスタンスが
事業部内の多くの人を動かすのだろう。
ラーメンにアサリとほうれん草が入っていて、それがうまいと「新大陸」。
プリンに醤油かけるとウニっぽくなると同僚に教えてもらうと「新大陸」。
そんな感じらしい。
俺は普段から、別の事業部なのものだから、
話すことはまずない。
偶然、隣の事業部で後ろの席だから偶然色々聞こえるだけ。
もし、20代の彼女がタバコでも吸っていようものなら、喫煙室でペコリするぐらいのことはあるかもしれない。
でも、コミュ障の俺からしたらその程度の関係。
交わらない平行線。きっとパラレルな2人。正味うるさいし、言葉を紡がない方がいい。
俺はそう思っている。
でも、何か惹きつけてくるものを無視せずにはいられないのだ。潜在的な彼女への興味。
ただ、それだけ。
なのに、どうして気になるのか。話していこうと思う。
まず、語り手の俺は歴史が好きなのだ。
小学生の頃に祖父から徳川家康の伝記をもらってから、歴史好きが始まった。
だからこそ、ヴェスプッチは興味ありすぎる。
社内のポータルで後ろのウルセーアイツ誰だと探したら、「アメリゴ・ヴェスプッチ」だった。
歴史オタクの俺は電流が走った。
「いや、まずヴェスプッチって男だろ。なんであんな可愛い女の子なんだ。同姓同名の。」
「んで、なんで会社で航海士が被る帽子を被っているのか。意味不明。」
周りは誰も驚かない。
俺だけ見えてるのかなって思うと、そんなことはない。
みんな普通にヴェスプッチに話しかけている。
帽子への違和感を感じているのかは知らんが。
歴史好き故の興味。探究心。
だからこそ、嫌い嫌いも好きの内になってしまっている。
少なくとも、アイツウザいからノーコンタクトは有り得ない。
どんな感じで接点持とうかと思うと、異性接触スキル-BBBの俺はどうすればいいかわからない。
これが潜在的に触れてみたいのに、避けていた理由だと思う。
要は免疫ないんだ。女の子に。
なので、俺は免疫保持者のアイツに頼ることにした。