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剣の系譜を考える

作者: 小篠剣次

 俗に「ナーロッパ」と呼ばれる世界において、言わずもがなの前提が揶揄される事がしばしばおこります。


 世界観がわからない。古代と中世と近代、西欧、イスラム、アジアとりわけ日本……ごちゃごちゃになってしまいます。


 でもさ、騎士と冒険者(元になったのは神聖ローマ帝国あたりのランツクネヒト)では、時代も戦い方も装備も違うじゃないですか?


 そうすると、どんな装備をしてどのような戦い方をするかって変わって来るのが当然ではないかと思います。


 但し……ダンジョンでモンスター倒してレベルアップ!!的な話は例外・ちょっと考えものです。


 沢山の種類の刀剣類が並んでいるのは楽しいですけどね。でもちょっと考えてほしい。


 フルプレートの騎士の稼働時間って30分くらいって知ってる?


 騎士って、自分だけで道具を扱えないから、従卒何人も連れているって(槍持ちや装備の着脱、持ち運びに数人必要)ご存知?


 ナポレオン時代の胸甲騎兵あたりだと、兜・胸当・手綱を持つ左手だけガントレットになるので、そこまで大変じゃないですけどね。





 そこで登場する割と頻出の武器『剣』についてちょっと考えてみたいと思います。


『剣』って、デカくて長い奴がえらいんだろ? と考えている貴方(ビシッ!!) ゲーム世界ではその通りです。戦士職を選んだら、ひたすらSTRを上げて、高くてデカい剣を装備するのが唯一の楽しみですね。戦士職だと武器に命中補正が付いたりしますし、レベルアップの必要経験値も後衛職より少なくて早く成長します。


 それはいいんだよ。


 で、問題なのは、どのような剣が、どのような社会的・歴史的背景を持って進化したかということと、物語の世界観が一致しないと……おかしい。


【最初に結論】


 ファンタジー=何でもありではありません。剣には剣の出自があるんだから。TRPGの元ネタは現実の歴史にある過去の世界からの引用でしょ。現実→TRPG→MMORPG→なろうって引用の曾孫引きなわけじゃないですか。そんな孫は要らん。


 当たり前のことですが、剣といえども、その装備がその社会において必要とされる蓋然性があるわけです。


 例えば、防具との相対関係


 例えば、製鉄・治金・金属加工の技術


 例えば、社会インフラ・制度の影響


 中世前半、剣は社会的身分の証・戦いの主力でした。馬に乗る以前、もしくは移動が徒歩・船の場合、槍は使いにくいですので。盾と剣で密集体形。バイキングとかローマ軍団兵みたいな感じですね。


 ところが、製鉄の技術が上がり、最初はメイル(チェーンの鎧)が普及。全身を金属の鎖で覆った「騎士」が登場。この場合、相手が非対称のイスラムなどの異教徒の場合無双できるわけですが、似た者同士であれば、細い鉄板で地味に殴り合いが続くことになり、剣よりも鈍器やピックのような錐状の刃を持つ道具で殴るようになります。


 百年戦争の少し前、フランドルであった『金拍車の戦い』で市民兵が用いたブツが棍棒の先端に長い金属のスパイクを付けた装備です。騎士2000人が……死にました。


 剣は打撃武器となります。細い板のメイスですね。


 殴ればたまに連環が割れることが期待できたメイルに変わり、プレート(板金鎧)が普及するようになると、剣はますますお呼びではなくなります。完全に補助武器・携行性特化の装備です。


 馬上で片手で扱いやすいというメリットだけが生き残ります。騎士同士だと、全然致命傷にならない。周りにわらわらと集まってきた歩兵がフックで馬上から引きずりおろし……って感じですね。


 バスタードソードはこの辺りの時代の剣です。


 そのプレートも『銃』の登場で廃れていきます。


 硬い皮膚より早い足。


 戦場で鎧に身を固めた騎士が徐々に減り17世紀後半にはほぼ消滅。騎士ではなく騎兵となり、胸甲と前側だけの脛当てや手甲に兜程度の装備迄簡素化されます。騎銃なども装備しますね。


 さらに軽装の騎兵だと、銃と槍と片手剣の装備でしょうか。移動中の歩兵相手にはかなり強力ですからね。


 平服に近い装備前提になると、兵士は銃剣付き小銃を装備し、士官は指揮棒代わりに片手剣を持つようになります。これは武器というより身分の象徴。


 近代の剣はレイピアやブロードソードのような鎧の装着を前提としない剣となっていきます。


 初期のレイピアはエストックとバスタードソードの中間のイメージです。刺突剣だが刃がある。後年のそれは刃が先端だけになりさらに細身になります。ゾロとか扱うのはこの辺でしょうか。これは

軽くなります。二枚目の樹形図の右上端の系譜ですね。ファンタジーのレイピアのイメージはこれ。


 故に、鎧で身を固めた相手を想定するレイピアはあり得ません。魔法剣とか、自衛用の装備なら話は別です。軽いし間合いを取る剣術で牽制時、時間を稼ぐといった使い方ですね。


 馬上で片手で扱えるゆえの優位性、携帯性故にサブウエポンとして身に着けるという特性ガン無視なのがなろうファンタジー。魔法剣士? まあ、そういうのはいいです。剣士だけど魔法が使える、魔法使いだけど剣も嗜むってかんじじゃないですもんね。ただただ夢想したいだけのキャラだから。そういうのは世界観とかどうでもいいじゃん。面白いならいいけど。




 イノシシやクマを狩るのに専用の大きな刃のついた「ショートスピア」を用いるのに、なんで剣でダンジョンはいるし!! ゴブスレ冒頭みたいな話もあるけど、武道家=素手じゃないからね。素手でも対応できるってだけで。あれはゲームの世界のお話だからいいけど。


 ダンジョン内で巨大な攻撃魔法を放ってドやれる世界観なら、剣じゃなく長柄使え。空間あるんじゃん。


 仮に銃が普及しなければ、全身板金鎧の騎士は現代のMBTのような存在でいまだ無双していたかもしれません。なら、なんでナーロッパではそうではないのか。魔法があるから? なら、なんで剣が主装備なのか。対人戦ならともかく、ダンジョン(結構広い)の攻略をなぜ剣を主体とする前衛を使って行うのか。弓使いいるじゃん? ハルバードやバルディッシュ使いがいてもいいのにね。むしろ有能でしょ。


 貴族が剣を身に着けているのは、戦うためじゃないからね。剣は「自衛」の為、武力を用いて従うものを守るものという「身分」の象徴。



【映画 The King (2019)に見る剣と剣技】


 『ヘンリー四世 第1部』、『ヘンリー四世 第2部』、『ヘンリー五世』を原作としている米豪合作映画です。言ってみれば時代劇。


 しかしながら、ここで紹介されている剣に関して、以下の動画で剣と鎧の関係について説明している箇所があります。日本語字幕も割と綺麗に出ますので参考になるかと思います。


 髭のおじさん曰く『プレートが普及した時代において剣の幅が広すぎる。少し前の時代の剣だ』という辺りですね。このお話は百年戦争後半のお話ですので15世紀となります。剣は前半、黒太子の時代の剣だろうって感じでしょうか。


 参考までにURL:https://www.youtube.com/watch?v=U4Iho1Z625w


 ちなみに、最後にちらりと映像が出ましたが、最高の再現作品は『純潔のマリア』だそうです。


 このお話も百年戦争を題材としたファンタジーです。

 

参考までにURL:https://www.youtube.com/watch?v=_tFOJFyTl1U





 


【西欧剣の系譜】

 

挿絵(By みてみん)



 この図は、左上に古代、右下に近代といった凡その時系列を想定した剣の進化について記されています。


 左上には「グラディウス」「サクス」が記載されています。


 グラディウスは古代ローマ(地中海圏)の直刀。集団戦で盾の壁を築き、盾の隙間から剣の「刺突」を持って攻撃する剣術の為の剣です。「サクス」はゲルマン系の剣で、生活道具の「鉈」と武器を兼ねた装備で、「斬撃」を前提としつつも、製鉄技術の低さから刺突も用いることを踏まえた剣となります。あんまよく斬れないからね。


縦軸が鎧の発展により「刺突」に活路を見出した『騎士の剣』


横軸が生活道具の延長である『庶民の剣』。ですが、剣としての劣悪さを『長柄』に変えることでヴォージェやグレイブへと進化、やがてハルバードのような複合長柄へと進化します。


斜めに進化しているのが「戦場の剣」。剣を主にして戦う兵士の剣ですね。両手で持って刺突する、両手で振り回す……「剣の形をした別の何か」ですね。馬上において片手で扱うことはできませんし、携行性も度外視です。





【『妖精騎士の物語』の序盤に登場する剣】


挿絵(By みてみん)



左上

 スクラマサクス(もしくはロング・サクス)

 スクラマサクスというのは『菊一文字』的な名前ではと近年言われております。 『妖精騎士の物語』主人公の佩剣です。

 中世前半から個人装備としては中世末まで、片刃剣として広く使用されていたようです。


長さ60-80cm、重さ700g前後。剣としては短め。軽い。剣先がとがっているので刺突も有効です。


右上

 ファルシオン(護拳付き伯姪カスタム)

 片刃幅広曲剣に名付けられた剣の総称。サクスの発展形で近世初頭まで用いられた。ルネッサンス期には装飾を施されたものもあり、イスラムの影響を受けているとも言われます。


 伯姪の剣はとくに「バデレール」と呼ばれたルネッサンス期のサーベル風ファルシオンの護拳を、直線状のものから交換しています。これは、伯姪の剣技に合わせた改良です。(護拳で殴ります)


 長さ60-80cm、重さ1.2-1.5kg前後。剣身が分厚いゆえでしょうか重いですね。


左下

 サクス

 サクスはサクソン人の語源となった片刃直剣の総称。短いダガーサイズのものは「サクス」とそのもので呼ばれます。『魔剣』はこの形をしています。中世における実用生活道具とみなされます。


 長さ30-40cm、重さ0.3-0.4kg前後。


右下

 バゼーラード(ダガータイプ)

 中世末に広く使用されたダガー。手工業的な分業体制で量産されたこと、剣身の素材が良い事などが特徴。リリアルの冒険者初級装備として全員に与えられる実用品兼護身武器。素材採取や野営に用いられる。


 長さ30-50cm、重さ0.4-0.6kg前後。第二樹形図の左端の最初にあるものですね。





『妖精騎士の物語』において、冒険者生活を始めた『彼女』がもつ最初の剣はこの「サクス」をベースにした剣です。短めで取り回しが良く、素材採取や野営にも問題なく使用できるという事と、自分はあくまでも「騎士ではない」というアピールを兼ねています。


 武具には社会的なメッセージ性が存在するのが基本であり、そのルールを逸脱するのならば、それなりの設定・背景説明が必要だと思います。「この社会において**はこういう意味を持つ」といったことを物語の中で描かねばなりません。


 騎士が存在する設定であれば、なおさらです。その行動様式が実際の歴史上のそれに類似であれば、その剣に対する姿勢なども似なければなりません。


 日本の侍に西欧人が関心を持つ一つの理由は、全く異なる文化的ルーツをもつ日本において、西欧の騎士以上に騎士らしい存在がいたことに対する憧憬や驚きにあるのではないかと言われます。収斂進化ってやつですね。


 さて、斬撃に特化した横軸は、西欧の中世全般に存在する斬撃用片刃曲剣を「ファルシオン」というのですが、それがずらっと並びます。これは、時代と地域により様々な形が存在するのですが、全部同じ「ファルシオン」です。これは、日本の「刀」という言葉が、太刀や打刀、小太刀、脇差などひっくるめているのに似ているかもしれません。


 その延長線上に存在するのが、近世の「ハンターソード」「カッツバルゲル」です。ブロードソードやサーベルもここに含まれると思いますが、剣のシルエットには描かれていないようです。


 サクスの延長線にあるものなので、「鉈」や肉切り包丁として使用されることもある「庶民」の剣となります。故に、旅人や商人の護身用、狩猟用に使われる「ハンターソード」、傭兵の護身装備「カッツバルゲル」に採用されている。言い換えれば、騎士や貴族は普通装備しないという事になります。


 日本の刀が身分を示すものであるのと同様、西欧において「剣」を帯びるのは社会的身分が必要です。簡単に言えば貴族であるかどうか。そうでない場合、許可証が必要となります。武器を携帯することは「特権」ですので。


 私の創作する世界においては、「冒険者証」が武器の携行許可証を兼ねているという設定を採用しています。また、商用旅行などの際には自営の武装が認められるのは、江戸時代の「手形」の発行の際にも行われましたので、これも暗黙知の範囲かもしれません。道中差という厳密には「長ドス」です。


 斬撃力に傾倒した剣が「庶民剣」なのは、生活道具であると同時に、騎士のメイルやプレートを『斬る』ことができないため、あくまで騎士にとって剣が自衛のための「打撃武器」にすぎないということにあります。斬れないなら、突けばいいじゃない!!


 


 それに対し、縦には「刺突力」を重視したラインナップが並びます。

 

「エストック」「レイピア」「バスタード・ソード」


 エストックは百年戦争時代に流行した刺突剣です。鎧のプレート化により、剣による打撃ではダメージを与えられない為、鎧通し的剣へと進化しました。




 その右横のレイピアは、刺突が主ですが、初期の戦場用に関しては刃がついており多少切れたようです。後年、貴族の帯剣として平服用になった際には、刺突専用になったりですね。


 剣術がスペイン風だと斬撃有、イタリア風だと斬撃無なので、その辺りで刃の有無、剣身の厚さなどが変わります。刺突だけなら軽く長く創れるので、決闘向き・非実戦的な装備となります。


 バスタード・ソードは「相ノ子」という意味で、片手半剣ゆえにというニュアンスと、刺突と斬撃両方をこなせるというニュアンスが含まれます。片手ならリーチを生かした刺突、両手なら力を込めた斬撃といった使い分けでしょうか。


 バスタードソードの剣術は、紹介する専門チャンネルもあるので動画サイトを検索するのもお勧めです。間合いが戦闘中に変わるので、相手が反応できないことがあるようです。





 中央にはいわゆる「騎士の剣」の系譜が連なります。


「ノルマン・ソード」「ロングソード」「グレートソード」という形です。両刃直剣です。


 製鉄技術の進歩で、剣を薄くすることができるようになりました。薄ければ中央の窪み(フラー)もいらず、細く長く同じ重さなら作ることができるようになりました。


 故に、時代の経過に伴い、剣は長く軽くなっていきます。






【騎士の剣・兵士の剣】


挿絵(By みてみん)



 二枚目の図は、一枚目の図より期間が短い範囲となり、尚且つ直剣の系譜に限定されています。Dean, Bashford氏 (1916作成)から引用


 『ナイトソード』と最初に書かれており、右上に向け伸びていきます。


 さて、ここで留意しなければならないのは、「都市の発展度合いの歴史的反映」でしょうか。


 中世ナーロッパにおいては、石壁で囲まれた都市が存在し、街道が整備され、貨幣経済が成立しています。


 本来の小領主である騎士が村を治めているような『ド中世』においては、この前提が成立していません。なんだって!!


 はい。地租や賦役は「金銭納付」になり、なおかつ、定額制な為、インフレに負けて騎士が困窮していくというのが、中世の歴史的現実です。都市の発展が1200-1400年くらいの範囲でしょうか。並行して騎士が困窮するわけです。


 農業生産の向上・人口増加・十字軍・都市の発達・ペスト流行といった歴史的流れですね。


 1500年代になると、神聖ローマ帝国などでは帝国騎士が反乱や内戦を起したりしますね。貧乏過ぎて。


 反面、豊かな都市の市民が高額納税者として騎士身分を手に入れたりするので、この辺も身分は騎士だが武力が無いという存在が生まれます。高額納税で得た資金で「傭兵を雇う」というのが、都市の防衛力構築の基本になります。それと城壁の強化ですね。


 すると、馬に乗る「騎士」を主戦力とする軍が、傭兵主体となる軍に変わっていきます。兵士はどのような「剣」を持つか。剣は完全にサブウエポンなので、左端の「スイスソード」というショートソードに代わります。


 これは、メインが「マスケット銃」「ハルバード」「パイク」といった装備の他に、護身用・サブとして持つ剣で短く軽くお安い剣です。現代の軍隊なら拳銃です。だから、威力も低い。


 ですが、歩く兵隊としては軽くて短い剣は悪くありません。





 反面、いまだ騎士の格好をしている方達は、レイピアもしくは、バスタードソードを装備したようです。これは、馬上であれば長い剣でも問題なく持ち運べるゆえの装備でしょう。


 日本においても、馬上での取り扱いの良さから『太刀』が打撃武器として南北朝のころから流行するようです。それ以前は弓箭が主で、太刀は下馬戦闘時に太刀持ちが渡す装備であったとも言います。


 太刀や薙刀が後年の打刀ほど斬れないという話もありますが(断面が菱形より五角形のほうが断ち切りやすいそうです。前者が太刀や薙刀です)鎧を刀で斬るのではなく、叩いて隙を作り隙間を狙う技がおおいのも頷けます。


 つまり、「歩いて戦うための剣ではありません」ということですね。





 樹形図では中央「ナイトソード」から分岐していますね。


 ん、お前の書いている『妖精騎士の物語』でもレイピア装備してる登場人物がいるよねって? ルイダンは近衛騎士で基本騎乗で移動ですし、カトリナはカミラが収納しています。移動時は。


 リリアルメンバーが装備しないのは、基本冒険者・歩兵だからですね。


 この樹形図から想像するに、都市の発達した時代において「歩兵の剣」「貴族の剣」「戦場の両手剣」の三つに分かれたようです。


 さらに「貴族の剣」から「ブロードソード(騎兵の剣)」「カントリー・ソード」(貴族の帯剣)に分化していきます。




挿絵(By みてみん)


左上

 ハンターソード

 樹形図でいうところの上段左にある「カントリーソード」に入るでしょうか。『ハンガー』『ワルーンソード』あたりの片刃片手剣がこの範疇に入りそうです。ショート・ソードがロングソードより短い歩兵用の両刃直剣であるのと異なります。『灰色乙女』序盤の装備です。また、リリアルの冒険者組の表向きの装備はこの手の剣です。スクラマサクスタイプを更新。


 刺突が有効であったのは、板金鎧の普及と剣の素材の進歩により細長い剣が軽く創れるようになったことによります。反面、同時に銃器が普及することで全身鎧が廃れた結果、その後に、剣のスタイルが変わることになります。


 ハンターソードが片刃で扱いやすい斬撃と刺突のバランスの取れた片手剣が作られたのはそういった時代背景によります。全身鎧全盛期であれば、相対的にこの手の剣やレイピアなどは登場しないことになるのではないでしょうか。9㎜自動拳銃的装備。


 長さ50-70cm、重さ1.2-1.5kg前後。


右上

 バゼラード(ショート・ソード型)

 ダガーと異なり、「剣」の一種です。樹形図左端の二番目辺りがそれに当たります。『灰色乙女』では、中古のこの手の剣を再生して売り捌こうと主人公が武器屋で買い漁ります。38口径リボルバー拳銃的ショートソード。


 長さ50-60cm、重さ0.6-0.7kg前後。軽い。


左下

 バスタード・ソード(赤丸が柄頭にある)とエストック。『妖精騎士』にてカトリナが使用。


 エストックの方がやや細身で、突き刺しやすいように柄がかなり大きいですね。槍のように持つからでしょうか。どちらも中世末期の装備で、鎧の板金化から刺突特化になったエストック、両用なのがバスタードソードです。樹形図中央で左右に分岐していますね。


 ロングソードより10㎝長い馬上剣の一つ。しかしながら、どっかの暗黒島の英雄の装備が、父親の形見のバスタードソードですので、頑張れば持ち歩けるでしょう。なお、鎧の有無に左右されにくいのはバスタードソードです。


 長さ110-130cm、重さ1.2㎏(エストック)2.0-3.0kg前後。エストックは軽いですね。レイピアはこの二つの中間サイズ・90㎝程です。


右下

 ブロードソード。『聖エゼル奇譚』にて騎士叙任後装備するもののひとつ。樹形図では左上段、カントリーソードの下に位置しています。 カッツバルゲルもこちらに近いかもしれません。スイス剣の途中にS字の護拳が見えるのでそちらかもですが。


 刺突剣が『レイピア』であるとすると、こちらは斬撃用剣なのですが、剣の幅はロングソードと変わりません。近代騎兵の標準装備で、片手直刀で護拳がしっかりついているのが特徴です。曲剣になると「サーベル」となり、これは東欧から流行り始めるタイプです。ハンガリー騎兵とかですね。


 長さ70-80cm、重さ1.4-1.6kg前後。ハンターソード並みですね。





 ということで、冒険者が「剣はどれにしようかなぁ」などと武器屋で選んでいる場面が登場しますが、職業・身分で剣がある程度決まるという当たり前のことが意外とスルーされているのです。


 だから「ナーロッパ」なんですけどね。


 小領主が存在して、騎士らしくできる時代なら、都市は発展していない。


 日本に置き換えれば、鎌倉・室町時代の武士・社会インフラと、江戸時代のそれは全然違うでしょ? 


 近代的なのに、なぜか地方の小領主で貧乏騎士・男爵とかがいるナーロッパ。とっくに貴族籍返上していると思います。維持できないからね。


 騎士が「雇われ身分の王の傭兵」であるなら、剣はレイピアかブロードソードのようになる。冶金のレベルと都市の発展レベルがずれている可能性もなくはありませんが、建築技術とリンクするはずなので、それも考えにくいです。


 もしそうなら、科学技術の発展が現実の歴史と乖離する理由が必要にます。


 板金鎧と銃・魔法の存在がどう設定された世界観かがポイントでしょうか。


 そもそも、騎士は剣で戦わないしね。槍かメイスか、ウォーハンマーか。だって、剣で鎧が斬れないじゃない? 斬れる設定があればいいけど。


 Wi〇iにおけるバスタード・ソードの解説にも『騎士や兵士たちの間で補助用の武器として人気を博した』とありますもんね。戦争では補助武器、冒険ではその補助武器で人間より強い存在と戦うわけです。どういうこと?


 猪レベルでも「ボアスピア」って、でかい刃のショートスピアだよ!! 猪狩りは貴族の嗜みだからね。あと、熊狩り。日本も「鷹狩」文化があるでしょ? 故三浦氏の『ベルゼルク』にも、狩りに鷹の団が協力する話がありました。その時の狩りの武器はクロスボウだった気がします。


 グリフィスが暗殺されそうになって、仕掛けた将軍をガッツが暗殺に行くお話に繋がるあれです。なろうの貴族ってあんまりいないよね狩りのシーン。軍事演習なんだが……なにやってんのぉ!!


 平服に近い騎士服であれば、ブロードソードになると思うよ? 直剣のいかにも「騎士の剣」というのは……ないわぁ。


 時代により「騎士の剣」は変わる……以上です。





【騎士の戦いとは】


 中世西欧の騎士の戦いというと、実際どのように戦ったのかその記録があまり残っていないのではないかと思われます。後世の創作ではなく、実際の戦闘ですね。


 ここで、一つの参考となる事象があります。


『馬上槍試合』トーナメントの試合内容です。


 いくつかの種類がありますが、わかりやすく人気があったのは「一騎打ち(JUST)」です。映画『ロック・ユー』などで映像化されていますが、馬に乗ってランスで向かい合わせになってぶつかり合うあれです。ジャスト用の槍・鎧が専用に用意され、できる限り安全に行われる仕様になっているはずなのですが……フランス王アンリ二世の試合による死をきっかけに衰退します。危ない!!


 とはいえ、武芸大会とも呼ばれる騎士の「模擬戦大会」は、騎士が名を挙げる戦場以外の有効な手段であり、よい騎士を召し抱える為にも12‐15世紀において盛んに催されたものです。



 一騎打ちのほかに、騎士による騎乗で剣による集団戦、下馬による集団戦、模造城塞をめぐる集団での攻城模擬戦などがありました。また、剣だけでなく、槍や斧(腰ハル風)を用いた騎乗・下馬の戦闘も催されています。実戦を想定した試合内容なのでしょう。


 ここで、メイスが用いられないのは、シャレにならないからでしょうか。刃のある剣や斧・槍なら刃引きしてプレート着込んでいれば致命傷にはならないでしょうから。


 この中で、三本勝負の一騎打ちにする場合があります。ランスでの勝負、馬上での剣での勝負、最後下馬しての剣での勝負です。これは、連続しているわけではなく、ジャストの鎧と馬上の鎧、下馬戦闘の鎧は異なるものを用いるようです。安全性が異なるからですね。ジャスト用は重量が2倍近くあったり、前側のみ鎧であったりする半鎧もありますから。


 やはり、騎士の武器は剣であるというイメージはこの模擬戦によるものなのだと思います。古代の剣闘士のように致命傷に至らず、名声と仕官をかけてトーナメントを渡り歩く騎士のイメージです。


 実際、ランスで突撃、騎馬の足を止めたならウォーハンマー(腰ハル風)やメイスなどでの反撃、馬から落ちたら身に着けてある唯一の装備である剣で防御反撃するといった戦い方になるのでしょうね。騎士同士ならともかく、雑兵に捕らえられたくないことを考えれば、剣を用いても軽装である歩兵には十分有効であったのでしょう。




 


 ナーロッパらしくあればいい作品も沢山あるから。それも面白いものもなくは……まあ、ほら、転生二回で剣聖と大賢者だっけ? なら、なんでもいいよね装備なんて。気にしない気にしない!!


 剣聖も大賢者もゲームのキャラだもん。なんでもありはファンタジーじゃなくってメルヘン。細かいことは気にしない!! エンタメ作品だから。


 それでも、小道具をしっかり使いこなす作品があるといいですね☆


 

 読了ありがとうございます。


 皆様の読書の一助となれば幸いです。


 

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本作の元になっている長編。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

― 新着の感想 ―
[良い点] はじめましてm(_ _)m まあ、ナーロッパの世界観だと、魔法で筋力強化してるとか、素の筋力が桁違いな可能性、金属も魔法で軽量化してたり、強度がチタンなみでカーボンより軽い謎金属なんかも…
[良い点]  非常に興味深く読ませていただきました。 [気になる点]  剣の位置としては、携帯性に優れたサブウェポン。戦争時にはメインウェポンにはなれない。平和なときには、地位の象徴か、即使えるので、…
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