ある王国の失敗話
何番せんじかわからない、いわゆる異世界転生物です。
息抜きとちょっと試してみたいことをやってみました。
「これで詰めに入ったな」
シショウ王国の王の間、そこには巨大な魔法陣が描かれていた。
王であるショウは息子であるゾクと共に満足気に頷く。
彼らは現在魔王シロムクの軍隊と戦の真っ只中であり、人類最強の戦力を有しているシショウ王国はある儀式を試みていた。
異世界の死者の魂を呼び出し、その魂の持ち主を戦力として組み込む。
宮廷魔導士のニシもようやくか、と感慨にふけっている。
戦線はなんとか優勢であるが、ショウは切札となりえる存在を欲していた。
「異世界の人間、か。なんであれ魔王に勝てるなら喜ばしいな」
「ああ。ではニシ、仕上げを頼むぞ」
「はい!」
ニシは両手を合わせ、魔法陣に手を置き呪文を唱えた。
「フォロ、ボールス、ネンリ、バク!」
詠唱が終わると同時に魔法陣の中央が眩く輝き、光が消えると中央には1人の人間が立っていた。
180センチほどの高い身長に、艶やかに長い黒髪。そして中性的な顔立ちをしていた男性だった。
「ここは、どこだ」
気怠げ、不機嫌な一言。
しかしこれに気づかず3人は異世界から召喚できたことに浮かれた様子で興奮していた。
「成功だ! これで魔王軍に勝てるぞ!」
「よくぞ召喚に応じてくれた。私はこのシショウ国の王、ショウという。君の名前は?」
嬉々として自己紹介をするショウ、そしてそれに呼び出された男性は不機嫌な様子を隠さずに答えた。
「アギト・ファング」
「アギトくんか。君を呼んだのは他でもない、君の力を借りたいのだ。魔王軍から我が国、いやひいてはこの世界を守るために」
「断る」
「そうか断る……え?」
想定外の返事にショウは戸惑い、ゾクは呆気にとられ、ニシは困惑していた。
そんなことは気にせずアギトは続ける。
「呼んだのはあんたがたの勝手な都合だ。そしてそれを断るのは俺の自由だ」
「おいそれはないだろ。せっかく呼び出したというのに!」
「そ、そうです! せっかく生き返ったのですから……もちろん待遇も」
「興味がない」
とりつく島もないとはこのこと。
しかしショウとしてはこれでは困る。戦力を見る目はあるのだ、アギトという人間は間違いなく強い。
なるべく使いたくなかったが、やるしかないと判断しニシに合図を送る。
同時にアギトの身体に落雷が落ちてきた。
「協力してもらえないなら、従ってもらうまで悪いがこうさせてもらう」
死者から生者になった以上、痛覚もある。
それならば痛覚に訴えて心を折ってでも、という考えだった。
「なるほど、そういうことか」
だがふり続ける落雷の中でアギトは平然と答えた。
「くだらん」
「嘘だろオイ」
ゾクは無意識に腰に刺していた剣を引き抜く。
それだけ目の前にいるアギトという男に対して本能が危険信号を出していた。
「ショウ、だったか。王様というくらいだから偉いのだろう。魔王軍から民草、あるいは別の何かのために俺を呼んだんだろう」
一歩づつ前に、アギトは近づく。
落雷の余波をショウを防ぐためニシは落雷を中断する。
それが致命的だった。
次の瞬間にはニシの頭は砕かれていた。
「「…………は?」」
戦慄が走る。
アギトの手は返り血で濡れており、頭を失ったニシの身体は地面に崩れ落ちた。
「世の中、何が起こるかなんてわからん」
「に、ニシ……!」
「お前らは俺を利用したかったのだろうが、残念ながらファンブルだ」
「野朗!」
ゾクは剣を振り抜く。
それは容易く避けられ、平手打ちを耳に打ち込まれる。
鼓膜は破け、そのまま親指が目を突き刺し潰された。
声にならない悲鳴が漏れ出るが、アギトは興味なさげに蹴り飛ばす。
視線はショウに向けられ、冷徹なその目に恐怖を怯えた。
「ひ、ひ……」
「こっちは満足して死ねた人生だったんだ」
ふぅ、と一息吐くアギト。
「お前が大義名分をかざして俺を呼んだ。お前さんが名采配をして今の地位にいるかもしれない。もしくは先祖代々守り続けて今があり、国民に愛されてるのかもしれん」
そして、目前まで迫った。
「だが俺には関係ない。死ね」
断末魔を上げる間もなくショウの頭は砕かれた。
その後、アギトはその場を後にし、様子を見に来た城内の人間が惨状を目の当たりにして、城中に悲鳴が木霊した。
※
「ま、魔王様! シショウ王国の国王が死んだようです!」
部下の伝令に女の魔王シロムクは飲んでいた茶を吹き出した。
「し、死んだ? なんで?」
「は、なんでも間者から聞いた話によれば王の間で頭を砕かれていたと……それと王子と魔術師の死体、それに魔法陣があったと」
「あー……納得した」
「え?」
疑問を覚える部下にシロムクは苦笑いを浮かべ「難しい話じゃないよ」と答えた。
「私たちが禁忌にしている異世界の人間を呼ぶという魔法があるだろう?」
「はい。手軽に強力な戦力が見込めるというお触れがついてるアレですよね」
「ソレ。でもそんな便利そうな魔法が何故禁忌になっているか、わかるかい?」
「いえ、深く考えたことは……」
「ハズレを引いた時のリスクが高いからさ。特に今回は、超ド級のハズレをシショウ王国は引いたみたいだね」
はぁ、と呆れたようなため息。
「私の何代も前の魔王が同じ失敗で死んでるのさ。とんでもなく強くて、鎖をつけられない凶暴な異世界の人間が召喚されてね。幸い今はこうやって復興できてるけど……」
「し、知りませんでした……」
「君も覚えておきなさい。本意でない別世界の住人を呼び出すというのは爆弾だ、地雷だ。もちろん協力してくれる人物が来る可能性もあるけど、それ以外を引いたら終わりだ」
この世界で異世界の人を呼ぶのは、完全にランダムだ。
「少なくとも拮抗、あるいは優勢時に私は使わない。使うのはドン底で、ど底辺で、死ぬしかない時の最後の賭けだ。
私や現場で指揮しているメンバーもリスクを極力避けるようにしてるだろう?」
「それは……ですね」
「戦争、戦術は勝つことが一番大事だ。だが同時に死傷者が出ないように、自分たちにできることをすべきだと思う。
シショウ王国も今までそれができてたはずなんだけど……今回で大ポカをやらかした。悪いけど油断なく、容赦なく、遠慮なく、蹂躙だ」
はい! と部下は元気よく返事をする。
「ただ異世界の住人は気をつけて。超ド級だろうから思わしき奴がいたら逃げていい」
追加された言葉も頭にいれ、部下は勢いよく出て行く。
そして戦は要を失った王国が大敗を喫し、魔王軍はシショウ王国を我が領土とした。
END