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徒花奇譚  作者: ひいろ
9/9

結:繋ぐ徒花 至

クチナシが今まで集められたのは大昔の赤い鬼と白い神の話だった

それぞれは別個の伝承だったが、そこかしこに伝えられていて

まあ内容はやれ人を食っただの、神の言う通りで栄えただの、そういう話しかなかったが

時系列は追えたのだ

太古の昔は100年ほどの間隔で出現した神と鬼だが

神と鬼の伝説は起きる時期がだんだん短くなっている

最近では、30年前に退治されていた

彼らは、15年前に生まれていた


15年以内に、神と鬼が生まれる

私は、その時までに鬼が人を食べない方法を探す

そして、10年後に各地を回って、彼らに会うのだ

惨い繰り返しを、ここで絶つのだ


人を、食べる前に

人に、隔離される前に

人に、退治される前に


居場所は、確保できた

大丈夫、やれる

だって、シロはすおうに生きてほしかったから

だって、すおうはシロと生きたかったから

ねえ、お天道様

二人は死んでしまったけど、次の二人が救われたって、いいでしょう?

私は、あの二人に救われたのだから



季節は巡って

巡って

巡っていく―――




はるか遠くの山間に住む禅僧が曰く、鬼が食べるものは人ではなく人の命

肉を食べて、因縁の妙技により命を食べようとするも肉体が壊れれば命は輪廻の旅に出る

故に、鬼は命の残り香しか食べることができない

鬼の人を食べ続ける由縁はそこにあり


鬼は、食べても食べても

真に満たされることはないのだと、言っていた


私は、すおうの笑顔を思い出す

彼女の笑顔は満たされることのない飢えの中で咲いていたのだ

そんなの、あまりに可哀想ではないか




―――鬼が生まれていた

山の中、木が生い茂る奥地の奥地

そこにもやはり存在する真っ白な徒花の蕾の一つ

その花が咲き、角の生えた鬼の形を形作っていた


すおうみたいな色の徒花が、白く染まった理由をずっと考えていた

すおうは、鬼は、徒花から生まれると聞いたとき、思ってしまった


きっとシロは、すおうの業を背負おうとしたのではないか、と


場所が分かったのは、数年前に見つけられた存在

神と崇められる前に見つけられた、赤い色の髪と目をした少女―サクラの目のおかげだ

彼女は未来が見えるけど、見るものを選べない

どれだけ先の未来でも、自分と関係のない未来でも、見えてしまう

でもあんなに怖がっていた未来を

とても幼い彼女は一生懸命見つめて、この場所を探してくれたのだ

彼女はもう、大丈夫

生き方も教えた

支えてくれる人たちもできた

彼女はこの男の子も、支えられる

だから、私はここで終わりだ


彼女が僧侶たちに施してもらった術は軽いもので

常に未来が見えてしまう彼女の瞳の居場所を、“今”にするというものだった

望めば未来が見える

未来を、彼女が望むようになれば、きっと

だから、その未来を

すおうとシロみたいに望みたくなるように

一緒に歩く存在がすおうのように悲しいさだめを負わないように

私が、命も何もかも使って、二人を守るよ


大勢の山伏が、儀式の祈祷を始める

私の全てを糧にして、鬼の心に永遠の平穏をもたらす

鬼は人を食らわなくなり、徒人となる

人柱は輪廻すらなくなり、この世にいた痕跡はなくなり、戻ることは二度と叶わない


私の全ては諦観だった

いくら息を吐こうが誰にも届かない

誰にも相手をされない


でも、心は届いた

本当は一番誰かに助けてほしいのに、本当は一番頑張っているのに、世界に受け入れられない

そんな大切な人たちに

だから、諦めなくてもいいって、気づけたんだ

この世界は思うよりも綺麗なんだって

素敵なんだって

幸せになれる筈のない、徒花みたいに意味のない命でも

きっと咲き誇る意味がある世界なんだって、教えてくれたんだ

だから次は私が教えるよ

今度は、二人が幸せになる番だ


存在が消えていく

意識がまどろんでいく

そんな最中でも、願わずにはいられない

どうか、どうか

すおうとシロが、報われますように

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