起:結実の花 後
人を、攫う
最初は村から一人で離れた、木こりの男だった
不意をついて、頭をかちわった
それでも生きていたから、石をぶつけ続けた
やっと動かなくなったそれは、ぐしゃぐしゃになっていた
これじゃ、いけない
彼女を食べさせていけない
彼女を守れない
僕は、必死に考えて、知らない村で住み始めた
夜は社に帰り、それ以外は村に尽くし続け、要職につく
そうすれば人がいなくなっても疑われない
もみ消すことができる
そしてそれは人の心を読める僕には、不可能ではなかったのだ
村人に祭り上げられ、森深くの社で生きるための全てを貰い続けた僕が人を殺す
なんて罪深いことなんだろう
でも、これが僕の正義だから
だから、僕は罪を続ける
―――人は沢山消えて
「花は散るとしんじゃうのかな」
「どうして?」
「だって、花は綺麗に散るから、さいごだから、ちゃんと綺麗になるのかなって」
「花は一度咲けたんだから、きっと幸せだよ」
「そうなんだね
なら、それが花にとっての永遠なんだね」
―――人を食べ続けて
「おかあさんって、泣いてた」
「そうだね」
「おかあさんって、頼れるひとなんだね」
「きっと、そうなんだろうね」
「でも、わたしにとっては、シロが頼れるひとだから、安心だね」
「うん」
―――愛を育んで
「わたしとシロで子供をうんだら…やっぱりひとを食べちゃうのかな」
「どうだろう…でもきっとすおうに似て可愛いのだろうね」
「うん、きっとシロに似て綺麗だよ」
「でも」
「罪を背負わせるわけにはいかないね」
「うん」
「わたしにはシロがいるし」
「僕にはすおうがいるから」
季節は巡る
「「この先があるなら」」
巡って
巡って―――
もう村は人の消失をごまかせなくなっていた
それでも今日も子供を連れてくる
あまり食べなくなってきた彼女も、これなら
「もう、やめよう?」
「え」
「人を食べると、その人のことを考えるようになったんだ
ああ、この男の子はシロみたいに逞しくなったのかなって
ああ、この女の子はわたしみたいに恋をしていたのかなって
ずっと思ってたら、食べれなくなっちゃった」
「でも」
食べられないなら、彼女は死ぬだけだ
僕は彼女に生きててほしい
でも、ああ、彼女は
こんなにやつれてまで、僕の為に生きててくれたのか
なら、そうだね
「一緒に終わりにしようか」
罰なら自分も受けるのだと、シロは微笑んだ
ああ、そうか
私はこんなにも大切な人に出会えたんだ
なら、もう悔いは、無かった
たくさんの足音が聞こえる
小さな子がそちらへ逃げ出す
村人の泣き声
社の血
武器を手に乗り込んでくる人々
鬼のすおうと
彼女をそれでも守ろうとする、シロ
巡って
巡って
巡って―――
ああ、すおう
君の色は本当に綺麗なんだ
村人に貰った、同じ色の着物
そんなものよりもずっとずっと美しい、すおう色の君に出会ったんだ
それがどんな罪深い、血にまみれたものであっても
その色をそれでも身にまとう、一生懸命な君が僕は好きなんだ
何よりも綺麗な君よ
どうか、どうか
「幸せになってくれていたら、いいのだけど」
倒れ伏す血の海の中、つないだ君の手のぬくもりが消えていく
体中刺し貫かれた傷が痛くて目がなかなか開かない
開いても、かすんでしまう
それでも、それでも彼女を見る
喉を潰された彼女は、懸命に口を動かしていた
し、あ、わ、せ、だ、よ
ああ
嗚呼
こんな終わりでいいのだろうか
人を殺し続けた
その報いを受けるべきは彼女が生きることを望んだ僕なのに
罪は君には無いのに
痛々しい傷を受けた君に、僕が救われていいのだろうか
なら
なら
せめて
手を
もっと握って
暖かくし
てあ
げなきゃ
ああ
ああ、手が、あたたかい
この優しいぬくもりはシロだ
きっと、いい夢が見れる
シロと
一緒の
夢が
最後に握る彼の手はすおう色に染まっていて
握られる彼女の手はシロく、シロく、染まっていた
二人の亡骸は散らばる血と肉で花が咲いたように綺麗だった
赤と白は共に、咲き続ける
ここまで読んでいただきありがとうございます。
前編が終わりました。
この先は後編、物語の本編となっていきます。
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