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第14話「強くなる為には超ハード」

「俺は冒険者としては、全てにおいて未熟者だから」


 そう自分を卑下しながらも、アルセーヌは少しだけ余裕が出て来た。

 

 ツェツィリアを守り幸せにしようと決意したら、

 バカにされるのも平気になった。

 

 死への恐怖もほぼ薄れた。

 生と死の狭間にある迷宮へ行く覚悟も決めた。


 そんなアルセーヌを、ツェツィリアは慈愛を込めて見つめる。 


「うふふ、すぐ弱気になるんだから。でも頑張れば絶対に大丈夫よ、アルセーヌは」


「ああ、いろいろと、びっしり鍛えなくちゃならないのは自覚している。でも訓練の為のベストチョイスが迷宮なのかい?」


 アルセーヌが思い起こせば……

 子供の頃から魔法や武技に慣れ親しんだ他の冒険者と自分は違う。

 貧しい孤児院ではろくに訓練など出来やしなかったから。

 

 やがて15歳となり孤児院を出て、いろいろ苦労した末にやっとの事で冒険者にはなったが……

 相変わらず自分を鍛える余裕などなかった。

 

 アルセーヌの唯一の取り柄は、魔力の多さのみである。

 

 それ故、後方支援役バファーの魔力供与士として……

 つまり冒険者の中でも、単なる便利屋。

 否、それ以下の、何でもやる雑用係として生きて行くしかなかったのだ。


「ええ、いろいろと考えたけれど、やはり貴方達が底なしと呼ぶ、あの迷宮が最適なの」


「そうか……ツェツィリアがそこまで考えてくれたのなら、問題なしさ」


「短期間で貴方の眠った力を完全に目覚めさせ、覚醒させる為には、ある程度のハードトレーニングが必要なの」


「ああ、確かに」


 良く良く考えれば、ツェツィリアの指摘通りだ。

 確かに迷宮は危険が大きい。

 しかし、アルセーヌのような駆け出し冒険者には格好の訓練場所なのだ。

 まあ、階層にもよるのだが……

  

 アルセーヌは納得し、大きく頷く。


「良く分かった! 冒険者や戦士的にいえば武者修業って奴か。それを迷宮でやるって事だな」


「うふ、そういう事。ある程度修業して実力が付いたら、仮合格」


「仮合格?」


「ええ、暫定的な合格。その上でトライアルに挑戦するわ。おろしたての新馬車のようにフレッシュな気分で戦いの試運転と行きたいわね」


「成る程、新しい馬車のような気分で戦いの試運転か……うん! 分かるよ!」


「ええ、頑張ってね」


「おお、しっかり気合を入れ直さないと駄目だな。俺をゴミのように捨てた奴らを見返し、ざまぁ! してやる為にさ」


「うふふ、やる気満々ね。絶対ざまぁ! してやりましょ」


「了解! 俺、頑張るよ」


「うふふ、それに安心して。私がアルセーヌをしっかりサポートするから」


「了解! ところでツェツィリア、迷宮の第何層へ行くつもりだい?」


「そうねぇ……」


「まあ俺くらいの低ランクなら……まずは第10階層くらいまでかな?」


 アルセーヌは『底なしの迷宮』を思い浮かべる。

 確か、第10階層までは大した敵が出現しない。

 『庭』とまでは言わないが、さすがに慣れた場所である。

 

 ゴブリン数匹の小さな群れ(クラン)を始め、通常の蜘蛛がふた回り大きくなり、凶暴化したものなど様々な昆虫系の魔物共だ。

 

 油断して気を抜きさえしなければ、大事なツェツィリアをしっかり守れる。

 彼女とたったふたりきりのクランでも充分戦える筈だ。


「第10階層?」


 アルセーヌに問われ、ツェツィリアは少しだけ考え込む。

 しかし、すぐに答えは出たようだ。


「いいえ、駄目。絶対に駄目」


「え? 絶対に駄目って?」


「そんな浅い階層へ行っても、無意味。低レベルの奴らと遊ぶなんて時間の浪費。やはり昨日私とアルセーヌが出会った階層がベストだわ」


 第10階層が駄目?

 出た代案が……

 何と!

 

 昨日ツェツィリアと出会った階層へ行く!?

 だ、だ、第90階層!?

 超ハードモードじゃないか!!


「ええええっ!? ツ、ツェツィリア!」


「なあに?」


「いい、い、行こうと思っているのは! き、君と出会った場所かい? お、俺がオーガの大群に囲まれていたあの場所……だよな?」


 大きく噛み、動揺しながら……

 念には念を入れ、何度も確かめるアルセーヌ。

 そう、確認する事は大切だ。

 これで命が助かった事が何度かあるから。


 しかし、ツェツィリアの意見は変わらなかった。


「そうよ。貴方と出会ったあの階層なら、今の私達の修業には適したレベルの敵が現れるわ」


「おいおいおい! だ、第90階層が!? 今の私達には適したレベルの敵だってぇ?」


 再び聞き直したが、やはり間違いではなかった。

 思わずアルセーヌは気色ばむ。

 ツェツィリアの言う事が全く理解出来ないのだ。


 確かにツェツィリアとは地下深きあの階層で出会った。

 だがあの時とは状況が違う。

 ツェツィリアの師……

 底知れぬ実力者ルイが彼女のかたわらには居たから。

 

 でも今、ルイは居ない。

 未熟な自分がツェツィリアの守護者だ。

 浅い階層ならともかく、深層では彼女をしっかり守る自信がない。

 

 万が一、ツェツィリアが迷宮で生命を失うような危険におちいったら?

 

 考えれば考えるほど大きな不安がよぎる。

 自分の命など、どうなっても構わない。

 

 しかし大事なツェツィリアを危険な目にあわせられない。

 到底納得がいかない。


 愛しいツェツィリアへ反論したくはない。

 彼女を信じているから……


 でもアルセーヌは再び考える

 ……ツェツィリアの命が危険にさらされるのであれば話は別、絶対に反対だ。


「で、でも! 今の俺だけじゃ、あの階層で君を守りきれない。それは、はっきりしている!」

 

 アルセーヌは自分の意思をきっぱりと言い放った。


 しかし、ツェツィーリアはけろっとしていた。

 出会った時もそうだが、超が付く迷宮の危険ゾーンに全然臆していない。

 それどころか、悪戯っぽく笑う。


「うふふ、ねぇ、アルセーヌ」


「何だい?」


「そこまで心配してくれて嬉しいわ」


「あ、当たり前だ」


「じゃあ、もしも私がナンパされたら守ってくれる」


「ナ、ナンパ? 守る?」


「ええ、騙されたと思って、レッツトライよ。しつこくナンパして来た場合、相手の手をつかんでひねってくれる? ほ~んの軽くね」


「わ、分かった。やってやる。ツェツィリアは俺が守る! 軽くひねるんだな?」


「ええ、軽く平手打ちでもOKよ。ぱあん!とひっぱたけば、迷宮修業前の、ちょうど良い準備運動になるわ」


「りょ、了解。準備運動ねぇ……」


 アルセーヌは改めて思う。

 相変わらず、自分の力には全く自信が持てないと。

 

 今迄、女子と付き合った事は皆無だった。

 それ故、自分の彼女をナンパ男から退けるのも未経験、

 迷宮の深層と同じで超ハードだ。


 しかし、ツェツィリアを……

 愛する想い人を守る為なら、勇気は出せる。

 いわゆる蛮勇かもしれないが……


 ぎこちない仕草だが、アルセーヌは決意し、大きく頷いたのである。

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