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7/ダンジョン改築

 ダンジョンメイカー7、8日目が終了した。

 昨日も今日も、防衛は成功だ。何事もなく日課をこなす。


 が、やる事は多い。

 今日と明日の午前中に、急いでダンジョンを改築しなければならない。



 DPは3,800ptぐらいあった。

 オークという敵から入るDPがおいしい。昨日と今日もたくさん来たので、結構な収入になっている。

 弓と杭の替えはそこそこ準備してあるし、食料も保存の利くものを幾らか既に購入済みだ。つまり、このDPは全部ダンジョンの改良に使えることになる。


「と言うか水晶、もしかして太った?」


『成長したと言ってください。レディに対して太ったは無神経が過ぎます』


 ところで水晶なのだが、大きくなった。

 片手で包めるぐらいだった大きさが、今では両手並になっている。


『私は今まで稼いだ総DPに比例して大きくなりますからね。美しさも増しますよ』


「ちなみに人間に例えると何歳ぐらいなの?」


『うーん……鉱石の年齢は無限に等しいので、換算し辛いですね。気分的には永遠に18歳です』


「何とでも言えるね」


 その気になれば三歳児にもなりそうである。自由で羨ましい。


 水晶が大きくなったのは分かるのだが、美しくなったかはちょっと分からなかった。確かに綺麗な色をしているのだが、基準となるものがない。僕は宝石なんて詳しくないし。


『それより草十郎。お待ちかねの浪費の時間ですよ』


「言い方が酷い」


『防衛初日からロクに使ってなかったから結構貯まっていますね。貯金できるのは美徳ですよ』


「この日を待ってたからなぁ」


 今日、僕はlv10になった。

 オークは経験値も多いらしい。そこそこのペースでレベルが上がり、やっと目標としていたレベルまで辿り着くことが出来たのだ。


 つまり、買えるものが増えるというわけだ。


『追加されたモンスターから見て行きましょうか』


「えーっと、ユニットは……安いのだと、エレメント、スコーピオン、ラフレシア、タイガー……あ、リザードマンってのがあるよ」


『200ptですか。オークよりは強いですけど、装備が結構必要な種族ですね』


「剣とか盾とか持つのかな。あ、しかも僕と同じぐらいの身長だって。リーダーになったら僕にも教えてくれるかな?」


『弓スキルもまだ得られていないのに次の話ですか? 取らぬ狸の何とやらですよ』


「皮算用だっけ」


 むむ、確かにその通りだ。

 それに剣や盾なんて使える気がしない。憧れはするものの、弓の距離よりも前に出るのはまだ怖いのだ。


「取り合えず、安いのは全部買っておこうか。リザードマンも今なら買えるかな。えーっと、オークも気になってたし買ってみて……」


『ちょちょ、ちょいちょーい。草十郎? また雑多に買うのはどうかと思いますよ?』


「でも安いし、数が多いと僕のユニークスキルの効果が上がるでしょ?」


『……考えがあるならいいですけど、それだと高いモンスターが揃えられませんよ?』


「進化すれば皆強くなるから良いんじゃないかな」


 元が安くたって、進化させていけば強くなるのはウルフのことからも分かる。

 それならば、僕のユニークスキルを活かして多くの味方を育てた方が良いように思える。


『それはそうですけど、やはりDPに応じての強さはありますよ。例えばウルフ種が王になってもドラゴン種の王には勝てませんし』


『ドラゴンと比較したらどの種も勝てんわ阿呆』


『は? 阿呆とか言いました? 私は今、例え話をしたんですけど?』


『例えになっとらんから言っとるんだろうが阿呆』


『草十郎、ユニット削除です。このダイアウルフは()く排除すべきです』


「喧嘩しない喧嘩しない」


 まぁ長い長い先のことを考えればそうなのかもしれないが、今はたくさんのモンスターを召喚してみたい。


 それに、どんなモンスターがいるのかはやっぱり気になる。

 見た目は窓から確認できるが、実際に手元に召喚しないとやっぱり分からないことの方が多いのだ。


「と言うか、高いモンスターって言っても3,000ptのギガントゴーレムとかでしょ? これダンジョンに入らないよ」


『確かにギガントは10m以上ありますし、合わせて改築するにしてもDPは足りないですけど……。新しく増えた1,500ptのリリスとか、気になりません?』


「気になるけど、それ買っちゃうと残りがね……」


『今は仕方ないですか。それでも、全種を二匹ずつ買うのは流石にどうかと思いますけれど……』


 ビカビカーッと水晶が連続で輝いて、たくさんのモンスターを吐き出す。

 僕は彼らに訓練をするように伝え、タイガーを少し撫でると、食事を取らせるために解散させた。


『タイガーの毛並みはどうだった?』


「ウルフよりちょっと硬くて短い感じ。でもごわごわで良いね」


『アレも進化すれば強く美しく育つ種だ。期待しておけ』


 なるほど。ウルフの言葉はタメになるなぁ。


 1,000ptぐらい減ったがまだ残りはある。

 タブを切り替えて、アイテムを確認しに行く。


『では、追加された魔道具について説明しましょうか。草十郎も気付いていると思いますが、この世界には魔法があります。草十郎の想像しているものとそう違いはありません。魔道具は見た目は普通の物品ですが、何らかの魔法を備えたものになります』


「火とか出たりするの?」


『出る奴もありますけど……。なんというか、草十郎は本当に手から火を出すのが好きですね。ゴブリンメイジが他の魔法にも興味を示してほしいと言っていましたよ』


「えぇ……」


 苦情が来ていたらしい。

 確かに、ファイアーボールが格好良かったので何度もねだって見せてもらっていたが、まさか嫌がられていたとは。

 後で謝っておこう。


『例を挙げると、物を見た目以上に収納できる鞄や、傷を回復してくれるポーション、魔法植物が育つ魔法のタネに、使いきりですが魔法をストックしておける杖などですね』


「え、凄い凄い! そんなのがあるの!?」


『ただ、性能に比例してお値段は少々張りますよ。ポーチ型の小鞄でも1,000ptもしますし、一番低価のHPポーション小ですら200ptです。用法容量守ってお使いください』


「高いなぁ……ちなみに魔法の杖っていくら?」


『炎魔法が1つストックされた炎杖で3,000ptです』


「値段壊れてない?」


『これが適正になります』


 超絶インフレを起こしている。価格崩壊だ。


 ただ、何となくその価値の高さは分かった。それだけ効果があるということだろう。

 魔法の杖は欲しいな……。聞けばストックされた魔法を使うだけなので、誰でも扱えるらしい。いつか余裕が出来たら一本だけ買ってみよう。


『それと、lv20になったので色々と解放された機能があります。ある種のモンスターやアイテムは、〈環境階層〉の追加や、特定の条件を満たすことで窓での購入ができるようになりますよ』


「特定の条件……?」


『例を挙げると、ウルフを10匹以上召喚して配置した場合、〈ウルフの首輪〉が解禁されます。これは装備したウルフ種モンスターに様々な恩恵をもたらします』


『おい草十郎、今すぐ欲しいぞ』


「……ちなみにお幾らですか?」


『〈ウルフの首輪〉は10,000ptですね』


 お手上げである。

 ウルフが値引きの交渉をしていたが、すげなく断られていた。


 や、値引きされても多分買えないし、買えたとしても他のものを買うと思う……。


「なんだか一気に値段が上がったね。モンスターはそうでもないのに」


『今後の目標ですよ。そろそろ歯ごたえを感じなくなってきたところでしょう? 今はもうオークなら簡単に倒せますし』


「そりゃ……そうだね、確かに」


『今後、入ってくるモンスターもある程度成長してきます。そして得られるDPも多くなるでしょう。

 それらを上手く利用して、よりよいダンジョンを作っていってください』


「先が思いやられるなぁ」


 水晶が言うには、モンスターは強い敵に対してより過敏に反応し、ダンジョンを奪おうとしてくるとのこと。


 どれだけ弱くてもオークは入ってくるのだから、オークを倒せるダンジョンにする。

 するとダンジョンが育っていくので、より強い敵が入ってくる。

 それを倒すために、またダンジョンを強くしなければいけない。


 負のループだ。いや、ダンジョンメイカーとしては正のループなのか?


『いつかドラゴンを従えて、襲い来るドラゴンの群れと戦うかもしれませんね』


「やめてくれ。僕の身が持たない」


『まぁそれは冗談です。流石に永遠と続くわけではありませんからね』


 笑いながら恐ろしいことを言われる。

 ドラゴンかぁ。いつか買ってみたいけれど、遠い先の話になるだろう。



 水晶が輝き、光の塊が吐き出される。

 そして目の前には、巨体の鬼が立っていた。


「オーガ、買っちゃった……」


『買っちゃいましたねぇ』


 1,000ptのオーガを買った。

 高い買い物である。


 あれだけ渋っていたのに買ったのには、勿論理由がある。


 ここ数日の話だが、オークが何体もやってくるようになった。

 倒せてはいるのだが、どうにも数が徐々に増えている。今日なんて六時間で九体倒した。

 すると水晶が「これはオークキングも来るかもしれませんね……」と言っていたので、購入を決めたのだ。


 滅多にいないらしいが、オーク種にはオークキングと呼ばれる個体が存在する。

 オークキングはオーク族の主であり、戦闘時には必ずオーク族の全員を伴って戦闘をするらしい。


 や、オークキングは窓に売ってないからどんな強さか知らないけど、キングって言うぐらいだから絶対強いだろう。

 オークの群れなら今のダンジョンで相手できるのだが、流石にキングと大群に入ってこられてはたまったものではない。

 なので、無理なく買える中で一番強そうな奴を配置することにした。


 体長およそ2.5m。

 赤い裸体に腰みのをつけ、黒光りするこん棒を持っている。

 頭には角が生えており、一つしかない目は爛々と光っていた。


 人間の赤ちゃんとか食べてそう……。


『オーガ種は優秀ですよ。単体での戦闘に長け、武具の使用も可能です。進化先も、巨人種であるサイクロプスと、鬼種である赤鬼という強力なものばかりです。どれもこのダンジョンにはオーバースペックですね』


「凄く強そう……これってダイアウルフ何体分ぐらいなの?」


『10ダイアウルフは超えますねぇ』


『おい、俺を単位に使うな。だいたい俺も進化していけば強くなるんだ。あまり低く見るんじゃない』


『と言うか、ダイアウルフは群れが基本ですよ。オーガと単体で競えるモンスターは上位でもそんなにいませんし』


「へぇ……」


 ムキムキの体を眺めていると、オーガが手を差し出してきた。

 握手してみると、一つ目を細めてにこりと笑う。怖い。


 彼は挨拶を済ませると、ドスドスと奥の部屋に歩いて行った。

 話を聞いていたのだろう。ゴーレムと同じ部屋で、彼らと訓練を始めるはずだ。


『これで最終防衛ラインはかなり硬くなりましたね。ゴーレムも攻撃を受けるだけなら優秀ですし、彼にコアへ繋がる道を塞いでもらって、オーガに敵は倒してもらいましょう』


「あれ? コアは絶対に外から続く道に繋げなきゃいけないんじゃなかった?」


『あれはダンジョン生成のルールですね。ゴーレムが寝そべって壁を作る分には問題ないですよ』


「ズルくない?」


『できることをやらないのはバカと強者の特権ですよ。

 草十郎は弱いんですから、四の五の言ってないでより強い手段を選ぶべきです』


「はい」


 ぐうの根も出なかった。



 リーダーとなったモンスターとは、会話によって意思疎通ができるようになる。

 が、中には会話ができないものもいる。


 今のところ、スケルトン、スライム、イモムシ、バットは言葉が話せなかった。

 が、リーダーには言っていることはそのまま伝わるし、ジェスチャーで返してくれたりもする。少し悲しかったがそんなものだろう。イモムシが喋るとは流石に思っていなかったし。


 ただ、会話が出来ると問題も増える。


『おいフェアリー。飛ぶのをやめることはできんのか。目が疲れる』


『はぁ!? 飛ばないと鱗粉が出ないんですけど!? あんたらの傷を癒すためにこうやって粉を集めてるんでしょ!?』


『いや、分かっている。分かっているのだが、俺たちには素早いものを目で追う習性があるのだ。もう少し抑えるか、別の部屋でやってくれ……』


『有り得ないんですけど!? もう家も作ったし、ここが一番暖かいところじゃない。あんたが他に行きなさいよ!』


『むぅ……俺も暖かいところがいい』


『ありえないんですけどー!?』


 壁をドンドンドンと叩きながら、フェアリーが喚いている。

 いや、小さいのでトストストスぐらいの音なのだが、勢いが凄い。


 リーダーになったフェアリーとウルフが喧嘩をしていた。

 どうやら居住区問題らしい。


 確かにフェアリーが作れるようになった〈妖精の粉〉は良いアイテムだ。

 彼女たちは空を飛ぶことで、回復を助ける効果を持つ粉を出す。それはしばらくの間保存が利くので、少しずつ活用しながら在庫を貯めてもらっていた。


 ぜひとも生成を続けてほしいのだが、しかしウルフだって休んでいる時に目の前で飛び回られては困るだろう。

 まぁ種族が違えば勝手も違う。仕方のないことだ。


「聞こえてたけど、どうする? 別の部屋を作ろうか?」


『むぅ……分かった。草十郎、俺たちウルフが部屋を移ろう。焚き火と上質な藁を用意してくれないか?』


「良いよ良いよ。仕方ないことだし」


『……マスターも私たちが邪魔?』


「うーん……僕はウルフみたいに動体視力が良いわけじゃないし、君らが飛んでる姿はただふわふわしてるようにしか見えないんだよね。特に気にしたことはないなぁ」


『なら良いわ』


 言って、フェアリーたちはまた空を飛び回り始めた。

 別に気にならないなぁ。羽音もしないし、粉だってやたら飛び散るわけじゃない。それにそこそこ高いところで飛んでいるので、視界の外の出来事になっている。


 ただ、ウルフたちには僕にはない習性があるらしい。

 悲しい(さが)だ。


 DPを使って穴を開け、小さな洞穴(ほらあな)を作る。

 焚き火に火を灯して藁を整え、ウルフたちを移動させる。


「これでいいかな? 何か欲しいものがあったら言ってね」


『助かる』


 ――――その二時間後、ウルフたちが藁を咥えて帰ってきた。


「……どうしたの」


『……落ち着かん。どうもいつも見ていたせいで、慣れてしまったらしい』


 漫画だったらずっこけてたぞ。


『あれ、戻ってきたのあんたたち。飛ぶのはやめないわよ?』


『あぁ……もう好きにしてくれ……俺たちが慣れてやる……』


 結局、ウルフたちは元の場所で住むことになった。

 新しく作った洞穴は何か別の用途に使うことにしよう。埋めるのもDPが勿体ないし、また新しいモンスターを買う時が来るだろう。



「そう言えば、ゴーレムのレベルも上げたいね。あと2レベルでリーダーになるし」


 もはやダンジョンの飾りみたいになっているゴーレムも、lv8まできた。

 だがレベルの上がり方が遅すぎる。やっぱり僕のユニークスキルがあるとはいえ、戦闘をしていないのは良くないらしい。


 水晶が少し考えて、喋り出す。


『なら大穴を一旦埋めて、ゴーレムを配置しますか? 隠すだけでしたら少量のDPでもいいですよ』


「うーん……もう少し様子を見ようか。オークキング相手には大穴が欲しいから、倒してからにしよう」


『でも、キングが来る前にはゴーレムも進化させておきたいですね』


「大穴の方が大事だよ。あ、でもそうだな。新しく召喚したモンスターを中心に育てたい感じはあるね。確か攻撃したり、トドメを刺したモンスターには多くの経験値が入るんだっけ?」


『アタックボーナスとキルボーナスですね。微々たるものですが、lvの低い彼らにとっては大きなものでしょう。分かりました。出来る範囲で譲るように伝えておきます。あ、オーガも横穴から弓撃たせますか? 出来ないこともないですよ?』


「強いオーガもまだlv1か……そうだね、ちょっと呼んできて弓を使ってもらおう」


 こん棒投げた方が強そうだと思うけど、大穴の部屋はしばらく現状維持したい。

 申し訳ないが後衛に回ってもらおう。横穴にいれば他の部屋にもすぐ移動ができるし、今の仕組みで問題ないはずだ。


 オーガを呼んで事情を伝えると、変な顔をされた。俺が殴った方が早くね? みたいに思われてる。

 すまん……。オークキングが悪いんだ……。どんな強さか分からない以上、大人数を捉えることのできる大穴は埋められない……。


 空を飛ぶ敵を奥の部屋に素通りさせるのも考えたけど、やっぱりオークの経験値の方が大きい。弱ったオークにトドメを差してもらった方が効率がいいはず。


 オーガはDPで購入した大弓を構えると、綺麗なフォームで矢を射った。

 ザクッ、と大きな音がして練習に使う的に矢が突き刺さる。


「……オーガって弓スキル持ってたっけ?」


『……今覚えましたね。素晴らしい。初めての試射であの精度は賞賛に値します。草十郎? 筋肉は全てを解決するらしいですよ』


「やっぱり筋肉かぁ」


 もちろん矢は的の中心に当たっていた。

 ズルくない? 何食べて生きてるんだろ。人間の赤ちゃんか? 僕も食べるか?



「しかし、こいつは一体何なんだろうな」


『分からないですねぇ……。草十郎がレベル10になっても何も変わりませんし……』




『ユニークスキル:■■■■。

 ・訓練・戦闘で得られる経験値補正:小

 ・対象の殺害時、経験値補正:中

 ・■■■■■■、■■に比例して経験値補正:極大』




『第一の従者:■■■■■。

 ・〈従者〉属性を持つ。

 ・攻撃できない。

 ・死なない。

 ・■■の■■を■■■■■■■■■■。

 ・■■の■■に■■■■■■■■■■。

 ・■の■■■■■■■■■■。』




 文字化けは一切変化がなかった。

 何かあるかもしれないと期待していたが、駄目みたいだ。いつになったら分かるのだろうか。


 僕のサーバント――――炎の塊は今も薪をむしゃむしゃ食べている。

 暇があれば餌のようにして与えているのだが、何も変化はない。大きくもならないし言葉も話さない。これ、あげなくていいんじゃないか? でも万が一消えられると困るので、ダンジョン防衛中も近くに薪を用意してあげている。


 目も鼻も耳もない。ただ薪を近付けた時だけ、口のようなものが現れる。

 ちなみに手で触ったが燃えもしない。ほんのりと暖かいものの、およそ炎の性質とは異なるモンスターだ。


 いつか水をかけてみようかと考えているが、消えられると困るので行動に移せない。


 一体なんなんだ……。


「それにこいつ、レベルも上がらないんだよね。ダンジョン経験値を貰っているはずなんだけど、経験値が一向に増えてない」


『……そもそもレベルがあるのかも怪しいですよ。ステータスではlv1となっていますが、明らかに他のモンスターとは違う生態をしています。と言うか、〈攻撃できない〉ってなんですか? 〈死なない〉があるので生き残れはするんでしょうけど、どうやって増えたり成長したりするんです?』


「分かんない……」


 水晶と二人でうんうん悩む。

 炎の塊は薪を食べながら素知らぬ顔だ。顔がどこにあるのかも分からないけど。


『寄生型でもないみたいですしねぇ』


「あぁ、前に試してたやつ?」


『はい。モンスターには誰かに所有されることで生命活動を行うものがいます。動物で例えるなら掃除魚……有名なのはナイルティラピアですか』


「寄生って言うと嫌なイメージが湧くけれど、要はある種の協力関係ってことでいいよね」


『そう捉えてもらっても構いません』


 ナイルティラピアはカバの歯を掃除する魚だ。

 アレはカバに守ってもらうことで戦闘能力を捨て、代わりにカバを清潔にすることで身を守ってもらっている。利害の一致というやつだ。


 確かに、戦う能力のないこの炎にとっては、相方が必要なのかもしれない。


『モンスターであれば、リビングアーマーや妖刀なんかが代表例ですね。彼らは装着者に分かりやすい戦闘力を提供する代わりに、体力や精神力なんかを吸い取って活動します』


「怖いなぁ」


『ですがこの炎、そもそも食事しないみたいなんですよねぇ……どうやって燃えているのかも謎ですし、無酸素瓶なんかを用意して実験したいところですけど死なれると困りますし……』


「僕やゴブリンたちが装備してみようとしても、何も反応しなかったしね」


 実は前に少し試したのだ。

 炎のように燃え広がったりしないことから装備型なのではないかと言われ、僕やモンスターたちがなんとか寄生させてみようとした。

 が、無反応。地面から持ち上げることはできるのだがウンともスンとも言わない。ただ燃えて暖かいだけである。


『それに、そういったモンスターは寄生するまで〈筋力〉等のステータスがないんですよね。寄生して初めて見えるようになるので、表示がそもそもされないんですよ』


「こいつは全能力値がFなんだよなぁ……」


『謎が深まるばかりですねぇ……』


 まぁ、問題にはなっていない。

 ダンジョンは強くなってきているし、今の状態ならオークキングにだって負ける気がしない。


 こいつには暖房器具(ヒーター)になってもらおう。暖かいのが好きな魔物は多いし、燃えたりしないので結構みんなが寄ってきたりする。軽い人気者だ。

 薪をあげれば掃除機のように全部吸っていくので暇つぶしにも最適である。薪は安いし、痛手にもならない。


『取り合えず、様子見しましょうか』


「だね。じゃあ、明日に備えてもう寝るよ」


『はい。お休みなさい草十郎』


「お休み水晶」


 用意してあるベッドに転がって、布団を被る。


 と、ウルフが寄ってきて枕になってくれた。

 あの日からずっとウルフは枕と椅子の役目を果たし続けている。

 辛くないのか聞いたが、想像通り「全く重くない」とのこと。

 それはそれで少しどうかとも思ったが、有難くクッション代わりにさせてもらっている。もふもふだし。


 羊の数を数えながら、眠りに落ちる。


 遠く部屋の隅で炎の塊が揺れているのを見て、あいつはいつ寝ているのだろうかと思った。

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