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6/ダンジョン改善点

『午後六時を確認しました。ダンジョンの穴が封鎖されます』


「……ふぅ」


 安堵のため息をついて、構えていた弓を下ろす。


 ダンジョンメイカー5日目が終了。

 2回目の防衛も、無事に成功した。



『お疲れ様です草十郎。ケガはないですか?』


「お疲れ水晶。弓を撃ってるだけだから、ケガなんてするはずないよ」


『手を見てください。力に任せて百発以上撃っていましたよね。初心者であれば、無事で済むはずがありませんよ』


「……ホントだ」


 両手を見ると血だらけになっていた。弓矢を(つが)えていた方が特に酷い。

 皮がめくれ、血が滲んできている。触ってみると少し痛い。


 参ったな。全然気づかなかったぞ。


『薬を処方しておきます。手を洗ってから塗っておいてください』


「……ありがとう」


『構え方は教えましたが、あんな出鱈目に力を入れればそうなって当然です。明日は回数制限を設けます。徐々に慣れていきましょう』


 今日から僕は、弓を持つことにした。

 モンスターたちにばかり任せているわけにもいかないし、僕だって労働力の一つだ。生き物を殺すのに抵抗はあるけれど、弓なら多少はマシに思えたので練習している。


 でも一発も当たらないんだよなぁ……。

 的は見えてるし止まっているはずなのに、どれだけ撃っても当たる気がしない。


「何が悪いんだろう……」


『最初から上手くいくはずがありませんよ。取り合えず数をこなしましょう。間違ってる点は私が手取り足取り教えてあげますから』


「……手取り足取り? その体で?」


『……比喩表現ですってば。実際に手や足に力添えはできないですけど、知識だけはありますから』


「はは……たのもしいよ」


 少し痛む手で窓を操作し、食事を購入する。

 モンスターたちもご飯の時間だ。昨日と同じぐらいの量を購入して、お酒やお菓子なんかも付け足しておく。

 ゴブリンはお菓子のケーキがお気に召したようだ。おいしそうに食べている。


 しかしモンスター用のケーキと僕用のケーキに、何か違いはあるのだろうか。

 友達にドッグフードはおいしいと聞いたことがある。少し興味が湧いた。


『俺はコレが気になるな』


「ソーセージ? 確かにお肉だけど、食べて大丈夫なんだっけ?」


『モンスター用のものであればいいですよ。人間用のものを食べるとお腹壊しますけど』


 ウルフに言われて、ソーセージを購入する。

 すると漫画でしか見たことのない連なったソーセージが現れた。三十個は連結しているそれを前足で抑えると、ウルフは齧りつくようにして食事を始める。


 ……今回の戦闘で、ウルフが言葉を話すようになった。


 ウルフのレベルが10になった時〈ダイアウルフ〉へと進化させた。

 すると突然僕の名前を呼んできて、会話が出来るようになったのだ。ダーウィンもビックリの進化である。


 ウルフの見た目は少し変わった。

 毛並みが黒茶けたものから、薄い灰色になっている。ダイアと言うには少し違う色合いだが、光を浴びせると美しい毛並みが宝石のように見えた。

 大きさは少し小さくなった。僕より少し低い1.5mぐらい。ただ、牙や爪は更に鋭くなっているし、脚には筋肉がしっかりとついている。


「……進化って言うから期待してたけど、まさか喋れるようになるとは思わなかった」


『俺もビックリしたな。まさか草十郎と会話できる日が来るとは』


『システムの一環ですね。一種族に一匹、レベル10を超えたモンスターをリーダーとして設定できます。他のモンスターと違って会話することが出来ますよ』


「へぇ。じゃあ、ゴブリンたちともいつかは話せるようになるんだ?」


『はい。ただ一種族に一匹限定ですので、他のモンスターとは喋れませんけどね』


 犬の気持ちが分かる首輪みたいなものがあったけど、直に伝わるようになるのは凄い体験である。犬は尻尾を振ってたら嬉しい状態らしいが、そこのところどうなのか聞いてみよう。

 ウルフは狼だから違うかもしれないけど。


「他の子には僕の言っていることって伝わってるのかな」


『なんとなく分かるぞ。ただ、俺と草十郎が会話しているように詳しいことまでは分からんな。なんというか、ぼんやりと何を言っているかは分かるのだが、同族と話すようにまでは上手く伝わってこん』


「ウルフはもう一匹のウルフとも話せるんだ?」


『モンスターの同種族同士は基本的に会話が可能ですよ。ただ、異種族になるとなんとなくでしか伝わりませんけどね』


 ふん、とウルフが鼻を鳴らす。


『イモムシのリーダーが待ち遠しいな。あいつらには言っておきたいことがある』


「どうしたの?」


『穴の中に落ちた死骸の肉があるだろう。スライムやレイスはいいのだが、イモムシ共が処理したところだけ毒が入っているのだ。昨日それを食べて腹を壊した』


「えぇ……」


『ゴブリンや虫の死骸なら良いのだが、ベアーの肉は美味いのだ。出来ればイモムシは不味い肉の処理に回してくれ』


「取り合えず、リーダーが出来たら僕からも伝えておくね」


『うむ』


 気になったのでウルフのステータスを見てみると、確かに〈毒耐性Lv1〉がついていた。

 毒を食べればスキルがつくのか……。凄い世界だ。僕だったら死んじゃいそう。


「それにしても、進化してステータスも上がるんだね」


『ダイアウルフは小型の晩成寄りな種族ですね。更に進化を重ねていくともっと上がっていきますよ。もう一つの分岐にあったワイルドウルフだと、ダイアよりも強いですが頭がバカになります。知的なダンジョン経営をしたければ草十郎の選択は間違いないですよ』


 ウルフがグルルと唸りだす。


『おい、ワイルドウルフをバカと言ったか石ころ』

『は? もしかしてこの美しい私を石と表現しました? 犬』

『犬は狼が調教に屈し堕落した姿だ。強く逞しい俺を表す言葉ではない。

 潜在能力と引き換えに力を得るワイルドウルフは後々他より見劣りするかもしれんが、確かな安全を与えてくれる。群れには欠かせない立派な進化だ』

『鉱物の希少性ぐらい勉強してきてください。

 私は全世界に元となる元素が0.00012%しか存在せず、更にそれを特殊な条件下にて変位させることで生まれる素晴らしい鉱石です。しかも知的! 脳化指数1.2のケダモノは弁えましょう』


 参った、喧嘩が始まった。


「二人とも僕より強くて賢いんだから喧嘩しちゃダメだよ。

 それに、ダイアウルフもワイルドウルフも両方強いじゃないか。まだよく分からないけど、どっちだって僕にとっては心強い味方だよ」


 取りなそうとすると、二体から同時にため息をつかれる。


『はぁ……草十郎は本当に自虐が好きですね』


『俺も前から気になっていた。草十郎、お前はもう少し自信をつけろ。俺の主であるなら相応しい態度というものがある。お前はあまりにも情けない』


「えぇ……」


 矛先が変わって説教を食らった。

 酷い話だ。藪蛇(やぶへび)である。


『まぁ、今回は喧嘩の仲裁として評価しましょうか』


『女々しいのは気に食わんがな。それに……ワイルドウルフも悪くないが、俺としてはダイアウルフで良かったと思っている。これで王となれる』


「? どういうこと?」


『ウルフ種の最上位には、ワイルドウルフではなれないらしいのだ。俺には故郷もないし家族もいないが、頭の中にある知識がそう言っている。嬉しいぞ。俺にはまだまだ未来がある』


 ソーセージをガツガツと噛み千切りながら、ウルフがにやりと笑った。

 素敵な犬歯が白く光る。恐ろしい。もう二度とこのウルフに甘噛みを許してはいけない。


『他のモンスターも明日には進化する見込みですね。モンスターのステータス画面から進化先は確認できますので、今のうちに考えておいてはどうですか?』


「うん、そうするよ。今日は焦って上の選択肢を選んじゃったしね」


『……』


『良かったですね。草十郎の運で王様になれるらしいですよ』


『俺は1/2でワイルドウルフだったのか……。いや、五割の関門を乗り越えたと考えれば、天は俺に味方しているのかもしれない』


『もう一匹は十割でダイアウルフですけどね』


 苦笑いしながら、他のモンスターたちの進化先を確認する。

 こういうのは面白い。どれが良いのか考えながら、その見た目などを楽しみつつ、皆の成長した姿を眺めていく。



 ダンジョンメイカー6日目。


 その日の防衛も成功した。

 今日は大戦果だ。オークという当初の目標を倒すことに成功した。


「まさか四匹も一気に来るなんて、聞いてないよ……」


『驚きましたね。確かにオークは群れで行動しますけど、四匹纏めてダンジョンに入ってくるとは思いませんでした。ダイアウルフが居たからですかね? 強いモンスターを見ると複数で襲う習性がありますから』


『なんだ、俺のせいか? まぁ俺が殺――――倒してやったのだから問題ないだろう』


 そう、オークは数が多かったのだ。

 当初の想定通りに全員が穴に落ちたものの、杭を上手く避けられてしまった。

 そのまま起き上がったオークは、バットの攻撃や矢を受けて数を減らしながらも、なんと足場を手掴みで踏破してしまったのだ。


 が、倒すことは出来た。

 第二案として、大穴の部屋から続く部屋にはウルフや弓持ちがすぐに移動できるようにしてある。

 元々血を流していたためすぐに倒すことはできた。


「十匹も来たら多分、ゴーレムの部屋まで行っちゃうよね」


『流石に十匹はないと思いますけどね……。ただ、DPも弓矢代やトラップの予備を含めてかなり余裕が出てきました。改良しても良い頃合いかと』


「そうだね。モンスターと、部屋を増やすことも考えていこう」



 他にも色々と改良点は見つかる。


「ねぇ水晶。もしかして経験値ってダンジョン内のどこに居ても入ってくる?」


『入りますね。直接戦闘をしているモンスターの方がやはり実入りは良いですが、どこにいても決まった量が配分される〈ダンジョン経験値〉があります。戦わなくてもダンジョンの中に配置されているわけですから、何らかの経験は積んでいますよ』


 僕が気になっていたのは、最奥で番をしているだけのゴーレムのレベルが上がっていることだった。

 訓練や練習ですら経験値はほんの少し入って来ていたのであまり気にしていなかったのだが、ゴーレムはダンジョンの穴が空いている時間何一つとして動かしていない。

 それなのに昼と夜とでレベルが変わっていることに気付いてしまった。


 結論から言うと、ダンジョン内にいるだけでレベルは上がる。

 ただその上昇量は本当に微々たるものだ。ゴーレムはまだレベル7である。


 だが塵も積もれば山となる。

 このダンジョン経験値なるものはダンジョン内にいるモンスターに、倒した敵に応じて一定量配分されていくらしい。つまり、沢山のモンスターを配置すればそれだけ得られる総経験値が増えていくようだ。


 しかも僕のユニークスキルで少し増えている。

 これは活かす他ない。早めに新しいモンスターを買わなければいけない。



「ゴブリン、弓を教えてくれ」


『マスター、また練習?』


 ゴブリンにはゴブリンアーチャーになった。

 〈弓術Lv2〉を持っており、〈技量〉ステータスが高い。まさにこのダンジョンに合った進化と言える。


 ちなみにもう一匹はゴブリンメイジにしたのだが、魔法を教えてほしいと聞きに行ったら首を横に振られた。

 どうも僕は魔力が低すぎるらしい。それに、メイジもまだ人に教えられる程には上達してはいないとのことだ。悲しい。


 ということで、目下お悩み中の弓を学びに来た。

 ゴブリン族のリーダーはゴブリンアーチャーになったため、今では知りたいことを聞くことが出来る。


『俺、水晶より教えるの上手くない』


「水晶には愛想を尽かされたよ。実際に目で見て習えって放り出されちゃった」


『えー』


 水晶の教え方は確かに上手かった。

 弓矢を持つ手とか、身体の開き方が悪いとか。あらゆることを言語で適切に教えてくれるので非常にタメになったと思う。


 ただ、水晶には手足がない。

 こと運動において、見本がないというのは僕にとってはきつかった。真似が出来ないのだ。


『全ての物事は真似から始まります。運動、芸術、仕事、思想。全てはインプットから始まり、インプットを己の内で消化することでアウトプットとなるのです。

 ……と言っても、私には手足がないんですよね。見本が見せられません。弓についてはリーダーになったモンスターに話を聞いた方が早いかもしれないです。ごめんなさい……』


 水晶には謝られた。

 出来の悪い教え子で申し訳ない……。


「取り合えず、見本を見せてくれないかな」


『分かった』


 言って、ゴブリンが弓矢を番え、用意してあった的を射った。

 命中だ。ちゃんと真ん中の赤いところに突き刺さっている。


 しかしあんまり参考にならないな……。

 学ぶところは多いのだろうが、なにせ四等身なのは変わっていない。

 そもそもサイズ感が違うし、骨格も肉付きも違うのでポーズが真似にくい。指も四本だし。


 同じ等身大であるスケルトンのリーダーにも頼みに行ったのだが、あっちはもっと酷かった。骨しかない。

 しかも動きがカクカクしている。力を入れているところもよく分からなかったので多分人間が撃つようなやり方ではない気がする。


「うーん……どうしたもんか」


『取り合えず、撃つ。悪いところ、俺、直す』


「それでいこうか。申し訳ないけど少し見ていてほしい」


 一射目、勿論当たらない。

 続く二射目、三射目も当たらない。不良品かこの弓? いや、不良品は僕か……。


『力、足りてないかも』


「あー、それはあるかもね。水晶にも上手いこと弓を引けてないって言われたなぁ」


『短い弦の弓、使う。飛ばない、けど、当たる』


「僕の体格だとこの弓を使った方が良いって言われたんだよね。それに、遠くに飛ばせないと穴まで届かないし」


『……難しい』


 うだうだ考えていても仕方がない。練習あるのみだ。

 最近は腕立て伏せもやるようになった。まだ五回しかできないけど、こういうのは継続が大事である。


 しばらくゴブリンと一緒になって的当ての練習をする。

 すると、ゴブリンが尋ねてきた。


『マスター、戦わなくて、よくないか?』


「そう?」


『俺たち、コアとマスター、守る。マスター、食事と罠作る。うぃんぅいん』


「それだと僕がルーザーなんだよなぁ」


 打算的な意味合いとして、僕のレベルを上げたいというのがある。

 僕は必要経験値がモンスターより若干多いらしくて、レベル8あたりから伸びが非常に悪くなっている。レベル10が遠い。


 日課となったダンジョン防衛だけじゃ亀の歩みなので、もうちょっと何か積み重ねが欲しい。

 下手くそな弓の練習でも経験値は上がるのだ。やるに越したことはないだろう。


 それに、心情的なものもある。

 モンスターたちが頑張って戦っているのに、遠距離で弓すら撃てなくてどうするんだという話だ。

 確かに僕がいなければ彼らはご飯を食べられないが、収入は全てモンスターの頑張りによって入ってくる。

 ここで戦いませんと言ってしまうとヒモである。情けないことこの上ない。


 ――――そして何より。


 僕はスキルが欲しかった。

 スキルは努力の証だ。僕のステータス欄に〈弓術lv1〉が表示された時、僕はようやく認められたことになる。

 まだ一週間も経っていない。それでも、僕は何か形あるモノが欲しくてたまらない。


 嫉妬の心もある。


 モンスターたちは訓練によってスキルを獲得し、ステータスを上げ、進化していく。

 そんな彼らに対して、僕はまだ何一つ得られていない。


 焦る気持ちはない。いつだって、僕は人より遅れたところを原点に持つ。

 それよりも、頑張りたいという気持ちが強い。彼らだって得られたのだから、僕だって何かを手にすることができるはずだ。


 僕は皆に支えられて成功している。

 だから、僕も少しぐらい、彼らを支えてあげたいのだ。


「まぁ、しばらくはやってみるよ」


『いつでも、教える。応援してるー!』


「ありがとうな」


 めっちゃ良い奴だった。

 人は見かけによらない。最初は怖かった悪人顔も、今ではちょっと好きになってきている。

【ステータス】

 種族:ダイアウルフ クラス:リーダー

 レベル:10

 筋力E+ 耐久E 技量E+ 敏捷D 魔力F 素質C

 固有スキル:群れlv1

 通常スキル:ブレスlv1 暗視lv1

       逃げ足lv1 毒耐性lv1




 種族:ゴブリンアーチャー クラス:リーダー

 レベル:10

 筋力E 耐久E 技量D 敏捷E+ 魔力F 素質C

 固有スキル:なし

 通常スキル:暗視lv1 隠れ身lv1

       弓術lv1

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