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5/ダンジョン防衛初日

 ダンジョンメイカー4日目。


『これで終わりですかね?』


「……そうだね。これでいこう」


 水晶と最終確認をしながら、遅めの朝食を取る。


 今日はダンジョンが外と繋がる日だ。

 後三時間ほどで外敵が入ってくる。


 ダンジョンは既に拡張を終え、モンスターも揃え終わっている。

 後は待つだけなのだが、やっぱり不安だ。問題がないか水晶とずっと話し合っている。


「簡単すぎやしないかな?」


『いえ、良いと思いますよ。低予算ですし、後のダンジョン拡張にも差支えはなさそうです。入ってくるモンスターのだいたいには対処できると思います』


「ありがとう」


『何を言っているんですか草十郎。貴方の考えたことですよ。それに、まだ始まってもいません。礼を言うには早すぎます』


「うん、そうだね。これからだ」


 ドキドキしながら、近くにいたウルフの背に座る。


 椅子もベッドもまだ買っていないが、見かねたのかウルフが僕の椅子代わりになってくれるようになった。座り心地がめちゃくちゃいい。


 重くないのか気になったが、ウルフは全く気にしていない。

 というか、じゃれてたまに甘噛みしてくるのだが力が強すぎていつも押し倒されてしまう。

 多分僕程度が乗っていようがあまり変わらないのだろう。


「そういえばさ。ここ数日、床で寝るのに慣れたのか全然体が痛くないんだ」


『へ、へぇー。そうなんですか。それは良いことですね!』


「うん! 人間慣れるとなんでも大丈夫になるんだね。だから、ベッドも布団もいらないかなって」


『駄目です。絶対に購入してください』


「でも」


『デモもストもないですよ。購入してください。いいですね?』


 なんだか有無を言わせない口調で言われたので、取り合えず頷いておく。

 ウルフも変な顔をしていた。やっぱり椅子扱いは嫌なのかな。ちゃんと買っておこう。


「敵が来たら、僕はどうしてればいいかな」


『草十郎は戦えないので、様子を見るしかないですね。ダンジョンメイカーとしても、ダンジョンの変形とモンスターの購入は禁止されます。アイテムならいつでも買えますし、ステータス等の確認はできますよ』


「……いきなり穴を掘ったり、モンスターを増やしたりは出来ないってことね」


『まぁ出せてもレベル1のモンスターですからね。大した戦力になりませんよ』


『レベル1って戦えないの? 最初に召喚した時に訓練させてたけど、とても不格好だったからさ」


『あれは訓練だったからですよ。外敵に対しての攻撃や反撃であれば種としての本能がありますから、戦うことはできます。けれど、味方と戦って戦闘経験値を稼ぐというのは特殊ですからね』


「あぁ、特殊だったんだ」


 そう考えると、確かに動物たちが訓練をするなんて話は聞いたことがない。

 ライオンは生まれた時から狩りをするし、蟻は一度戦うと死んでしまう。

 同族同士で戦う練習をしたり、異種族と仲良く練習をする機会なんてなかったのだろう。


「なら、僕のユニークスキルってアタリかもね。訓練なんてあの表示を見なきゃ思いつかなかっただろうし」


『そうですね。それに、訓練でもモンスターたちは成長していますし』


 最初に召喚した大量のモンスターたちは、どれもレベルが5になっていた。

 ステータスもFばかりだったものがEになっていたりする。それにスキルが身に付いたものもいる。


 ステータスとスキルは、絶対の指針だ。

 力比べをすれば必ず〈筋力〉の高い側が勝つし、剣の腕を競えば〈剣術〉の高い側が相手を打倒する。


 ゲーム的なもののようで、実は少し違う。

 ステータスが高いから強いのではなく、強いからステータスが高いのだ。そこの順序が逆。ただ普通に過ごしているだけで、それらの数値が上がることはない。何か特定の技能に通じた時、その熟練度がステータスの欄に刻まれていく。


 だから、腕立て伏せをすれば〈筋力〉は上がるし、剣を振り続ければ〈剣術〉スキルを習得し育てていける。

 ポット得られるものではなく、全て後天的なものだ。僕のユニークスキルはまた別の枠組みにあるらしいが。


 その理に則り、僕はモンスターたちに指向性を持たせて訓練をさせてあった。

 今ではレベル1よりもある程度は強くなっている。


「結構育ったよね。こんなことなら、最初から100ptのオークを買って訓練させれば良かったかな」


『敵と同種のモンスターを買ってしまうと、完全にレベル勝負になりますからね。草十郎のユニークスキルを考えれば悪くないとは思いますが、万が一相手のレベルが高かった場合に勝てる可能性がゼロになります。ベターではありますがベストだとは思いません。


 オークにオークをぶつけると、そこに生まれるのは単なる数値の勝負になる。

 罠や装備等で強化してやることは出来るが、しかしやっていることは完全な地力勝負だ。どんな敵が来るか一切分からない今、そんな博打に手を出す勇気はなかった。


 そもそもオークの価格、高いし。


『……まぁ、草十郎みたいに低DPのモンスターを雑多に買い漁るのもどうかと思ってましたけど』


「え、これ良くないの?」


『一般的には一種族のみで揃えたり、同系統の種族を中心に少し他に手を出したりするのが多いですね。その方が色々と纏めて考えやすいですし』


「そうなんだ……」


『ただ、これだけ違う種類がいれば色々とやれることも増えますし、取れる戦略は多いですよ。このごちゃごちゃした感じ、私は意外と気に入ってます』


 そうか、他の人はもっと纏めて購入するんだな。

 僕は同種のモンスターでも二匹ずつしか買っていないから、少し間違えてしまったかもしれない。


 そう言われると、確かにウルフの持つ『群れLv1』のスキルは、同系統のウルフの数によって戦闘力に補正がつくタイプのものだった。

 ウルフだけを30匹ぐらい買うのも手だっただろうか。


 ただまぁ、色々といたっていいでしょう。

 僕のモンスターたちは種族が違うからといって喧嘩しているわけじゃないし、仲良く皆で補い合っている。次からは少し考えるかもしれないけれど、別に色んな種族がいても何も問題はない。


『訓練で得られる経験値は微小ですが、草十郎のユニークスキルのおかげで結構な積み重ねになっています。普通に戦わせても、今のダンジョンであればオーガですら倒せるかもしれません』


「あの1,000ptの? 体長が3m弱あるって書いてあったけど」


『……すみません。流石にオーガに真っ向勝負はきついかもしれないです。でも、オークなら間違いなく倒せますよ』


「……そうだと良いんだけどなぁ」


 そろそろ時間だ。

 手を鳴らしてモンスターたちを招集する。


 ……大丈夫だ。準備はした。色々考えた。

 ダメだった時のことも織り込み済みだ。大丈夫、大丈夫。


 ――――そして、ダンジョンが繋がる。



『午後一二時を確認しました。ダンジョンの穴が解放されます』


 最初に入ってきたのは二匹のゴブリンだった。


 四等身の小人の魔物。よく見慣れた顔だ。

 けれど外のゴブリンは狂暴なのか、悪人顔が極まっていた。服の汚さと相まって、明らかに敵という感じの雰囲気がする。


 入ってきた彼らを、二匹のウルフが誘うようにして追い立てる。

 攻撃はしない。近付いてきたと思えばすぐ遠ざかっていくウルフたちを見て、ゴブリンがダンジョンの中へと追いかけてくる。


 そして、穴の中へと落ちた。

 穴の下には無数の太い杭があった。ゴブリンの小さな体には刺さらないけれど、鋭い棘が傷をつくる。


 落下のダメージは少ない。そこまで高くない穴だからだ。

 ゴブリンは何事かと体を起こそうとして――――飛んできた弓矢に体を貫かれ、息絶えた。


 成功だ。


「……勝った?」


『油断しないでください。昼の十二時から夕方六時まで、ダンジョンの穴は空いています。ほら、もう次が来ますよ』


 今度はベアーと呼ばれる生き物だった。ウルフに似た、熊が大きくなった形のモンスター。

 数は三匹。立てば2mはありそうな巨体が、縦一列になってやってくる。


 ……そして彼らも同じようにして穴に落ち、杭と弓矢によって貫かれて死んだ。


 僕がモンスターたちにやらせた訓練は二つ。

 夜目が効くようにすることと、弓矢を撃てるようにすることだ。


 このダンジョンは今、入口から入って最初の部屋に穴が空いている。

 ダンジョンの一部屋を使って用意した大穴だ。ところどころにウルフたちが通るための足場を残しているけれど、場所を知らなければ乗り移ってはこれないだろう。

 穴の高さは5mほどで底に杭をびっしり用意しており、上がってこれないように縁にはネズミ返しを付けていた。


 そして、その穴を取り囲むようにして四方八方に横穴が開けられている。

 弓を扱えるモンスターたちは皆ここに配置して、穴を見下ろして弓を撃てるようにしていた。


 仕組みは単純。

 ウルフが誘って、罠に落として、弓で撃つだけ。


 近寄るとオークに勝てないから弓を、複数こられても大丈夫なように穴を準備した。

 弓なら遠くからでも撃てるし痛いだろう。複数の敵が来たって、この部屋はほぼ穴みたいなものだから空を飛べない限りは通れやしない。


 あと、真っ暗にした。何一つとして光がない。ダンジョンの入口は外に繋がってるので明るいが、そこからこの部屋にくるまで少し通路を用意してある。

 明るいところから暗いところに行くと、生き物の目はしばらく暗闇に適応できない。

 生態の分からないモンスターの目だからもしかしたら効果がないかと思ったが、意外と利いているようだ。簡単に落ちていく。


 手のないモンスターや、分解能力を持つ者には色々と違う役割をお願いしてあるが、やっていることは純粋な数の暴力だ。

 後はこれを繰り返すだけ。オークは体が大きいらしいから、絶対に穴に落ちる。トラップに気付いて引き返されても別に問題はない。


 念のために毒矢を用意したりもしていたし、もし空を飛ぶ敵や足場を渡ってくる敵が来た時のことも考えていたが杞憂だったらしい。


 その日、僕らは簡単に防衛に成功した。



「意外と上手くいったね」


『お疲れ様です。初日としては最高のスタートになりましたね』


 時刻は夕方六時ぐらい。

 弓を撃つモンスターを定期的に入れ替えながら、僕らは入口が閉じたのを確認して休むことを決めた。


 今は夕食を兼ねての軽い打ち上げだ。

 モンスター用にお酒とかを買ってみたのだが、結構減りが早いので好まれているらしい。


「というか、DP増えてない? 500ptぐらい多いように見えるんだけど」


『あれ、確か言いましたよね? それがダンジョン経営の主収入ですよ。ダンジョンに入ってくる敵を倒すことでDPが得られます』


「おぉ……凄いな。一日の収入の五倍もあるじゃないか。てっきり毎日100ptずつをやりくりしてやっていくのかと思ったよ」


『流石にそれでは家計が火の車です。だから節約していたんですね……。

 ちゃんと私の話を聞かないから貧乏経営することになるんですよ』


「ごめんごめん、今度からはちゃんと聞くよ」


 嬉しい収入だ。色々なものが買えるようになる。

 取り合えずモンスター用の食べ物を幾つか購入しておく。今まで買ったことのないやつとかも買ってあげよう。


「ウルフたちは何か食べたいものある?」


 隣にいたダンジョンの主役に尋ねてみると、二匹揃って首を振られた。

 どうも今日倒した敵の肉を生で食べていてお腹がいっぱいらしい。安上がりで助かる。


「順調だったね」


『そうですね。改良点としては、キラービーへの対処ぐらいですか。空を飛んでいるとやっぱり面倒ですね』


 キラービーというのは大型の蜂のモンスターだ。

 動きが早く、口と針による攻撃を主とするらしい。


 鳥や昆虫用に網を用意していたのだが、動きが早くて捕まえるのに苦労した。

 もっと大きな網をボタン式のトラップで用意しておけば良さそうな気がする。


「でも、ゴーレムの出番はなかったね」


『まぁ最終防衛ラインですからねぇ。出番がないに越したことはありませんよ。

 それに、今日はオークは来ませんでしたし』


「そうだね。オークかぁ。ウルフたちでも倒せないんだよね?」


『戦えはしますけど、勝てないですね。体力が多く力が強いので穴の杭に刺さらないと時間がかかると思います。

 まぁ頭が悪いので、落ちたら上がってこれないんですけどね』


「だと良いけどなぁ」


 やっぱり弓だけだと不安だ。

 トラップを除くとウルフの爪や牙が攻撃力としては一番高いので、やはり高DPのモンスターを数匹買ってみるべきかもしれない。

 ゴーレムも力は強いのだが、足が遅い。走り回られると簡単に抜けられる可能性がある。


「しばらくDPは貯めてみようか。それともオークを買ってみるべきか」


『もう少し待ってもいいかもしれないですね。草十郎のレベルが上がると、買えるユニットの種類も増えますよ』


「え、初めて聞いたよそんな機能。と言うか、僕にもステータスってあるんだ?」


『はいありますよ』




【ステータス】

 名前:嶽野草十郎 クラス:迷宮主

 レベル:4

 筋力F 耐久F 技量F 敏捷F 魔力F 素質A

 ユニークスキル:■■■■

 スキル:なし』




「なんていうか、悲惨な感じだ。僕のサーバントと同じじゃない?」


『アレは戦闘不可ですから、いざとなれば戦える草十郎の方が100倍マシですよ。

 良かったですね。比較対象として必ず下に来てくれる最高の仲間が既にいます。問題はアレがサーバント枠を一つ食い潰していることですけど』


「多分、問題の方がデカすぎる気がする」


 HPとMPの概念がないけれど、ゲームのステータスとそっくりだ。


 唯一気になるのは〈素質A〉の部分になるけれど、これは僕のクラスが迷宮主だからAになっているらしい。

 素質は潜在能力を表している。モンスターの強さや進化の種類によって、種族ごとにだいたい決まった段階が割り当てられるとのこと。ウルフやゴブリンたちは大半がEだった。


 まぁ僕は表記でただそうなっているだけで進化とやらは関係がない。

 いきなり翼が生えたりしてもらっては困る。それに、素質Eとはいえウルフたちより僕が強いとは全く思えない。アテにならないハリボテステータスである。


『草十郎のレベルが上がると、様々な機能が解放されていきます。具体的には10レベルになるとユニットが追加され、魔法アイテムが購入できるようにもなります』


「え、魔法アイテム!? 魔法使えるようになるの!?」


『ふふふ、そこは見てのお楽しみです。頑張って経験値を貯めて、レベル10を目指してくださいね。

 それにレベルが上がれば、草十郎のユニークスキルやあのサーバントの能力も表示されていくかもしれないです。まずはそこを目標に、ダンジョンを成長させていきましょう』


「うん、良いね……! 楽しくなってきた」


 不安なことは多かったが、意外と楽にいけたので安心した。

 これならやっていけるかもしれない。


 と、気楽になって食事に手を付けていると、水晶が笑いながら話してきた。


『ね? やってみれば意外となんとかなるものでしょう?』


「あー……案ずるより産むが易し、ってやつ?」


『はい。全部行動してから考えればいいんですよ。

 同じような言葉に「人事を尽くして天命を待つ」というのもあります。頑張って出来ることを精一杯やって、結果が出てからあれこれ悩むんです。そうやって人は成長していくのですよ』


「……凄いね水晶は。何でも知ってる」


『何でも知ってます。でも知らないことだらけです』


 よく分からない言い回しをして、水晶は他にもあれこれと僕に話しかけてくる。


 ……朝よりも、いや、一昨日に比べれば凄く気楽だ。あんなに悩んでいたのが嘘のように、僕は色々なことを考えることが出来ている。


 やっぱり水晶は凄い。

 この優秀な相棒と一緒なら、早く帰れるかもしれないと思った。


 ぼんやりと、そんなことを考えて。

 また眠気が襲ってくる。


『ってあれ、またお休みですか。仕方ないですよね。今日も六時間ずっと気を張っていましたし』


「……うん、寝る」


『はいお休みなさい。明日もお昼の一二時からです。起こしてあげますよ』


 ぼんやりと落ちていく意識の中、ゴブリンが僕の体を持ち上げるのが見えた。

 そしてスライムが奥の部屋からベッドと布団を持ってくるのも見える。


 ……ここ数日好きなタイミングで寝ていたけれど、やけに睡眠の質が良かったのはこのためか。

 色々と気になることはあったものの、僕の意識はそこで途絶えた。

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