3/第一の従者
「……読めないんだけど」
『読めませんねぇ……』
僕のユニークスキルなるものは、表記のところどころに穴が空いていた。文字化けかもしれない。
名前がもう分からないし、一番下がかなり穴空きだ。
「どう?」
『ダメですね、情報が遮断されています。おそらくユニークルスキル固有の弊害かと思われます』
「固有の弊害?」
『システムの方が壊れているのではなく、元々そういう表示のものみたいです。おそらく草十郎の成長に合わせて、情報が解放されるのではないかと』
ただ、何を得られるかということだけは分かった。
「ここに書いてある経験値って、ゲームとかのやつ?」
『そう認識してもらって構いません。DPで購入できるモンスターは皆戦闘によって経験値を得ることができ、一定量ごとにレベルアップと進化を行うことができます』
「その経験値が、普通より多く貰えるってことなのかな。……これって強いの?」
『強いとは思いますよ? 全体的に戦力を底上げしてくれますし。
中でも補正値の極大は桁違いの性能を持っています。……発動条件が読めないので、活用できないですけど』
「うーん……」
分からない。なんて文字が入るんだろうか。
そもそも穴の数と文字数は必ずしも一緒じゃないと水晶は言っていた。つまり、考えるだけ無駄ということだ。
『それに、ユニークスキルは成長しますからね。草十郎が成長していけば効果が増えたりと、強くなっていきます』
「なるほどね……努力あるのみってことか」
『はい、努力あるのみです!』
努力は得意だ。元が優秀でない分、今までたくさんやってきた。
頑張れば見えるようになるなら構わないや。
『ユニークスキルで手間取りましたがもう一つ、従者についてです。
ダンジョン内には好きな数のユニットを置くことができますが、サーバントは違います。ある段階ごとに解放されていき、自動で貴方の護衛につけることができるユニットです。
この従者は戦闘能力も高く、成長が他より特殊な形で進み、後々もあらゆる役割を持つことになります』
「えっと、とても大事ってこと?」
『はい。とても大事です。数は三体までで、一度失えば替えは利きません。忘れないでください』
サーバントは失ってはいけない。
うん、覚えた。大丈夫だ。
僕は聞きたいことがあったので、水晶に話しかける。
「えっと、質問。失うってことは、ダンジョンに入ってくる敵は、その、殴ってきたりするの?」
『はい、そうです。そちらについては説明するより見せた方が早いですね。窓を操作していただけますか? DPで購入できるユニットのタブに移動してください』
言われ、水晶の窓を操作していく。
ユニットのタブを押すと、色んなものが並んでいた。
どれもさっき食べたカレーライスより高くて、そして表示が大量に増えている。
「と言うか、これ、モンスター……?」
『色々と呼び名はありますが、草十郎の言うモンスターで間違いないです。
そこに映っているのがDPで購入できるモンスターたちで、横の簡易グラフやタッチで確認できる数値がそのモンスターのステータスになります』
そこに並んでいたのは、ゲームの中で見たことのある敵キャラクターたちだった。
背が低く悪そうな顔のやつはゴブリン、人型の骸骨がスケルトン。
他にもRPGの中で見たようなモンスターがアイコンになって表示されている。
タッチすると色んな数値が出てきた。筋力、耐久、技量、敏捷……。他にも幾つかのステータス画面が表示されている。
『そこに表示されているモンスターたちはユニットとして、貴方が召喚・使役することができるものです。
そして同時に、それらのモンスターが外敵としてもこのダンジョンに訪れます』
「え、モンスターがくるの!?」
『はい。外敵はモンスターになります』
襲ってくるモンスターをモンスターで撃退する……。
なんか、そういうゲームを友達が持っていたような気がする。
と言うよりも、スキルとかステータスとかモンスターとか、まるでゲームみたいなことばかりだ。
もしかすると、僕は何かのゲームをやらされているのかもしれない。
『それと注意点ですが、購入時点のモンスターのレベルは1固定になります。
それに対して、外敵のレベルはおよそ5~10です。つまり、数や戦略で対策しないと負ける確率が高いです』
「なるほど……この1,000,000ptもするドラゴンとかも来るの?」
『流石に来ないですね……。せいぜい来ても100ptのオークぐらいと考えておいてください。しかし、いつ、何匹来るかは分かりません』
「オーク……豚のでかいモンスターだっけ」
『窓を操作して、見た目やサイズも確認できますよ。ただ、そうですね……実際にモンスターを数匹買って、目で見た方が分かりやすいかもしれません。草十郎、ユニットを購入してみましょうか』
「じゃあ……このウルフっていうの買ってみていい?」
『いいですよ』
大型の狼型モンスター――――ウルフを、20ptで購入する。
すると水晶が輝きだし、光の塊を吐き出した。
光は徐々に弱くなっていき、気付けば僕の目の前に大きな狼がいた。
薄い灰色の狼だ。
その姿は想像通り凛々しいもので、唯一驚くべき点を挙げるならば、僕の胸あたりの位置に頭があることだった。かなり大きい。
「お……おぉー……」
『まぁ大きくなっただけの狼ですね。鋭い牙と爪が特長で動きが早く、群れだと戦闘力にボーナスがあります。低額ユニットとしては優秀で便利だと思いますよ』
狼はこちらに近付いてくると、靴を舌で舐めだした。
ちょっと顔が怖いけど、もふもふだ。
カッコいいし、しかも人に慣れているらしい。僕を見ても追いかけてきたり噛んできたりしない。
屈んで背中を恐る恐る触ってみると、自分から体を摺り寄せてきた。
柔らかい……。
『最初の内は低DPのモンスターを揃えていき、後々高DPのモンスターを増やしたり、低DPのモンスターを進化させていったりするのが基本路線となります。
また、モンスターもスキルを覚えていったり、食事やDPを消費したりするものもいますので、定期的にステータスを確認したり管理していったりしてくださいね』
「うん……」
『それでは次に、従者モンスターの説明に入りましょうか。……草十郎、聞いてます?』
「聞いてない……」
『認めないでください。犬を撫でるのをやめてください』
「犬じゃないよ、狼だよ。知ってる? 日本で狼を飼うことはできないんだ。僕の家は犬もダメだったから、まさか狼を飼えるなんて思ってもみなかった」
『知りませんよそんなこと。今は私が話してるんです。犬っころと戯れるのは後にしてください。』
もう少し撫でていたかったが、せっかく説明してくれているのだ。話に集中するためにウルフから手を離す。
『では、肝心のサーバントについてですね。こちらは他のユニットと違って、段階ごとに自動で解放されていくユニットです』
「お金払わなくていいの?」
「大丈夫ですよ。ただ、注意してください。サーバントの性能は折り紙付きですが、同時に必ず何らかの問題を持ちます。それはダンジョンメイカーが乗り越えなければならない試練とも言われます。忘れないでくださいね』
「……よく分からないけど、覚えておく」
『今はそれでいいですよ。取り合えず、最初の一体を召喚してみますか』
そう言って、水晶はもう一つの窓をくるりと回す。
するとウォルフを出した時と同じように、水晶が輝きだした。
そして光塊を吐き出すと、それが近くに降りてくる。
晴れた後には、小さな炎の塊があった。
「……?」
『え、あれ……?』
めちゃくちゃ小さい。
拳大ぐらいの大きさの炎だ。
しばらく見ていたが消えるということはなかった。何を燃料にしているかは分からないが、ずっと地面の上で小さく燃えている。
ウルフも「なんだこれ?」みたいな顔で見ている。
『炎の精霊……? にしては小さすぎます。それに言葉を発しない? 第一のサーバントが大器晩成型なはずはありませんし、これが通常状態としか……』
「弱ってるのかも。薪とか投げ込んだら大きくならないかな」
『……やってみますか』
DPで薪の束を購入し、数本取り出して近付けてみる。
と、炎が薪を食べだした。おぼろげながら口のようなものが見え、そこから薪を食べはじめる。
……燃え広がったりはしないみたいだ。
薪は先っぽから炎に飲み込まれていく。
「……試練ってこれのこと?」
『いえ、そんなはずは……。サーバントはメイカーの初期サポートの役割も果たします。確かに魔物によっては最初は弱く、後々強くなっていくものもいますが、第一の従者がこのような形をとるのはシステムエラーとしか……』
不安そうな声だ。僕まで不安になってくる。
炎の塊はおいしそうに薪を食べ終わった。試しにもう一本あげてみると、嬉しそうに食べ始める。
別に大きくなった感じはない。
……戦えるのだろうか。
僕でも消してしまえそうなんだけど。
『……草十郎、このサーバントのステータスを確認できますか? モンスターとしての説明を見ることができるはずです』
言われるままに窓を操作し、サーバントのデータを参照してみる。
『第一の従者:■■■■■。
・〈従者〉属性を持つ。
・攻撃できない。
・死なない。
・■■の■■を■■■■■■■■■■。
・■■の■■に■■■■■■■■■■。
・■の■■■■■■■■■■。』