1/始まりは洞窟の中で
起きるとそこは、洞窟の中だった。
背中が痛い。
手をついて起き上がると、ザリっとした感触が伝わってくる。
「ここ、どこだ……?」
自宅でないことは確かだ。
地面は剥き出しの土であり、目に入るのは岩ばかり。
……誰かに拉致されたのだろうか。
僕は別にお金持ちでも、身分ある人間でもないのだけれど。
周りに人はいなかった。特に拘束もされていないので、起き上がって、身に異常がないか確かめる。
学校の制服は着ているし、靴も履いている。ケガもない。
変なところで寝ていたせいか体が妙に強張っているが、問題ないだろう。
あたりを見渡し、軽く散策する。
が、数分歩いたところでやめにした。
壁、壁、壁だ。
そこそこ広いものの、全面がゴツゴツした岩で覆い隠された密室だった。出口すらない。
ただ、一つだけ、異様なものが部屋の中央に浮いていた。
「……」
ダイヤのような、八面体の水晶とでも言えばいいのだろうか。
その蒼色の石は光り輝いていて、この部屋を淡く照らしてくれている。
……不気味だった。
僕がこの部屋に入ってきた以上、出入り口があるはずなのだが、そんなものは見当たらない。この水晶だけが異彩を放っている。
少し悩むが、他に手掛かりになりそうなものもない。
おそるおそる、右手で水晶に触れてみる。
『――――起動確認。システム認証。クリア。正規ユーザー確認』
「!?」
いきなり音声が聞こえたためビックリした。
思わず手を放して後ずさる。
……水晶に触ったら聞こえたので、多分機械か何かだろう。
僕の家にはないけれど、確かにそういうものもあると聞いたことがある。
その声はしばらくの無音の後、流暢に喋り出した。
『新たなダンジョンメイカー、嶽野草十郎様。貴方を私――――第■■■■水晶のマスターとして認めます。権限参照。第一段階までの情報を閲覧可能です』
「え、何何何何!? ちょっと待って!」
『はい、待ちます』
焦って慌てていると、律儀に水晶は待ってくれた。
最近の電子機器は優秀だ。まるで人と会話しているようだ。
取り合えず僕は、この水晶に質問してみることにした。
「えーっと……水晶、さん? ここはどこ?」
『その質問にはお答えできません。こちらからも質問を。水晶? それは私の名前ですか?』
「名前がいるの? なら、そのまま水晶でいい?」
『……了解しました。これからは私のことは水晶とお呼びください』
若干不服そうな声が返ってきた。
最近のエーアイって感情表現も豊かなのか。科学の進歩って凄い。
「えっと、水晶……僕はなんでここにいるの?」
『お答えできません』
「……誰かが僕を拉致したり……監禁したの?」
『お答えできません。しかし、貴方の想定しているであろう敵性生物は存在しないとだけ解答しましょう』
……なんか、大体答えてくれなかった気がする。機械でも分からないことってあるんだな。
でも、敵はいないらしい。それだけで幾分か、この突飛な状況がまともになった気がする。
「じゃあ水晶。この部屋からはどうやったら出られるの?」
『現段階では出られません』
「……」
『それと、外出はしないことをオススメします。外は危険です。出ようという試みを察知次第拘束します』
それを聞いて、また怖くなってくる。
家に帰れないの? どうしよう。学校の宿題もまだ終わってないし、塾の課題も終わってない。
というか、今何時だろう。そもそも何曜日だろう。早く帰らないとお母さんに怒られちゃう。
どうしたらいいんだろう。
「……水晶、君を壊せば僕は外に出られる?」
『いきなり物騒ですね……。答えはノーです。それと私の破壊はオススメしません。様々な理由により確実に不利になります』
「不利?」
『そうです。これはプレイヤー同士の戦い。貴方は栄えあるダンジョンメイカーとしてダンジョンを運営し、この競争を勝ち残らなければなりません』
……眩暈がする。
「水晶、僕はこれから何をしなきゃいけないの」
目の前の水晶が応える。
『貴方へ課せられた使命はただ一つ。1000日生き残ること。このダンジョンを育成し、襲い来る外敵から身を守り、ダンジョンメイカーとして成長することです』